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ねこのきもち

作者: ミコト

っと……。少し遅くなったな。

会議が長引いてしまった……急ごう。


俺はこのSCP財団でミーム部門に所属するBクラス職員。

……と、色々あって財団用レストラン経営も……。


何があったかはまあ、知ってる人に聞いてみて欲しい。


「ねこさん、遅くなってごめんね。今日もお手伝いに来ました。」


「いえ、大丈夫です。お仕事お疲れ様です。今日もよろしくおねがいします」


「はい、よろしくおねがいします」


この子は「ねこさん」。とあるSCPオブジェクトだったが、無力化認定を受けた上で財団職員として働いている。


「そういえば、どうしてねこは異常性がないと判断されたのか、聞いてみたのです」


「ん?ねこさんはもうミーム性はないから……」


「いえ、そうではなく。ねこは、まだ耳としっぽが残っています。なのに日本語を理解して会話や二足歩行ができます。なのになぜ『異常性がない』のか、と」


「ああ……そういう……」


「なので、今日あなたが来る前に来たお客様の中に、財団の上位職の方が居たので聞いてみました。そしたら……」


『え?いやこの日本支部には蝉を吐く博士とかどうみてもカナヘビなエージェントがいるぐらいだから……今更耳としっぽくらい文字通り可愛いもんだよ』


「と言われました。……どうみてもカナヘビ……?」


「……あぁ」


確かにあの二人を知っていたらねこさんなんて異常じゃなく感じても仕方ないだろう。


などとやり取りをしているこの「ねこさん」。

実は……その…………あーっ……えっと……


俺の恋人である。

そう、恋人。馴れ初め?そんなもの恥ずかしくて話せるわけが無い。誰かに聞いてくれ。頼むから……


しかしねこさんは本当に可愛い。

大きな瞳、ピコピコ動く耳。ふわふわのしっぽ。最高だ。


こんな少し不思議な生活を、俺は心から幸せに感じていた。



「君、ちょっといいかな」


「部長。なんでしょうか」


ある日、いつも通り異常存在と戦う手順を構築する事務作業をしていたら突如部長に呼び出された。

部長には先日とんでもなくお世話になったので頭が上がらない。


「君に、急ぎ研究してもらいたい案件がある」


「急ぎ……ですか……」


「ああ、これなんだが……」


「こ、これは……」


渡された資料には2つのSCPオブジェクトの名前。


SCP-272-jp 「ユカ」

オブジェクトクラス:safe


SCP-166 「年頃のサキュバス」

オブジェクトクラス:Euclid


……ふむ


「この2つ、ですか」


「ああ。より正確には、その二つに関する『魅了』するミームについてだ」


魅了……確かにこの2つは「男性を虜にする」能力を持つ。しかも片方は人型実体、片方は物質実体なので根本的に違いがある。そこから共通点を見つけ出せばミーム研究の大きな一歩となるかもしれない。


「……もちろん、断らないよな?」


普段笑わない部長の髭面がニカッと口角を上げる。

この人笑うんだ。というかこれ外世界の企業ならパワハラだろ。ねこさんの恩があるからやるけどさ。


「わかってますよ、大丈夫です。やらせてもらいます」


「よろしい、早速研究にかかってくれ。もちろん海外本部からSCP-166の研究許可は貰っている。実体に会う以外は大抵協力してくれるさ」


それは頼もしい。

そうして俺は研究に励むこととなった。


「ねこさん、お手伝いに来ました。」


「ありがとうございます。今日もよろしくおねがいします」


いつもの挨拶を交わし、レストランの手伝いに入る。

といってもねこさんは手際が良いのであまりやることは無いけど。

前にそういうことをぽつりと呟いたら


「……ねこは……あなたに会えたらそれで……いえ、なんでもありません。お手伝いは必要ですよ」


などと言っていた可愛い。聞こえてないふりをしたが(聞こえていると知ったら多分爆発する)可愛すぎて暴れたくなる衝動を必死に抑えた。可愛い。


「そういえば」


なんて考えていたらねこさんが話しかけてきた。


「今、何か研究を始めたのですか?職員の方が、『あいつ、何やら小難しい研究に就いたみたいだぞ』って教えてくれました。」


そうか、このレストランでは料金を取らない代わりにねこさんに何か一つ話を聞かせるちょっと変わった支払いシステムだった。俺の話が出ることもあるのか。


「そうなんです。いつも通りミーム研究ですけど、少し今までと系統が違ってて」


「なるほど。一体どういった?」


「魅了をテーマにした研究です」


「……魅了、ですか」


「はい、これがまたメカニズムが難しくて……」


「……いつかまた研究が進んだら聞かせてください」


「はい、分かりました」


ねこさんも研究職員の仕事に興味があるのだろうか?

これは頑張って進めないとな。




日を重ねる毎に研究は地道だが確実に進んで行った。

俺は思いついた単語や目に付いた特質をひたすらメモに走り書きする。


「ユカ……ドレス……愛を囁く……抱きしめる……」


カキカキ、カキカキ


「サキュバス……異常な興奮……3割は暴走……性欲……」


カキカキ、カキカキ


「……っふぅ、疲れてきたな。そろそろいい時間だし、少し休んだらレストランへ行こう」


今日の分はかなりいい所まで進んだはずなので、身体を休めてレストランへ手伝いに行くことにした。


「ねこさん、来ました。」


「はい、よろしくおねがいします……なんだか眠たそうですね、ちおびたいりますか?」


「あっ、ありがとうございます。いただきます」


ちおびたくれるんだ。


「研究の方はどうですか?」


「かなり順調です、がまだ新しいことは中々分からなくて」


「大変ですね、応援してますよ」


ねこさんが応援してくれているなら一層頑張ろう。

そう決意してホール作業に入る俺だった。


そうしてレストランの閉店時間、いつもねこさんが日報などを書いているのを待って一緒にコンテナから出るのだが、今日の俺は疲れていたのか、つい日報待ちの間にメモを整理していたら眠ってしまった。


「お待たせしました、終わりまし……寝ているのですか……

……おや、これは。メモですね。ねことよく話している研究のものでしょうか。……見てはいけないと分かっているのですが……少しだけ、少しだけなら…………


……………………これは…………?

……『ユカ、ドレス、愛する』……?『サキュバス、興奮、性欲』……?


………………………………………………」





「ん……んん……んん……!?」


朝、目が覚めた俺は驚愕した。

体が動かない。ダルいとか眠いとかじゃなく、全く動かせないのだ。


「……拘束……されている……?」


いやなんでだよ!?!?!?


コンテナでつい眠ってしまった所までは思い出した……が……その後がどうも思い出せない。


周囲を見渡す。

どうやらここは……レストラン……?なのか……?

座らされる形で柱に手足を拘束されているのでイマイチ分かりにくいが、どうも見覚えがある。

うん、やっぱりレストランだ。

しかし……一体誰が……


ドンドンドン!!


「うわぁっ!?」


いきなりコンテナの扉が大きな音を立てた。どうやら外から誰かが戸を叩いたらしい。


「お、おい!?誰かいるのか!?生きているのなら返事をしろ!!」


「あ、えっと、はい!!居ます!!生きてます!!」


「!!さ、探したぞ!!」


この声は……部長……?かなり慌てた様子だが……


「お、おい、身体に異常はないか、何か蠢いていたり激痛が走る箇所はないか!?」


「こ、拘束されている以外は今のところ何も感じません!」


「そ、そうか……いや安心している場合ではない、すぐに機動部隊ね-515「キャットタワー」が来てくれる、冷静かつ強気に待機していてくれ!」


機動部隊……?キャット……タワー……?


なにか、なにか嫌な予感がする。

俺は実働系の仕事には詳しくないが、その名前……非常に良くない……気がする。


「おや、目が覚めましたか」


!?この声は


「ね、ねこさん!ねこさん!」


「はい、ねこさんです。あなたのねこですよ。なんて、恥ずかしいですね」


白く透き通る麗しく美しい肌が羞恥の赤色に染まる。


……じゃなくて!


「ねこさん??なんでここに??というか無事なんですか??」


「……?はい、ねこは無事ですよ」


「よ、良かった……あ、この拘束!解いてください、起きたら既にこの状態で……」


「解くわけないじゃないですか」


「え、なんで!?」


「だって、あなたを拘束したのはねこですよ」


「んんん??????????」


「???」


いやなんでそんなキョトンとした顔で首傾げてるの可愛いなおい。


「な、なんでこんなことを……?」


「自分で考えてください」


「はぇ〜^」


ヒント無さすぎませんか?


「おい!その声は!SCP-040-JP!いるんだろう!」


突然部長が怒鳴り声を上げる。

というか今……SCPって……?


「いるんだろう!返事をしないか!」


「……はい。ねこはいます」


「……やはりか……どうしてだ……君は異常性はなくなったはずでは!」


「はい、ですからミーム汚染ができないので、こうして実力行使にでました」


「ま、待ってください!一体どういうことですか!」


黙っちゃいられなかった。ねこさんをSCPと呼んだことも、ねこさんが敵意をむき出しにしていることも全てが異常だ。


「あ、ああ。今のところ君が危害を加えられてはいないようだから説明しておこう。実は今朝、私のデスクに張り紙がされていたんだ。そこには『ねこです。彼を預かりました。コンテナで一生暮らします。よろしくおねがいします』と書いてあった……私は愕然としたさ、君が、私が認めた君たちがこんなことになるなんて……ああ、許してくれ、君が今抱いている恐怖は私の油断のせいだ。私が終了されても構わない、君の才能は人類のために残されるべきだ。必ず君を救い出そう……!」


……どういう事だ……?一生コンテナで……?

ねこさんは何を……


俺は唯一動かせる首をねこさんに向け見つめてみた。

ねこさんも、その可愛い瞳で俺を見返す。

表情には変化はないが、その目は覚悟と誓いの炎を携えていた。


「……ねこさん」


「なんでしょうか」


「どうしてこんなことを?」


「ですから、考えてくださいね」


分からん……

そうだ、ねこさんの気を逸らしてみよう。

そうしたらねこさんから何か聞き出せるかもしれない。


「そうだ、ねこさん」


「はい、なんでしょうか」


「お腹がすいたんです。なにか食べさせて貰えませんか?」


「あ、わかりました。すぐに用意しますね」


ねこさんは鮮やかな手際でサンドイッチを出してくれた。好き。


「ありがとうございます、久しぶりにお代替わりの話をしてもいいですか?」


「はい、聞かせてください


「例の研究なんですけどね、実は……」


その瞬間。


「ふぇ……」


泣いた。ねこさんが。

鳴いたのではなく、泣いた。


「………………えっ!?いや、ちょっあ、えっ!?」


「ふぇ……ぁぅ……」


ええええなになになになに!?!?!?


「な、泣いてる!?ねこさん!?」


「……泣いて……ヒグッ……泣いてません……グスッ」


めっちゃ泣いてるやん……


「ど、どうした!?おい!?」


部長もちょっと焦りだした。

ねこさんが無力化したことを一番最初に気づいたのは部長なので、実は心のどこかでねこさんを信じたいのだろう。


「部長、時間を、時間をください!」


「時間?一体…………!そうか、機動部隊のことだね!?わ、わかった、少し様子を見たいと伝えよう」


部長が味方でよかった。

……さて。


「ねこさん」


「グシュ……はい……」


「なにか、あったのですか」


「……」


ぷいっとそっぽを向かれた。

ウッソだろお前……って気分だ。


「……ねこさん、好きです」


「っ!……〜〜〜」


お、耳がピクピクしている。

が、どうやらまだ話してくれないらしい。


「ねこさん、可愛いです、大好きです」


「ムエェ……」


変な声を出しながら照れている可愛い。


「だからねこさん、話を-------」


「うそです」


「-------聞かせて……って、え……?う、嘘?」


「好きとか可愛いとか、うそです」


「……いや、なんで」


「ユカ……さん……ですか?ドレスが似合う女性なんでしょうか、とても愛しているようですね……!それにサキュバスさんには性的に興奮しているとかなんとか……!」


??????????

なんの事だかわからない。頭がはてなランド開園中(入場料4580円)絶賛人気の疑問符パレードが始まっていた。謎と疑問のエレクトリカルパレードだ。


「ねこは……ねこは飽きられたのですか……ねこは……あなたを……あなたの事を……それなのに……!」


「ちょ、ちょっと待って、ねこさん一体何を」


ん?待てよ?

ユカ?サキュバス?ドレスに……性的興奮……?


……


………………


ま さ か


「……ねこさん、メモ……見たんですか……?」


「はい、この目でしっかりと、見ました。研究に励んでいると言ったのはうそですか。ねこよりも他の子ですか。そうですか」


あー……これは……

可愛いんだけど、可愛いすぎるんだけどさ……


「えっと……実は」


俺はねこさんに全てを説明した。

ねこさんが見たのは確かに間違いなく研究メモであること。

2つのSCPについての簡単な説明。

どうやらねこさんは動物実体系SCP以外はまだ知らないらしい。


「……えっ……えっ……?えっ……?」


ねこさん大混乱。これまた可愛い。


「……では、あなたは、取られないんですか」


「はい」


「他の子のところに行かないんですか」


「はい」


「ね、ねこの、ねこのこと……その」


「大好きですよ」


「フニャァ……」


照れているらしい。自分で聞いたのに。


「……ねこは、わかりませんでした」


「……わからなかった、ですか?」


「はい。ねこは元々ただのミーム感染源です。感情というものはありませんでした。だから、わからなかったんです。あなたが……ほ、他の子に……心を……ねこには分からない……心をあげちゃったと……思ったら……な、涙が……涙が出てしまって……ねこは一晩泣きました。あなたのことを考えて泣きました。そしてねこはあなたを閉じ込めてしまおうと考えました。そしたらこのコンテナが協力してくれたのです。ねこにしか開けられないように扉を封鎖してくれました」


ねこさんは泣きながら話してくれた。

それは確かに、ねこさんの「心」だった。

初めて芽生えた「感情」に触れた時、それが何かわからずにこんなことをしでかしたのだろう。


「ねこさん……」


「……謝らなくては」


「えっ」


「部長さんに、謝ってきます」


「お、俺も!俺も行きますよねこさん!」


我々は財団日本支部の職員である。

さて、こんな時本部や他国の支部にはない謝罪方法があるのをご存知だろうか。

そう。


土下座!!!!!!!!

全身全霊の!!!!!!!!本気の!!!!!!!!土下座!!!!!!!!


を部長に思いっきりしてみた。


ねこさんは3時間説教と反省文。

そして俺は女心がわからなかった罰として女性職員からひたすら叱られた。5時間正座で。いや長いわ。1日24時間しかないんやぞ。


さらに後日、新しく発見されたSCPの調査を命じられた。



正直この程度で済むとは思ってなかったので驚いているが、余計なことは言わないでおこう。



「ねこさん」


「はい」


「大好きですよ。これからもよろしくおねがいします」


「ねこもあなたのことが…………えっと……だ、大好きですよ……よ、よろしくおねがいします……」


こうして今回の事件「ねこのきもち事件」は幕を閉じた。











……ん?

「コンテナがねこさんの誘拐・監禁に協力してくれた」……?


………………


……コンテナがSCPオブジェクトになってないか?




【報告書】

SCP-???-JP 「しあわせねこハウス」

オブジェクトクラス:Euclid

特別収容プロトコル:財団日本支部のサイト-×××のコンテナが対象です。使用しない時や中に誰もいない時は必ず鍵をかけ、サイト管理室に鍵を返却してください。

使用する際は必ず届けを出してから鍵を借りてください。

鍵は紛失しないよう気をつけてください。紛失した場合はその月の給与から鍵の変更とスペアキー作成の費用を天引きします。


概要:財団日本支部のサイト-×××のコンテナです。中に「ねこさん」と呼ばれる財団職員が在室している場合に異常性を発揮します。

「ねこさん」とその恋人にあたる男性職員が幸せになるようにコンテナはあらゆる状況に対応します。

具体的に例を挙げると、「ねこさん」が恋人と2人きりになりたいと望むと、コンテナは自動的に扉を封鎖し、周辺の半径30メートルにいかなる生命体も近づかなくなるミーマチックエフェクトを発生させ、人払いと思える活性化をしました。


現在、「ねこさん」とその恋人にこのSCP内部にできる限り長く滞在するように命じています。



早く幸せになれ。爆発しろ。-------O-11


以上

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[良い点] SCP-040-JPの恋愛ものか…ミーム汚染能力は何故なくなったのか考察が捗る [一言] O5議員さんなんでこんなとこいんのぉ!?
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