[No.120] 〝元服の儀〟に忍び込んでいたよそ者が叩き出される
〝元服の儀〟とは、一定の年齢に達した男子が、子供から成長して大人の仲間入りを果たす際に行われ、成人と認められるための通過儀礼である。儀式の実地年齢は各市町村によって異なるが、おおむね十代前半から半ばにかけて執り行われている。
現在では、新成人が地域の集会所などに集うなどして、大人たちの代表者から「君たちは今日から一人前の男だ!」と宣言を受けたあと、みんなで飲み食いをして明かす、というような単なる宴の席になっている場合が多く。名称も『成人式』と変容しているところもある。
本記事で扱われる〝元服の儀(成人式)〟は、本来のれっきとした意味合いを持つ儀式の形を継承しているものであり、現在の認識とは異なる部分があるため、まずは、由緒正しい〝元服の儀〟が何たるものかを説明をする。
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起こりは、人魔大戦期――。
波のように押し寄せる魔王軍に対し、血で血を洗う攻防戦を繰り広げていた人類は、ついに優勢に立ち、勝利の兆しが徐々に見え始めていた。……だが、魔王が戦術変更をしたことで、一気に押し返されることになった。
魔王の新戦法は、性欲への働きかけである。人類の主力戦闘員である若い男性の勢力を削ぐため、彼らを籠絡するような女型魔物を次々に投入して来たのだ。
この美女魔軍団によるハニートラップ戦法が、人類をあっという間に劣勢に追いやった。魔王の目論見通り、男たちは次から次へと搾取されてしまったのである。若者に対する効力が如実で、帝国各地から次世代を担うはずの男子が激減してしまうという深刻な事態になった。
……このままでは人類が種絶やしになって滅ぶ。
どげんかせんといかん!
と、考案されたのが、元服の儀。
異性への関心が芽生える歳頃になった男子たちを一同に集め、女性と一夜を共にさせ、肉体交渉の体験機会をまんべんなく与えるという性的儀式である。
これを境に、筆おろしを終えた『男子』が、先輩たちから「お前はもう一人前だから魔物なんぞにうつつを抜かすんじゃないぞ!」と激励されて、『男』と成るのだ。
籠絡される若者の中でも、童貞の者が群を抜いていたことから。誘惑に遭うよりも先にオンナの体を知っておくことが対応策になる、と、考え出されたこの『目には目を性には性を』の処置が、起死回生の足掛かりとなったのである。
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魔王討伐によって人類勝利となった人魔大戦後、元服の儀は、その役割をしだいに終えていくこととなり、今では名残として、性儀が行われていた歳頃の十代前半から半ばの男子たちを集め、なにをもって『男』とするかも知れないままに、「今日から一人前の男だ!」と、ただ一方的に宣言されるだけの骨抜きになっているのである。
……が、しかし。
今もなお、女型魔物が多く出没する村々や一部の町では、〝元服の儀〟が人魔大戦期と同様の形式で、実地されている。
《テボファン村》というところでは、村外れの一画に、大理石造りの御殿が建てられてある。こぢんまりしていても木々に囲まれた厳かな佇まいから、精霊の住まいとして設けられる〝精殿〟のように見えてしまうが。お察しのとおり、元服の儀を執り行う場として専用に設けられている〝元服殿〟と呼ばれる、性なる建物。人魔大戦期に建造され、世紀を股にかけ、現役で使われている。裏を返せば、それだけ女型魔物の存在に苦しめられ続けているということ。
将来の担い手たる若者を守るべく、元服の儀にさいしては、各町村が、どんな式典よりも多額の公費をそそいでいる。新成人の相手役をつとめる女性は、性技量に富んでいる『娼婦』を昔から地域ぐるみになって雇うのが一般的。外見がより魅力的なほうが良いため、高等娼婦ということになり。その年の新成人の頭数によっては、複数人を雇う必要があったり、日を分けての儀式となるため、馬鹿にならない御布施額にのぼってしまうのだ。
儀式は通常、一対一で行われるが。このテボファン村では、初体験の重要性を考慮して、新成人ひとりに対して相手役が三人付く、一対三の肉林様式をとった念の入れようになっている。元服年齢は、当初は数え年で16歳になった男子と定めていたが、それよりも若年層の者が女型魔物の被害になるたびに、引き下げられ、現在では、12歳の男子と改定されている。
テボファン村では今年も、今月の28日に、元服の儀が執り行われた。
夕方に集められた新成人たちはまず、泉で禊を行って身体を清める。儀式前の必須マナーだ。それを終えて日が没すると、本番を迎えるべく、たいまつの灯された元服殿の入り口に、パンツ一丁裸となって列を成す。
このときの順序は、かつては生まれが早い順となっていたが、そんなのズルい、という不満の声が高まったことにより、今ではジャンケン制度を導入し、文句無しの運任せとなっている。最初に男になってやろう!、という一心から、誰もが一番になりたがって、このジャンケン大会はとても白熱するのだという。
喜びと嘆きの声が入りまじったジャンケン大会が決着すると、優勝者から、「さあ、男になってこい!」と監督役の先輩に背を押されて元服殿に入っていく。後に控える新成人たちは、本番における不安事や心構えを先輩に尋ねて待機する。
「先輩! おれはまだ毛が生えて無いとです! 亀さんも3分の2ほど隠れたままになっているとです! 馬鹿にされんかと心配でたまらんとです!」
「案ずるな後輩! この中の3分の2は、ツルツルのチョビ剥けだ! 俺もそうだった! 相手をしてくれる美人さんは、それくらいを好む属性の方をちゃんと選んで用意している!」
「「おぉ~!」」
「先輩! 穴は、この辺だと思う場所から若干ズレたところに開いていると聞くとです! 見つけられずモタついて笑われないかと恐ろしくてたまらんとです!」
「案ずるな後輩! 見つけずとも、優しいお姉さんたちが、棒とり玉とり、みずから入り口へ招いてくれる! 俺もそうだった!」
「「おぉ~!」」
――と、心強い先輩によって、新成人たちは勇気づけられるのだ。
いざ自分の順番を迎えると、萎縮してしまう者もいるが、それでも、おずおずとした足取りで元服殿に入ったのち、めくるめく儀礼行為を終えて、戻って来た時には、「ひと皮剥けたど~~~!」と、すっかり自信をみなぎらせた一人前の顔つきとなり、両手を突き上げたスキップになっているのである。
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この日も、テボファン村の元服の儀は、滞りなく進められていたのだが……。
待機する列を監督していた先輩のひとりが、怪しげな新成人を見つけた。列の前後にいる新成人よりも頭一つ分、背丈が抜きん出ており。12歳にしては肉の付き方や骨格も発達しているのだ。近づいていくと顔をそむけるようにしたため、先輩はたいまつを近づけ、こっちを向くように指示した。
「や、やめてください! ボクチン、たいまつ恐怖症なんですよ!」
その声がどう聞いても、野太い地声のキーをむりやり高くした裏声だったので、先輩はたいまつの炎を、ボクチンのたるんだ脂肪腹に押し付けた。
「(地声で)熱っ、熱ぅうううっ!? てめぇ、ぶっとば……(裏声で)も~う、やめてくださいよセンパ~イ。『男』になる前に『小太りの丸焼き』になるところでしたよぉ~、ブヒッ!」
「……あんた、歳いくつ?」
「12歳に決まってるじゃないですか~、アハッ!」
「あのさぁ。顔隠してても、スネ毛や腕毛を剃ってても、ギャランドゥを剃り忘れてんだよ。12やそこらで、腹と胸のそのモッサモサの毛深さは無いっしょ。だいぶ歳イってるよねぇ、三十越えてる?」
「ボクチン、12でちゅ!」
「…………」
じゅっ!(ギャランドゥが燃える音)
「熱熱熱ッ!? わ、わかったからやめてくれ! 悔しいけれどほんとは32だ!」
「二十もサバ読んでんじゃん……」
「頼む! オレッチにも、乱交パ―チー……じゃない、ナントカの儀に参加させてくれ。はるばる遠いとこから来てんだ。この際だから打ち明けるけど、この歳で、まだ、ピッチピチのチェリーなんだぜいっ! ささやかな女も抱きしめられてないんだぜいっ! ってなわけで、慈悲を与えると思ってこのまま見逃してくれよぉ。……どうか、見逃してください。ここらで本物の『男』にさせくださいよ。一回できるだけで、強くなれる気がするんだよ、パイセ~ン!」
「はい、よそ者一名様、はっけ~ん」
かくて、元服の儀に紛れ込んでいたよそ者の32歳の『男子』は、先輩たちによって取り押さえられたのだった。
このような地域外からやってくる〝大きな男の子〟の混入事案は、テボファン村に限ったことではなく。昔ながらの元服の儀を行っているところでは、毎年必ず起きているそうだ。
嘘か真かは知るよしもないが、彼らは決まって自分が童貞であると訴えて、同情を誘ってくる。だが、参加人数が増えればそれだけ御布施が増えてしまうことになるため、聞く耳を持つことはない。
「じゃっ」
の一言で尻を蹴飛ばされて追い出された32歳の自称『男子』は、
「こうなったら魔物で卒業してやる!」
と、泣く泣く夜闇に消えていったということである。
「新成人諸君! あの哀しきチェリー・ボーイを、しかと目に焼き付けろ!」
先輩は高らかに宣言した。
「性交体験が無い者は自信がつかないばかりか、あのように、穴さえあれば魔物でもいいとヤケクソになってしまうのだ! 魔物での童貞卒業は容易いが、一発ヤッたらグッド・バイ! 十中八九はそのまま食い殺され、人生卒業にまで至ってしまう! 男性を籠絡する女型魔物が跋扈する村々において、この〝元服の儀〟が、いかに意義深いものであるか、わかっただろう!」
「「おぉ~!」」
「では、去りゆく彼に、せめてもの招福到来の言葉を! せーのっ」
「「来世はうちの村に生まれてくるんだぞぉ~!」」
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