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[No.110] 第256回皇帝杯・全帝生首蹴球選手権大会 帝国蹴球団〝エンパイア・ドラゴンフォース〟が奇跡的逆転劇で優勝

 19日、生首蹴球クビキューの帝国一を決する『皇帝杯・全帝生首蹴球(なまくびけっきゅう)選手権大会』の第256回大会・決勝戦が、帝都円形闘技場(通称:コロシアム)で行われた。対戦カードとなったのは、予選会を勝ち上がってきた強豪都市クラブチーム〝リパーフートKC〟、そして、前年度覇者(はしゃ)で決勝トーナメントからのシード参加となっていた帝国軍による選抜代表チーム〝エンパイア・ドラゴンフォース〟である。


 会場となった帝都円形闘技場は長年に渡る修復工事を終えたばかり。修復完了後に初めて(もよお)される生首蹴球大会ということもあって、この『エンパイア・ドラゴンフォース対リパーフートKC』戦は、かつてコロシアムで開催されていた皇帝杯の伝統復活となる記念カードとなった。この歴史的一戦の目撃者にならんとするため、帝国全土から熱狂するサポーターが押し寄せ、6万人にも及ぶ大観衆でスタンドは埋め尽くされた。


 地区予選から順当に勝ち上がってきたリパKC(リパーフートKC)には、数多くのスタープレーヤーが所属している。なかでも、血気(けっき)みなぎる優秀な攻撃的MF(ミッドフィルダー)陣が注目だ。スキンヘッドから打ち出される強靭(きょうじん)な頭突きを武器にしたディダン、しつこい噛みつき攻撃を得意とするルイスレス、あらゆる格闘戦に()闘犬(とうけん)(うた)われるジェントゥーゾなどが名を連ねる。


 ディフェンディングチャンピオンとなるエンドラ(エンパイア・ドラゴンフォース)側も負けてはいない。なんと今年は、あの世界屈指のクビキュープレイヤーであるイエニイスタ選手を(よう)しているのだ。世界各国で生首蹴球が廃止されるなか、活躍の場を求めていた彼を帝国軍が迎え入れた電撃移籍報道は記憶に生々しい。3ゴール2アシストを記録した準決勝のような独壇場(どくだんじょう)の再演を期待していたサポーターも多くいたことだろう。


 試合序盤から白熱した大乱闘となるシーソーゲームを予想していた人は、はたしてどのくらいだっただろうか。


 キックオフ直前、両チームのスターティング・イレブンが闘技舞台フィールド上に姿を現すと、総勢6万の観衆が、ブブゼラや太鼓(たいこ)をもちいた応援演奏チャントを響かせて()きに()いた。背番号入りの(よろい)をまとう完全武装フルアーマーの選手たちが、手にしている競技用の模造剣(もぞうけん)模造混(もぞうこん)(たて)を打ち鳴らして声援に応えた。



 ――ここからは、スタメンをご紹介後、決勝戦の模様を実況形式でお届けする。



《スターティング・メンバー》


◆リパーフートKC


GK ヤングアイランヅ


DF カルロベ

   ロングフレンズ

   マーヤ

   カナンバーロー


MF ジェントゥーゾ

   ディダン

   ルイスレス

   フィゴ(CP:キャプテン)


FW ダイバール

   ディエマラ



◆エンパイア・ドラゴンフォース


GK プラトーン


DF ソンシー

   トンカ

   ユーレカ

   ツァラトゥストラ

   

MF ショーペンハウアー

   ベッケンバウアー

   リッケンバッカー

   ハイデッガー

   イエニイスタ(CP)


FW バーチャレス

   エスピナンダ



《試合経過》


前半戦:


(キックオフ)

 開始時使用の生首ボールは、ギロチン刑によって斬首(ざんしゅ)された四十代男の頭。

 エンドラ(エンパイア・ドラゴンフォース)側のボールで試合開始。

 キックオフ直後、リパKC(リパーフートKC)のキャプテン・フィゴ選手が「相手選手が12人もいるぞ!」と一人多いことを主審(しゅしん)(うった)えるも、すでにホイッスルが吹かれていたため、そのまま試合続行となる。


(3分:イエニイスタ選手が衝撃の負傷退場)

 試合前の予想通り、エンドラ側はキャプテンのイエニイスタ選手にボールを集めていた。だが、不測の事態が、この試合開始わずか3分に起こった。

 浮き球のパスをイエニイスタ選手がヘディングしたところ、生首ボールのあまりの石頭ぶりに脳震盪(のうしんとう)を起こしたのである。立った状態でピヨっていたところに、相手MF・ディダン選手から、板金鎧(プレートメイル)(へこ)むほどの強烈な頭突きを胸板に食らわされ、ノックアウト。意識消失によって負傷退場を余儀(よぎ)なくされた。

 エンドラベンチはすぐに(ひか)えの選手を投入させようとしたが、スタート時点でもともと一人多い状態だったため、交代は認められず、せっかくの人数的アドバンテージを()にしてしまい、11人対11人の数的同数となってしまう。


(5分:リパKCが先制点の〝(れい)の手〟ゴール)

 絶対的主将(しゅしょう)を欠いたエンドラ側ははやくも混乱に(おちい)っていた。トンカ選手が「争いはなにも生まない。いったん時計をとめて〝ア・プリオリ〟について語り合おうではないか!」と形而上学(けいじじょうがく)的な対話を持ちかけるが、「アプリオリなんて魔物は知らねぇ! どうだっていい!」と、もちろん聞き入れてもらえない。

 ロングフレンズ選手が無尽蔵(むじんぞう)の猛ダッシュでさっそうとサイドを駆け上がり、センタリングを上げる。

 その浮き球をディエマラ選手がゴールネットに押し込んだ。

 エンドラ側が「手で押し込んだように見えた!」と不正を訴え主審に詰め寄ったが、魔法召喚士であるディエマラ選手が使役(しえき)する〝使(つか)(れい)〟がひょっこり差し出していた手であったため、ゴールが認められる。


(10分:エンドラが同点に追いつくトリックFK)

 ジェントゥーゾ選手が生首ボールに剣を突き刺して運んだため反則を取られ、エンドラ側は相手ゴール近くでフリーキックのチャンスが与えられていた。

 ユーレカ選手が突如(とつじょ)「アルキメデス!」と意味不明なことを叫び、リパKC側の注意をひきつけ、そのすきに(じょう)じ、ハイデッガー選手がずる(がしこ)くショートパス。受け取ったリッケンバッカー選手が、雷鳴(らいめい)のような(うな)りを(とどろ)かせる豪快イナズマシュートで同点のゴールを奪った。


(17分:煙幕戦の様相を呈す)

 興奮して暴徒フーリガン化した観客が、大量の発煙魔道具を投げ込み、白い煙がもうもうとピッチ上に立ち込める。

 視界不良で選手間の距離が肉薄(にくはく)したことで、白煙のなか、あちらこちらで剣や棍棒(こんぼう)を叩き込み合う鈍い音がこだました。

 発煙魔道具の直撃を受けてしまったエンドラGK・プラトーン選手が、両手を大きく広げあげて「デフォォォォッ!」と泣き叫びながら(ひざ)から崩れ落ちる。リパKCのダイバール選手は、なにも被害にあっていないのにも関わらず、膝を抱えてゴロゴロ転がっていた。


(20分:給水&治療タイム)


(29分:ショーペンハウアー選手が自主退場)

 乱戦のすえ、使用していた生首ボールが肉くずれを起こしてボロボロになってきたため、ボールチェンジが行われる。二球目となったのは、長髪(ちょうはつ)()らした二十代女の頭。これに異を唱えたのがショーペンハウアー選手だった。

「年若い(おろ)かな娘の頭なんぞ蹴ってられるかボケ! 男のを使え!」

 この男女差別的発言が、ファイティングマンシップに(はん)するとされ、主審からイエローカードを提示される。そののち、「おまえが生まれてきたのは罪だぞ!」と主審に向かってわめきながら試合を放棄して自主的に退場。

 エンドラベンチは交代のカードを切らざるを得なくなり、だいたい同じポジションであるDF・ザムザカフカ選手を急遽(きゅうきょ)送り出す。アップをする時間もままならずに投入されることになった彼は「なんて不条理(ふじょうり)だ!」となげきながらピッチに向かった。


(35分:マーヤ選手のまさかのバックパスから、エンドラが逆転ゴール!)

 攻め手を欠いたリパKCが自陣後方でボールを回していたときだった。いったん仕切り直そうと思ったのか、マーヤ選手がゴールキーパーへとバックパスを出したのである。会場で観ていたリパKCサポーターは「何やらかしてんだ、あの女!」と頭を抱えることになった。

 ひとつ前の接触プレイで倒れていたエンドラFW・バーチャレス選手が居残っていおり、その存在に気づいていなかったため、相手選手に浮気をするようなパスをプレゼントしてしまう形になってしまったからだ。

「キエェェェェェェッ!」と奇声を上げる三角飛(さんかくと)びで(おど)りかかってきたGK・ヤングアイランヅ選手を交わし、一対一を制したバーチャレス選手が、平凡シュートでやすやすと逆転に成功。真っ先に駆け寄ってきたエスピナンダ選手と抱き合って喜んだ。


(43分:エンドラ痛恨のPK献上(けんじょう)、ふりだしとなって後半へ)

 これまで最終ラインから「ヘイホー! ヘイホー!」と掛け声をあげ、言い回しのくどい戦術指示をあれこれ送って奮闘(ふんとう)していたエンドラDF・ソンシー選手だったが、使用が禁止されている中級氷系魔法により、ペナルティエリア内にいた相手選手の足をうっかり凍らせ、動きを封じてしまったため、妨害行為の反則を取られた。

 PKキッカーを(つと)めるのはダイバール選手。

 ゴールマウスを守るのはプラトーン選手。

 助走をつけてボールが蹴られる。

 おっとこれはGKにとってはラッキー!

 飛んでいったのは、キーパー正面。

 しかし、プラトーン選手はキャッチング前にボールを見失ってしまった。高速回転する女生首の長い頭髪が目に当たってしまったのである。そうして点々と転がったボールがゴールに吸い込まれ、前半終了間際に、2対2の同点となった。

 ダイバール選手は首切りパフォーマンスで喜びをあらわにし、プラトーン選手はまた両手を天に(かか)げてなげき伏した。



後半戦:


(キックオフ)

 エンドラ側は後半から、ツァラトゥストラ選手に代えてキルケェ選手を投入。

()はまだなにも語っておらん!」

 と、交代に猛反発したツァラトゥストラ選手が強情にもピッチ上に姿を現すが、「前半のプレイで物語れなかったあんたが悪い! 語呂(ごろ)の悪い名前しやがってからに!」とエンドラスタッフ陣にむりやり連れ出されたのち、リパKCボールで後半戦スタート。


(13分:マーヤ選手、名誉挽回(めいよばんかい)の豪快ゴールで、リパKC再びリード)

 コーナー付近からのハイボールを、ゴール前での殴り合いに棍棒を使って制した紅一点(こういってん)の女性DF・マーヤ選手が跳躍(ちょうやく)、FW選手たちが度肝(どぎも)を抜かされる鮮やかなジャンピングボレーを繰り出し、ボールの眼窩(がんか)から目玉を飛び出させる勢いで、ネットに突き刺す。前半戦での大ポカの汚名をそそいだ。


(14分:ザムザカフカ選手、迫る敗北のプレッシャーから駄々(だだ)をこねだす)

「負けたら〝炭鉱送(たんこうおく)り〟にされる! もう耐えられない!」

 と、前半にショーペンハウアー選手に代わって不条理な交代出場を余儀なくされていたザムザカフカ選手が、突然ピッチ上に仰向(あおむ)けに倒れ込み、「家に帰って部屋に()ごもりたい!」と毒虫のように手足をばたつかせ出した。なぜかダイバール選手も近くで仲良く転げ回っている。

 両者を無視して試合続行。


(19分:ベッケンバウアー選手の同点ゴールでエンドラが食らいつく!)

 本来のポジションはDFだが「名前がなんだか中盤(ちゅうばん)の選手っぽい」という理由からMFに大抜擢(だいばってき)されていたベッケンバウアー選手が、背後からルイスレス選手に噛みつかれる激しいディフェンスにあいながらも、物ともせず、混戦でこぼれてきた球を冷静沈着かつエレガントに押し込み、3対3とする意地を見せた。


(22分:給水&治療タイム)

 エンドラ陣営は、いつまでもひっくり返ったまま死んだようになっているザムザカフカ選手をベンチ引きずり下げ、「我思う、ゆえに我を使え!」とスタンバっていたトルデカ選手を投入。本来はここでイナバウアー選手かチューバッカー選手の起用を考えていたが、「これ以上ややこしい名前のやつを増やすな!」という審判団の強い要請により却下(きゃっか)されている。

 対してリパKCは、ゴロゴロ転がったまま円形闘技場の外へ出ていってしまったダイバール選手に代えて、最終兵器FW・イブラメッシークリウド選手をピッチに立たせた。


(34分:リパKCが怒涛(どとう)猛攻(もうこう)、ゴールを死守するエンドラ守備陣)

 カルロべ選手の長距離直接フリーキックから火蓋(ひぶた)が落とされた。蹴られたボールは、エンドラ守備陣が大盾(おおたて)を並べて築いた人壁から横に大きく外れたものだったが、軌道修正魔法によって、物理法則を完全に無視し、ありえないくらい、ぐんにゃり曲がってくる。プラトーン選手が例によってお手上げの状態で見送っていたため、ゴールを許してしまうと思われたが、ソンシー選手が後半から(ひそ)かに持ち込んでいた手持ち弩砲バリスタで、かろうじて迎撃(げいげき)

 しかし、こぼれ球を拾ったのはリパKC。

 フィゴ選手がボールを(また)(はさ)んだカニバサミドリブルで再びゴールに迫る。

「アプリオリアターック!」

 と、後半にいたってついに対話を(あきら)めたトンカ選手が捨て身のタックルで押しつぶす。

 だが、クリアされたボールはまたしてもリパKCに渡ってしまう。

 ボールを収めたのは、カナンバーロー選手。両チームで通じて唯一、眼鏡(めがね)を掛けた選手だ。彼は黒縁眼鏡を押し上げたあと、呪文の詠唱(えいしょう)に入る。キック力を増強させる強化(バフ)魔法を自身の右足に付与(エンチャント)すると、「行っけぇーっ!」とふざけた威力の殺人的シュートをぶちかました。

 ブロックに入ったユーレカ選手を巻き込んでゴールに突き進んでいく。

 ……が、幸いにして、ボールはポストに当たり、粉々(こなごな)に砕け散った。

「アレヤバメデス……」

 という言葉を残し、ユーレカ選手は気絶により名誉の負傷退場。


(35分:ボール破損によって、三球目となる髑髏(どくろ)に変更)

 

(40分:両チーム満身創痍(まんしんそうい)となり、試合が拮抗する)


(44分:キルケェ選手、自チームを死に至らしめる絶望的オウンゴール)

 後半終了直前には、双方の選手が力尽きかけてピッチ上に倒れ込んでいた。

真理(しんり)とは、それすなわち、主体性(しゅたいせい)である!」

 と、最後の力を振り絞って立ち上がったのがキルケェ選手である。

 彼はふらふらとした足取りで髑髏(どくろ)ボールをドリブルしはじめた。

 勝利のゴールを確信したエンドラベンチが喜んだ刹那(せつな)、悲鳴に変わる。

「そっちじゃない! 逆だ逆!」

 もう右も左も分からないほどに憔悴(しょうすい)していたのだろう。 

 キルケェ選手が向かった先は、なんと自陣ゴールだったのだ。

 そのまま自殺点を盛大に蹴り込んで、3対4としてしまい、リパKCにとっては(たな)からぼた(もち)となる値千金(あたいせんきん)のゴールを献上してしまった。

「てめぇは死んでろ!」

 と、エンドラベンチに(ひか)えていたスーパーサブDF・ニッチェー選手がニヒルに罵倒(ばとう)したところで、ホイッスルが吹かれた。

 しかし、このホイッスルは、試合終了とリパKCの勝利を告げるために吹かれたものではなかった。吹いたのは審判ですらなかったのである。


(アディショナルタイム:〝皇太子殿下(こうたいしでんか)の笛〟)

 ホイッスルを響かせたのは、ご多忙中の皇帝陛下に代わって試合を御観覧(ごかんらん)なさっていた皇太子殿下であらせられる。

 皇太子殿下は、自分のもとに呼び寄せた主審に耳打ちをなさった。

 ピッチ上に戻った主審が観衆に向かって高らかに宣言する。

「ただいまのゴールは、エンパイア・ドラゴンフォースの選手が決めたものであるため、エンパイア・ドラゴンフォースのゴールとする!」

 そして、ピッピッピーッ!と試合終了の笛を鳴らして、有無(うむ)を言わさずにこう続けた。

「4対3で、エンパイア・ドラゴンフォースの勝利! したがって、第256回皇帝杯・全帝生首蹴球選手権大会の優勝チームは、帝国蹴球団『エンパイア・ドラゴンフォース』!」



《試合結果》


 エンパイア・ドラゴンフォース 4-3 リパーフートKC


 以上により、昨年度と同じく〝皇太子殿下の笛〟による奇跡的な逆転劇を()て、エンパイア・ドラゴンフォースが優勝の栄冠を手にしている。


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