[No.127] 【読者の集い】ヒンメルク空港強襲事件はでっち上げである!
♂ エフィム 22歳(住所不明・亜人解放戦線)
わたしは此処に、政治的テロルとして帝国内に流布されてしまっている〝ヒンメルク空港強襲事件〟が、帝国軍部によるでっち上げであると、声を大にして宣言する。
われわれ亜人解放戦線は、無差別殺傷もハイジャックも行ってはいない。
今より一年前《ヒンメルク空港》が5名の若者に襲撃され、居合わせた乗客や空港関係者らに多数の犠牲が生じたという痛ましい出来事は、確かな事実である。しかし、それがわれわれ亜人解放戦線によって引き起こされたという話は、まったくの偽り。根拠が何一つとして無いウソデタラメなのだ。
殺戮を繰り広げたあの5名の男女は、亜人解放戦線とは接点が一切無い。帝国軍が否定した〝英雄発狂〟を発症した冒険者パーティーなのである。
帝国軍の発表によると、飛空艇内部に人質を取って立てこもったあと、犯人5名が自らを「亜人解放戦線である」と名乗り、政治的な取引を持ちかけてきたことになっているが、そんな展開など起こっていなかった。そう断言できるのは、あの日あの場に、当時は一般市民に過ぎなかったわたしが、乗客のひとりとして偶然居合わせていたからだ。
わたしは、今では数少ない、事件の生き残りなのである。
人質とともに乗り込んだ5名の男女は、何の声明も上げることなく、帝軍が駆けつける間もなしに、空港から飛空艇を発進させていた。
これは憶測になるが、彼らの狙いは、飛空艇の強奪そのものにあったと考えられる。政治的意図など介在していないのだ。人質を取ったのは、空港が雇っていた傭兵からの反撃を阻害するため。わたしはその様子をこの目で見ている。そして人質を解放しないまま飛空艇を発進させたのは、たんに解放している余裕が無かっただけなのかもしれないが、万が一、追手が来るようなときでも無闇に手出しできないようにするためだったのではないだろうか。
とにかく、帝軍が対応に入ったのは、飛空艇が飛び立ってしまったあとになる。空軍のワイバーン部隊が追跡を行ったことは、飛空艇を追う姿が帝国東部の各地において目撃されているので、これも事実である。帝軍では、このとき、飛空艇をジャックした犯人たちが《セネショア共和国》へ亡命をしようと国境に向かって行ったことになっているが、彼らにはおそらく亡命の意図はなかった。単純に、追跡を振り切ろうとして、緩衝地帯へ逃げ込んでいただけなのだ。
飛空艇は越境のすえ、共和国軍から飛び立ってきたグリフォン部隊によって、撃墜されたことになっている。この顛末は、真っ赤な大嘘。虚構である。
飛空艇はまぎれもなく撃墜された。しかし、その場所はまだ緩衝地帯だった、そしてその日、共和国軍はグリフォン部隊のスクランブル出動をかけていなかった。では、人質もろとも撃墜せしめたのはいったい誰か?
帝国空軍がやったのだ。
救助作戦による間違いなどではない。
意図的に、落としたのである。
ワイバーン部隊による人質救助と飛空艇奪還は可能だったはずだ。それを実行しなかったのは、われわれ亜人解放戦線を、凶悪たる反体制武装組織として根強く印象づけ、帝国人民をすべからく洗脳するたの、冷酷無比なるプロパガンダ戦略の素材として使おうと思いついたからなのである。
奇しくも、事件が起きたのは、帝国軍が『亜人撲滅強化月間』などと銘を打つ、弾圧迫害期間の真っ只中。それに反発しているわれわれにこじつける絶好機と判断したのだろう。帝軍は、罪なき人質の命を、われわれ帝国人民の同胞たちを、犠牲にしてまで、その選択をとったのだ。
彼らは国民の人命など、まるで尊重してはいない。
帝軍が守りたいのは、皇帝主導の独裁体制に過ぎないのである。
あの事件後、現場に居合わせていた人物が次々と消息不明になったことはご存知だろうか。きっと初耳であろう。行方不明だけでない。不可解な事故死を遂げた者もいれば、身に覚えのない罪で捕られられた者が、大勢いるのだ。帝軍はでっち上げたばかりでなく、歪曲して築き上げた偽りのヒンメルク空港強襲事件を、史実とするため、真相を知っている者またはその恐れのある者たちを徹底的に調べ上げ、口封じを暗々裏に進めていたのである。
わたしも、その場に偶然居合わせていたというだけで、命を狙われた人々のひとりである。わたしの場合は、帝軍の手が伸びる前に、亜人解放戦線に救われたことで九死に一生を得て、帝軍による陰謀を知されるに至り、今では変革戦士の一員として戦線に加わっている。だが、わたしのように運良く助け出された者は一握りに過ぎない。事件の数少ない生き残りというのは、そういうことである。
帝軍は、われわれ亜人解放戦線を、人類から魔物側へ寝返ったかのように吹聴している。亜人種解放のためには人殺しもじさない危険分子組織であると嘯いている。しかし実際はどうか。おのれの主義主張のために平然と人殺しをやってのけているのは、他ならぬ、帝軍なのだ。
この真実を知っても、諸君らはそれでも尚、眠ったままでいるつもりか?
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