[No.122] オール・ユー・ニード・イズ・イマジン -人類存続の鍵をにぎる『亜人撲滅強化月間』が今年も始まる-
本年度も『亜人撲滅強化月間』が、帝国軍の亜人調査団主導のもとに、今月1日から開始された。
これにより、一ヶ月間に渡って、人類の血統保全を目的とした、〝亜人(デミヒューマン)〟の潜伏実態の調査、ならびにその捕獲と抹消駆除が、随時、帝国全土の市町村において総力を上げ実施される。
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初日となった昨日の調査報告によると、調査済みの周壁都市では亜人の潜伏実態は無し。町では2例、村においては10例もの、存在報告が入った。幸いにも見つかったほとんどの亜人は、まだ赤子形態であり、繁殖能力を有していなかった。
だが、1例だけ、人間でいうところの十歳前後にまで成長した亜人の兄妹を発見するに至った。
頭頂部に耳を持ち、頬に触毛を生やし、尾てい部にはしっぽを有しており、いずれも『猫』の特徴を継承した姿で。〝アダンダラ〟という猫型の魔物と交わった女性が産み落としてしまう〝猫人〟と称される亜人である。
今回発見されたこの猫人兄妹は、ヒトならば十歳前後の見た目だが、生後一年ほどと推定される。成長速度がヒトのおよそ10倍。すなわち、あと半年もすれば繁殖能力を有することになっていたのだ。猫同様に発情期があり、近親交配を繰り返して増殖した事例が記録に残っている。ヒトとの生殖も可能であり、そして、生まれてくる子供がいずれも猫人になってしまうことから、早期発見、早期駆除が望まれる亜人種でもある。
人類保全法に基づき、軍当局は同日付けで、猫人兄妹の母親である二十代の女性を、亜人の出産報告義務と、殺処分の実行(または、その依頼)を怠った罪により逮捕。彼女の夫も、妻と共謀し、亜人の存在を他人に知られないように匿っていたとして逮捕した。
亜人の隠匿は、人類の社会基盤とその未来を根底から揺るがしかねない規模の、極めて重い罪である。
しかし今回のケースでは、遭遇したアダンダラから陵辱を受けたことによる望まない〝真性魔胎〟だったことや、一度殺処分を試みようとしたが、外見のおおよそが人間と酷似しているために情が生じ、どうしても実行できなかったことなどから、情状酌量の余地があるとして、夫婦ともに極刑には処されず、帝国軍の更生施設に送られたのち、社会復帰を目指した再教育を施される見通しになっている。
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【POINT】魔胎と亜人について
魔胎とは、魔物からの陵辱により、人ならざるモノを身に宿すことを言う。
いくつか系統が存在しており、〝母体委任被害〟も魔胎にあたる。ただし、これはあくまで、人間の内臓(子宮や腸など)が、魔物同士の子を孵化させるための育成機構として使われるもの。受精済みの卵を産み付けられるなどして、人間の遺伝子を一切含んでいない、親である既存モンスターの異形の子がそのまま生まれてくるだけである。
この母体委任も迷惑千万ではあるが、厄介なのは、真性魔胎と呼ばれるもの。これは、魔物との性交渉によって、正真正銘に孕んでしまうことを言う。魔物の雄から射出された精蟲が、人間の女性の子宮に入り込み、卵珠と結びついて、妊娠してしまう。すると、生まれてくるのは、人間と魔物の遺伝子が混ざりあった混血児――すなわち、亜人となるのだ。
人魔大戦期中における魔胎は、母体委任被害だけを指していた。なぜなら当時は、真性魔胎の実例がまだ無かったのである。魔物に陵辱され、たとえ膣内で精液を放出されたとしても、妊娠にいたることはなかった。それが大戦後に散見されるようになり、年々その報告数が増えてきている。
真性魔胎の発現と増加は、魔王亡きあとも自立行動で人類を苦しめ続けられるようにと設計されていた魔物たちが、独自進化を遂げたことに寄るものであるという仮説が、現在の定説となっている。
真性魔胎によって生まれた子の形体は『人間ベース』であることが多く、魔物の外見的特徴のほうは、影を潜めたアクセント的にとどまっている。それゆえ〝人〟という字が用いられた〝亜人〟の呼称が定着してしまったが、これに惑わされてはいけない。
その見た目は人間と酷似していようとも、ヒトならず。
亜人は、魔の物である。
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【帝国軍広報部による声明文】
亜人の誕生は、さきの大戦において、死に際の魔王が人類全体に仕掛けた〝時限性の呪い〟が発動したカタチと言うべきものであります。遺された魔物たちによる人類への〝汚染侵食〟なのです。
到底看過することはできず、蔓延ってしまう前に根絶しなければなりません。魔王討伐により形式上は終戦を迎えるに至りましたが、未だに厳しい対ゲリラ戦が続いている状況下にあるのです。
嘆かわしいことに、現在、隣国の《セネショア共和国》では、亜人を、人類の新たな仲間(新人類)として迎え入れようとする動きが見られています。
この融和路線の舵取りを行っているのが〝エルフ〟。
我々帝国軍諜報部の調査により、セネショア共和国において、エルフは今や、政界や軍部などの国家重要機関にまで進出し、その地位を確固たるものにしつつあることが、明らかになっています。
共和国は、半ば魔物の手に落ちたと言っても過言ではない危機的状況。
彼奴らが人間と魔物の混血化を推し進めるのは、人類の勢力弱体を図ることが狙いです。混血が進めば、自然と純血統は数を減らし、どんどん数的不利になっていく。そして最大の狙いは、人間と亜人との間に争いを生じさせ、混乱の渦に陥れること。お隣の国ではすでに、そのフェーズに移行し始めているのです。
共和国内では、人間と亜人種間において、すでにさまざまな軋轢が生まれています。顕著なのは、人間側の、仕事の喪失。
亜人は人間よりも基礎能力値が優れている。
このことは認めざるを得ない事実であります。
一つ例を挙げますと、〝ミノタウロス〟と呼ばれる半牛半人の魔物がいます。この魔物と人間の間に生まれた亜人が、〝牛人〟です。ミノタウロスの頭が牛頭なのに対し、牛人となれば人頭人面。頭頂部に二本角を残し、尾てい部に牛のしっぽ、……、という具合に人間味が増していますが。その腕力は、牛並みの馬鹿力。力仕事となると、人間は足元にも及ばなくなってしまうのです。雇い主がどちらを採用するか、想像にできますね?
ここでもうひとつ想像力を働かせてみてください。
今年度の『亜人撲滅強化月間』の初日で発見された〝猫人〟。猫型魔物のアダンダラによる陵辱によって生まれた彼らには、『発情期』の特質が備わっています。
いいですか? 想像してください。
あなたは若い女性で、夜道を歩いています。そこで背後からいきなり何者かに襲われてしまいまいました。地面にむりやり押し倒され、着衣に手をかけられ、身の危険を感じたあなたは叫ぼうとしますが、「じっとしてろニャア!」と伸縮自在の鋭い爪を首元に当てられてしまいます。特徴的な語尾と、闇に光る猫目で、強襲してきた人物が猫人であるとわかります。しかしそうとわかっただけで、あなたにはどうすることも出来ず、犯されてしまいました。
後日、あなたの強姦被害の申し出により、自警団が動き、犯人である猫人の男が捕まります。しかし、彼は無罪放免となりました。なぜならば彼が、発情期に入っていると判明したためです。発情期による繁殖衝動は、自制心で抗うことのできない本能的行動であるため、過失に問えないと判断されてしまったのです。
あなたは許すことができますか?
事実、セネショア共和国では、亜人種をヒトと認めて『人権』を与えてしまったがために、このような深刻な問題が生じて始めているのです。
「亜人の殺処分は非人道的だ!」
と、帝国国内においても批判的意見が聞かれることがあります。
我々帝国軍は、重々承知した上なのです。魔物とはいえ、亜人には人間の血も半分流れている。しかしそれでも、心だけは魔物になった気構えで、断固たる決意を胸に刻み、浄化殲滅を決行しているのです。
亜人を、現在先行している魔物のように、群雄割拠させてはならない。今、情けをかけ、増殖を見過ごせば、近い将来、あなたの子孫が、さらなる苦しみを背負うことになる。必ずや人類は存亡の淵へと、三度追いやられてしまう。
亜人をヒトと認めたとき、我々の先祖が死力を尽くして戦い抜いた人魔大戦勝利の過去が、時を経て、敗北に変わる瞬間なのです。そして、人類が、エルフの奴隷だった太古の時代にまで、自らの手で歴史の針を巻き戻してしまう結果となるでしょう。……そうであってはならないのです!
皇帝を中心とするヒトの国を――。
人間の人間による人間のための社会を――。
我々帝国軍は、正義の御旗のもと、身命を賭して守り抜きます。
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