[No.105] 【童話】デュラハンちゃん クロース
むかしむかし、あるところにお金持ちのお屋敷がありました。広いお屋敷に暮らしていたのは数名の青白い顔をした使用人と、若くて美しい未亡人の発狂した奥様、それから、この世に生まれたばかりの〝デュラハン〟という名前の、頭の無い女の子の赤ちゃんでした。
デュラハンちゃんに頭が無いのは生まれつきです。お母さんであるお屋敷の若奥様の股の間からひっぱり出されたときから頭部完全欠損でした。それ以外はいたって健康体だったので、若奥様はとてもよろこび、我が子のこの世への門出を祝福しました。ちなみに、お父さんは誰かと言うと、お屋敷の外にうろついていた乞食から〝グール〟の使用人たちに至るまで、子種候補が多岐にわたっているため、誰なのかわかっていません。
デュラハンちゃんはとても手のかからない子でした。頭が無いから夜泣きをすることは一切ありません。お乳も飲まないので、若奥様は持て余した母乳を使用人たちに振る舞いました。食事をまったく摂らないので、おしっこやうんちの世話がぜんぜん必要がなく、放おっておけば雑草のように自動的にすくすくと大きくなったので、生まれながらに、よくできた子だったのです。
出産直後にはハイハイを始めていたほどですから、三日後には立ち歩きするようになっていました。若奥様が「お外に出てはいけませんよ」と告げると、デュラハンちゃんは、手の親指を真上に立てて、了解したと伝えます。頭が無いにもかかわらず、頭のいい子でした。「はい」のときは親指を真上に立て、「いいえ」のときは親指を真下にさげる。会話もこのようなジェスチャーで成り立っていたのです。
五年の間、デュラハンちゃんは裸で過ごしました。これは、乳首が目の代わりになって世の中を見ているのだろう、と若奥様が考えていたためです。服を着たら目になっている乳首が隠れてしまい、自由に動けまわれなくなってしまうと思い、ずっと生まれたときの自然体で過ごさせていたのでした。
勘違いだったとわかったのは、ある日デュラハンちゃんが外遊びから帰って来た時のことでした。5才になったデュラハンちゃんは、お屋敷の外にある森へ入ることを許されており、裸体妖精〝ヒッピー〟のようなすっ裸のまま、動物を追いかけ回したり追いかけ回されたりして遊んでいたのです。
その日も夕方まで森に出掛けていたのですが、出て行ったときには丸裸だったのに、帰ってきたデュラハンちゃんはなぜか衣服を着用していたのでした。黒一色のワンピースで、彼女の体にとってはサイズが大きく、裾をズルズルと引きずって歩いているのです。
「そのお洋服はどうしたの?」
若奥様が尋ねると、デュラハンちゃんは身振り手振りで何かを説明しようとします。しかし手や足をちょこまかとさせる動作は可愛らしいのですが、ふしぎな踊りをおどっているようにしか見えず、要領を得ません。
伝わらないことに苛立ったデュラハンちゃんは、紙とペンを手に取りました。
『森にいた女の人が着ていたのを剥ぎ取った(σ・∀・)σゲッツ!!』
「あら、そうなのぉ」
『ずっとお洋服を着てみたかった(≧▽≦)ワーイ』
「着てても動き回れる?」
『大丈夫(^_^)bグッ』
「それよりデュラハンちゃん! あなた字を書けたのね!」
『( ゜д゜)ハッ! ほんとだ!?』
この日を境に、デュラハンちゃんは、ヒッピー生活をやめて服を着るようになりました。そして、表音文字や顔文字をたくみに書き記して操れる特性に気づけたことで、若奥様や使用人グールたちとの意思疎通が一段と楽にたのしく行えるようになったのでした。
それからのデュラハンちゃんのお洋服は、すべて他の人たちから拝借したものになりました。
若奥様はお金持ちでしたが、守銭奴だったため、洋服を買うことを良しとせず、かといって、お裁縫も下手くそで何も仕立てることができなかったので、自分用の服を入手するときと同様に、森の中に迷い込んでくる丁度いいサイズの小さい子供を、ロリポップで釣ってお屋敷へと連れ帰り、首を絞めて殺し奪っていたのです。死体は使用人のグールたちに食べさせ、ばっちり隠滅しました。
7歳を迎えた頃には、すっからかんだったお部屋のクローゼットには、たくさんのお洋服が吊られていたました。
デュラハンちゃんは喪服のような黒色の服がお気に入りでした。長らく裸でいた反動からか、今度は素肌をすっぽり包み隠すようにすることを好み。つねに長袖を着用し、下はスカートでしたが、両脚は真っ黒な160デニールのタイツを穿いていました。なので覗けている部分は、白白とした首先と両手くらいなものです。
『ウーマン・イン・ブラック!(ΦωΦ)キラーン☆』
「やっぱりあなたはわたくしの子ねぇ!」
と、若奥様は自分と同じで黒色が大好きな娘をより一層に愛おしく思い、幸せとともにデュラハンちゃんを抱きしめたのでした。
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