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[No.116] 【お悩み相談】無理のある防具減量をやめさせたい

♀ オードリー 19歳(シージメスト町・拠点型冒険者)


 女性冒険者の間で、露出度が高かったり、一見では防具に見えなかったりする防具が、最近のトレンドになっているじゃないですか。


 たとえば、半袖ブラウスとスカートで、どう見ても学校の制服を着ているだけだけど、魔法が付与ふよされている特殊生地で作られていて、剣で斬りつけられても刃を通さない。さらけ出しになっている腕や足には、同様に魔法付与された脚部輪ガーターリング腕輪ブレスレット足首輪アンクレットなんかが付けられてあって、それらの装身具から発せられる魔力で素肌をコーティングしている。――というような、軽装化された魔法防具のことです。


 この風潮からたんはっしてしまったというか……私の所属するクランの女性団員の間で『どれだけ防具を軽くできるか』という稚拙ちせつなチキンレースじみたものが生じてしまったんです。


 最初は「籠手こてで腕を覆わなくてもこの肘当てエルボーガードさえ付ければ大丈夫らしいよ」などと、新調した装備を見せ合うようなことから始まり、しだいに「そんな全身鉄まみれの防具は時代遅れだって」と、軽装化派閥はばつが重武装を嘲笑ちょうしょうする流れに移行。


 魔法防具の実用性は、クランメンバーの実戦を目にしているので、有用であるとは理解しているのですが、私は肌が物理的に保護されていないといまいち落ち着かないので、「オードリーもさ、もっと現代的にスタイリッシュに行こう!」と言われても「私はこっちのほうがいいから」と従来の甲冑かっちゅうスタイルを持ち崩すことはありませんでした。


 でもやはり『時代遅れ』と指摘されてしゃくさわる仲間は出てくるもの。そんな彼女たちが、相手よりも最新式で軽量化がなされたモデルを仕入れてきて、「えぇー、レッグアーマーとかマジ!? 今はアンクレットで済む時代でしょ!」「レッグアーマーが許されるのは人魔大戦期までだよねぇー」と、嘲笑返しをするに至り。


 クランの寄り合い所につどうたびに、彼女たちが身につけている防具の面積が、目に見えて小さくなっていくという、応酬合戦に発展。


 胴全体を包むような布衣ぬのごろもは必要ない、スカートは邪魔なだけの飾り物だ、といって、彼女たちがたどりついたのが、〝ビキニアーマー〟です。


 カバーされてあるのは、胸と腰周りのみ。あれで防具としての機能を果たせる現代の魔法加工技術はすごいというほかに無いのですが……その外見は、鋼鉄製の下着を身につけた姿です。ひかえめに言っても、醜悪な下着姿。


 まだ彼女たちが筋骨隆々の体格ならば、発達した筋肉が防具の一部として捉えられるのでさまになるのですが、私たちのクランは子供のお使いのようなことばかりしている拠点型きょてんがた冒険者の集まりということもあり、肉体をきたえているような人は少なく、彼女たちも例にならった常人体型。腕はほっそりとして、肩幅も狭く、お腹はなだらかな丘のよう。なので余計に、下着的な要素ばかりが強調されてしまっている心悲うらがなしい状態。


 さすがに行き過ぎている――というより、パーティーを組んで行動をともにするのは、見ているこっちが恥ずかしいと思い、副団長に相談してみたのですが、「我がクランには防具の取り決めは無いからして、自由でけっこう」と真面目な口調でいいつつ、他の男性メンバーたちと一緒になって鼻の下を伸ばし、むしろ目の保養だと薄着化を歓迎してさえいる始末。


 団長に相談を持ちかけようにも、そもそも、その女団長というのが、チキンレースに嬉々として参入してしまっている彼女たちのひとりであり、あまつさえ、一番みつきなっている人物なのです……。


「見なよ、オードリー! これがトレンド最高峰のみがき抜かれた防具だ!」


 そう豪語して現れた女団長のビキニアーマーは、限界突破していました。


 磨き抜かれたというよりも、ぎ抜かれてあるのです。

 

 胸アーマーは丸いカップのかたちをたもっておらず、くり抜ける部分は大方くり抜いてあるような、金属製のつるうずを巻いて伝っている形状と化し。身をゆすりでもすれば、こぼれ出ている肌が遠慮なく震えてしまい。防具ってなんだろう……?、と私の頭の中の既成概念が激しく揺さぶられたほど。


 下に目を移せば、さらに驚愕。


 局部アーマーの面積が、無謀なまでにガッツリ削られていたのです。下腹部とでんを覆っていたはずの逆三角形だった金属面が、上端を残して中央にギュッギュッと圧縮されたウルトラハイレグになりおおせてしまっていました。鋭角えいかくという表現では生易しく、一本線が直角に接合している見た目は完全に『T字型』です。前から見ても後ろから見ても、T、T、TTTT……。


「〝Tバックフロントアーマー〟っていうらしいぜ! クールだろ!」


 寒そうだというなら確かにクール……。


 よろず屋で偶然に見つけたというそのTバックフロントアーマーは、もはや下着の領分をも逸脱いつだつしているきわどさ。縦横たてよこに鉄のベルトを巻きつけただけの珍品なのです。指二本分ほどの幅しかない縦板たていたの面には、ハート型の小孔こあな穿うがたれている箇所もあり、女団長はそれを「肉抜きの仕方にも洒落しゃれのきいたデザイン性がうかがえるだろう?」と満足気に言うのですが、私にうかがえたのは処理残しされてある恥毛ちもうでしかありません。


 それに肉抜きされていたのはフロント面だけではないのです。


 仁王立ちをする女団長の股の間から、ぴょこんとハミ出している突起物が目に留まり、あの逆さまの鶏冠トサカみたいなモノはなんだろう?、と思った一瞬後、私は謎物体の正体を把握し、反射的に太ももを閉じてヒエッと寒気を覚えました。


「こいつは底面にも二つ穴が開いていて、小さいほうでも大きいほうも、穿いたまま用を足せる優れものなのさ! 小さいほうだけ実際に試してみたけど、よく出来てるもんだよ。守らなければいけないオンナの口のところは鉄板でしっかり塞がってるけど、その上には狭い縦割れがあって、隙間からこのとおり唇だけを二枚合わせにして引っ張り出せる構造になってる。だから、伝い柱にして楽々と排出できるってわけだ! 考案者は天才だな!」


 ……私にはTアーマーの考案者も、恥ずかしげもなく装着してしまっている女団長も、脳味噌が致命的に変容をきたしてしまっているとしか思えません。

 

 しかも彼女はまだ満足していないのです。「もっと軽くならないもんかな」などと馬鹿真剣に悩み、せすぎにも関わらず体重を気にする思春期少女のように、病的な防具のダイエットに励もうとしています。


 せめて『T』から『▽』まで重量ウエイトを戻してもらいたい……。


 どうしたら良いでしょうか?




     ■■■ 回答 ■■■


 仲間の節度を欠いた軽装備化に困っているという話は、年々よく耳にするようになってきました。武具におけるファッション性の方向的不一致によって、修復不可能な仲違なかたがいが生じ、所属クランからの離脱、分団、そして解散にまで至ってしまうというケースが少なくないようです。


 防具を、より薄く、軽く、面積を小さく、といった試みは、〝防具減量アーマー・ダイエット〟と呼ばれており、男性よりも、身だしなみに気をつかう女性に行われていることが多いです。フルアーマーは太って見られるから嫌だ、武装姿であってもスレンダーでありたい、と願う、普遍的な痩身信仰そうしんしんこうのあらわれで。熱心になるあまり、時として、肉体においてのシャイプアップ障害と同じく、もっともっと痩せなければならないというような強い衝動欲求に囚われ、そのことしか考えられない倒錯的とうさくてき症状が出てしまうことがあります。


 女団長さんは、馬鹿げたチキンレースに競争心を刺激されてのめり込んでしまったがため、自分自身の鶏冠チキンビラを露出させてもなんとも思わなくなっているような、相当危うい〝防具減量症候群アーマー・ダイエット・シンドローム〟に陥ってしまっているようですね。


 よろず屋から購入して着用しているというTバックフロントアーマーなる装具品ですが。記載されてある構造から検分するに、ただの〝貞操帯チャスティティ・ベルト〟だと思われます。強欲系魔物からの陵辱を防ぐことを目的としている性器保護アイテム。その役割ゆえ、主に強度のある金属製になっており、防具といえば防具のうちで、甲冑の部類にあたるのですが、本来は正真正銘のアーマーの下に補助的に装着するべきもののため、単体使用は想定されていません。


 貞操帯で魔法加工がほどこされているのば、ふつう、取り外しを簡単に出来ないようにするための錠前機構じょうまえきこうのみ。周り一面の素肌は保護対象外のため、無防備なままになっていると考えられます。


 女団長さんには、下半身に一撃をくらえば大ダメージ必至ひっしであると教えて上げましょう。もし仮に「知ったこっちゃない。軽ければいいんだ!」と、本末転倒になって、通常戦闘における防御力の無さを自認してまで、それだけを身につけ続けようとするのであれば、病状はだいぶ深刻。素人対応では改善が難しい域に達しているので、ただちに専門医にてもらうのが望ましいかと思われます。


 末期症状ともなれば、〝ニップルシールド〟や〝マエバリアーマー〟という、洗練の限りを尽くされた軽武装の最果てに到達してしまう恐れがあります。これらをご存知なくとも字面から赤裸々な形態像が容易に想い浮かぶはずです。時流の最先端を進んでいたと思ったら過去へさかのぼっていました、というような、原始的格好に行きついてしまうのです。


 ウゲッと思ったなら、快復するまで付き合いきれないと思ったのなら、クラン早期脱退がなによりも賢明な道筋となることでしょう。

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