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スティービー・ワンダー

作者: 三文字

 ふーん。

 スティービー・ワンダーねえ。


 山谷に連れられてのドライブ中のことだった。僕は山谷の選曲を、初めは何ということもなく聞いていた。

 しかし、車を運転する山谷の横顔を一瞥した後、ちょうど車が町境の大きな川を、遥か上から陸橋で渡っていく時に、ぼんやりと窓からその川の景色を見つめているうちに、「遠い所に来たな」と、ふと思った。

 それは自分自身の人生に対しても同じだった。いつの間にやら、こんな所まで来てしまったな。


 山谷は元々、洋楽を聴くタイプの友人ではなかった。世間で言ういわゆる「アニオタ」とでも言うべき存在で、声優のイベントや、アニメグッズ専門店などに行ったり、ライトノベルを読んだりしていた。聴く音楽もアニソン七割、ボカロ三割といった様子だった。そう言えば、僕がオンラインゲームをやり始めたのも振り返ってみれば山谷に誘われた時が最初だったか。

 しかしその山谷が今ドライブで選曲しているのは、スティービー・ワンダーやら、ライオネル・リッチーやら、マーヴィン・ゲイやらといった類のもので、そのあまりの変貌ぶりに驚いたものの、まあいいや、久しぶりに会ったのだから、何でもいいから話そう、と思い、口を開いた。


「しかし前とは随分曲の趣味が変わったねえー。正直少し驚いたよハハハッ」

「ああそう? まあうちの上司が洋楽好きだから、それでこういうのも教えてもらったんだよ」

「おぉ、ここでレイ・チャールズが来るとはなあ。まあでもレイ・チャールズもソウルの創始者みたいなもんなんだっけ?」

「へー、そうなんだ」

「え? いや別に、僕もそこまで詳しくないけど、確かそうかなって」

「まあ俺も単に曲を聞いてるってだけだからね。だってさあ、上司とカラオケ行った時に、アニソンなんか歌えないじゃん? だから成り行きで色々覚えたってだけだよ」

 内容に突っ込んだ所で、話は僕の一方通行になってしまう。車に乗せてもらっておいて、独壇場になるのも柄ではないので、暫くして僕はまた口を閉じた。


 ふーん、と心の中で呟いた。大したことではないが少し寂しい感じもした。同じ大学生活を過ごした連中が、こうしてまた一人、また一人と大人になっていくのだなと思った。

 それに比べて変わっていないのは、自分だけだった。小説だの、漫画だの、ゲームだのと趣味に埋没する生活を、相変わらず送っている。その傾向は仕事を始めるようになってからますます高まっている様な気さえする。おそらく仕事をすると、余計に頭が働いて、余った頭でどうでもいいことをやらかしてしまうのだろう。そんな自分は、おそらくただのわがままなのだろうと思った。上司に気を使って趣味まで変える山谷とは雲泥の差だ。

 子供の頃の僕は、周囲から避けられているように感じることが多かった。でも違うと分かった。周囲の歩幅と、自分の歩幅が、余りにも違いすぎるのだ。その違いについていけずに、いつの間にか一人ぼっちになる。いつになっても、同じこと。


 また外を見た。

 空は雲一つない快晴だった。この呆れるようなだだっ広い青空の中に、自分の心がぽんと一人置いていかれたような感じがした。

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