[No.107] 帝軍 山岳地帯で共軍と鉢合わせ にらみ合いに突入す!
帝国陸軍本部によると、16日、《ドライエート山》で山岳訓練中だった陸軍部隊とその増援部隊が、《セネショア共和国》所属の陸戦力群と、予断を許さない極めて逼迫した〝にらみ合い〟の状況に陥っていると発表した。
ドライエート山は、帝国極東に位置している我が国固有の領山。そもそも自国領土内において他国軍と鉢合わせすることがおかしいのであるが、そのおかしなことをやすやすとやってのけるのがセネショア共和国である。つまり、彼の国の軍隊は、現在進行形で本帝国領土を侵犯しているのだ。
共軍による領域不法侵入が発覚したのは、今月9日のこと。
帝国陸軍・東部方面軍の第38山岳師団(通称:サンパチ師団)に所属する2個小隊は、毎月恒例となっている登山訓練のため、ドライエートの山に入っていた。行っていたのは、1個小隊ずつが潜伏隊と捜索隊に分かれた、索敵訓練である。
夜明けとともに開始されていた訓練は、午後の入りに捜索隊の勝利で幕を閉じるかと思われた。捜索隊の兵士が、谷を挟んだ向こう側の尾根を歩く隊列を発見するに至ったのである。……しかし、その時が、終わりではなく始まりになったのだ。捜索隊が見つけたのは、なんと本物の敵対戦力。赤い旗をひるがえらせて行軍していたセネショア共和国所属の歩兵たちだったのである。
報告を受けた捜索隊の小隊長は、当初、「領山に他国軍がいるわけがない」と訝しんだが、単眼鏡をのぞいて、赤色の旗とそこに刺繍されある〝グリフォン〟の図柄(※グリフォンは共和国軍の象徴獣である)を確認するやいなや、血相を変え、緊急事態を知らせる魔法光球を上空へ打ち上げた。そして、〝ワイバーン〟が刻印されている帝国軍旗をなびかせながら、言霊精霊〝エコーズ〟の力を借り、速やかに退去通告を実施。
「貴軍らは本帝国の領土に踏み入っている。ただちに引き返せ」
と、勧告音声を山に響かせたのであるが、出方をうかがう間も無く、共軍側がエコーズ返しをしてきた。
「貴軍らは本共和国の領土に踏み入っている。ただちに引き返せ」
道理も無しに、ドライエート山の領有権を主張してきたのである。
「ドライエート山は帝国固有の領山である」
小隊長が紛れもない事実を告げれば、
「ドライエート山は共和国固有の領山である」
共軍側は小馬鹿にしたように文面を丸パクリにした妄言を木霊させてくるのだ。
退去通告が無視される状況とあらば、侵犯者に対して次にとるのは、魔法や弓矢を用いた警告射撃である。
しかし目視による戦力分析では、共軍側が上回っている状況だった。帝軍は潜伏隊が合流して2個小隊になったものの、相手には1個中隊(4個小隊)規模の姿が確認できたのある。さらには歩兵戦闘員だけではなく、〝ガルム〟や〝エアレー〟といった山岳地帯戦に活用される使役獣の姿も見受けられ。けん制行動に出ようにも、訓練用装備かつ何も付き従えていない帝軍側は、分が悪かった。
現地指揮官は、下手に刺激することをさけ、その場にとどまったまま、サンパチ師団本部へ伝令を派遣した。増援隊を要請し、効果的な威圧を掛けられるだけの戦力を整えることにしたのである。共軍に引き返すような動きは見られなかった。谷を挟んで両軍にらみ合いのまま日が没した。
一夜明け、増援部隊が到着。小型陸竜〝ラプトル〟に騎乗する竜騎兵をまじえた3個小隊である。2+3=5個小隊となり、共軍の4個小隊を数字で上回った。
さあ、警告だ!……と、谷向こうを見た現地指揮官は顔をしかめた。
「ムムっ。あちらさんも増援を呼んだか……」
共軍は、2個小隊分増えてた。4+2=6個小隊規模になっていたのである。
「これは遺憾な。ええい、もう一度、増援だ!」
そうこうして増援合戦が繰り広げられ、一週間たった現在、ドライエート山では、両陣営が谷を挟んで『大隊』を揃えて向かい合うという、人魔大戦後類を見ない、急転直下の大規模なにらみ合いに発展している。警告射撃をしようにも、もはやズラリと兵員が並んでいるため、どこへ撃っても本攻撃と捉えられかねず、安易に動けなくなってしまっているのだ。
帝国軍総司令部は、「我が帝国固有の領山の一部を共和国軍が不法占拠している状態にあるのは、誠に遺憾。これは明らかなる〝侵略行為〟である。決して許されるものではないが、大隊同士の武力衝突が起こる危険性を大いに含んでいることから、慎重に様子を見て、逐次、的確に対処していく」という方針を示している。
懸念されていたセネショア共和国軍による『侵攻』が、ついに始まったのだろうか……。
当新聞社では、従軍記者を現地へ派遣し、緊迫の情勢を随時伝えていく。
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