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[No.118] 錬金術師チームが画期的新薬〝武器軟膏〟の開発に成功

 錬金術師ギルドによると、同組合の研究機関に所属している錬金術師チームが、作る予定もなかった〝武器軟膏(ぶきなんこう)(ウンゲントゥム・アルマリウム)〟なる画期的な新薬の開発に、偶然成功してしまったと公表した。


 非金属物質から(きん)を生成しようと日夜研究に励んでいる錬金術師ギルドの野望は、未だ成し遂げられていないが、その過程において、各種魔法石の錬成、ガラスの製造、蒸留装置の発明、など、人々の生活に関わる多大な恩恵の数々をもたらしてくれている。彼らにとっては失敗作のひとつに過ぎないものが、今や人類にとってなくてはならないものになっていることが多い。


 そんな錬金術師ギルドによる今回の大失敗作――否、副産物が、武器軟膏だ。


 端的にいうと『傷薬(きずぐすり)』である……と、耳にすれば、武器軟膏という字面から『壊れてしまった武器に用いるもので、その破損箇所を修復するための武器用()(ぐすり)』と思われるかも知れない。しかしそれは思い違い。たしかに、武器に塗布(とふ)されるものではあるが、それは武器を直すものではないのだ。人が負った傷を治すため、武器に塗られる薬なのである(まぎらわしい)。


 たとえば、あなたが何かしらの武器によって怪我(けが)をしてしまったとしよう。ここでは仮に剣とし、その剣でニノ腕を斬りつけられたとする。スパッと斬れてしまった皮膚からは血が流れ出している。通常ならここで傷口を縫合(ほうごう)するか、あるいは、薬を直接皮膚に塗って治癒(ちゆ)しようと努めようとするだろう。


 だが、新薬『武器軟膏』は少々異なる。


 軟膏薬を人体に塗るのではなく、傷を生じさせた武器のほうに塗るのだ。


 挙げた例の場合、二ノ腕ではなく、斬りつけた剣の刀身に、ということになる。そうすることによって、傷口が徐々に塞がっていくのである。つまり、傷を与えた武器に塗ることで、傷を与えられた側の人体に〝持続回復リジェネ〟の効果が得られるようになっているのだ。このとき、〝アルカナ〟と呼ばれる魔法成分の導きによって、双方に交感(こうかん)作用というものが働き、リジェネがもたらされるという理屈になっているらしいが、とても難解なため、常人の理解に及ばない。


 ギルド代表の大錬金術師――パケラ・ススル氏(74)は、「めっちゃ悔しい、金がいいです!」と、いつもながら金錬成への強いこだわりを見せていたが、この、間接的かつ遠隔的で、薬師ギルドのお株を奪うような、これまでになかったタイプのあべこべな塗り薬は、()(きず)打撲(だぼく)、骨折にいたるまで有効であり、またたくまに脚光を浴びることになるだろう。


 ふつうの塗り薬でいいんじゃ……?、と思われる方がおられるかもしれない。しかし、人体に直接触れずして治せるということは、薬の副作用や拒絶反応などを心配せずに済むし、皮膚を()い合わせてさらに痛い思いをする必要もなくなるということ。それに通常治療よりも(ひい)でている点がある。


 武器軟膏療法では、細胞の完全再生が可能なのだそうだ。


 裂傷(れっしょう)などは傷口が塞がったとしても、ミミズ()れのように皮膚がもこもこ盛り上がってしまう。この『創痕(そうこん)』は、傷の程度が重いほどくっきり残ることが多く、完全に元通りというわけにはいかない一生モノ。それが武器軟膏によるリジェネ効果の場合では……、まあなんということでしょう!、ビフォアーとアフターがまったく変わらない、傷が生じる前の綺麗な素肌に戻ってしまうのである。


 男性たちは傷痕をその数だけ『男の勲章』だと誇りにしがちであるが、そんなもんは要らない!、という美容維持志向の強い女性にとっては朗報ではあるまいか。


 注意点として、武器軟膏使用には、自分を傷つけた武器が必要不可欠になってくることがネックになっている。戦場において負傷しても、相手の武器を奪取(だっしゅ)できなかった場合には、糞の役にも立たないということを留意しておきたい。それでも稽古(けいこ)時や、実生活中における不慮の怪我(うっかり包丁で指を切り落とした)などの際には、もってこいの医療アイテムとなることだろう。


 錬金術師ギルドには今後とも失敗を積み重ね続けて欲しい!、という期待の声が寄せられそうだ。

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