第二話
「大森 舞です。よろしくお願いします」
「はーい、よく言えました!拍手〜」
クラスのみんなが先生に習って手を叩く。パチパチパチパチと私のために響く音は悪くないと思った。その後、先生が私の席を指差す。隣の席になる女の子と目があった。
「よろしく」
「うん、よろしくね」
縁無しメガネ、黒の短髪、普通だなと失礼な感想をもってしまった。前いた学校のクラスにも同じ感じの子がいたことを思い出しかける。少し吐き気がするかもしれない…。私はすぐに頭を振って思い直す。(イジメたアイツらとは違うんだ)環境は変わったんだから私も変わらなくては。
チラリと胸にある名札を見て覚える。
「よろしく、“かんざき なのは” さん」
「よろしく、まいちゃん」
無視されない事に感動すら覚えるがココではこれが普通なんだ。なんだか上手くやっていけそうだなと確信した。そして彼女から「菜乃花でいいよ」と言われて更に私は舞い上がってしまいました。
女子は何処かに所属して初めて実力を発揮する生き物だ。だよね〜、が合言葉よりも重いナニカだと気付くことができた。例えるなら、儀式。グループであることの証を、まるで見えない血で契約書にサインしているかのよう。
「…そう思うよね?」
「あ〜、思う思う!」
転校生の希少価値はとっくに失せて同じクラスメイトとして受け入れてもらっている感覚は肌で感じていた。
「舞ちゃんは、どう思う?」
異を唱えれば弾圧される。そう思って私はベッタリと自分の顔面にスマイルシールを貼って答える。
「私も、そう思う」
「だよね〜」
居心地は決して悪くはない。以前に比べたら遥かにまし。むしろ天国とさえ思えるくらいだった。でも次第にホントウハチガウンダ症候群にかかってしまいそうです。いや、もう手遅れか。
どうして、一度、上手くいかなかった人は、次も上手くいかないものなのか。イジメられた経験というものは私の身体と心にタップリと染み込んでしまっているのだ。嫌でも雰囲気が出てしまう。イジメた人よりイジメられた人の方が中々治らないということを私は身を持って実感するのだった。
「えぇ?そうかなぁ」
と私は言った。すると、スッと空気が一瞬で冷えた。
「ふーん…そうなんだ…」
呆気ない終わりを感じた。繋いでくれていた温かい手が、いとも簡単に突き放したような寂しさ。
きっとすぐに「あー、ごめんごめん」と謝れば何も起こらずに済んだ話だったのかもしれない。でも私は怖くなって急に無口になってしまうのです。
その日を境に私はクラスから一人、浮いた存在となりました。
カチャリ、と目の前に湯気の立った夕飯が置かれる。引きこもりになった私なんかのためにお婆ちゃんは変わらず温かいご飯を用意してくれる。でも私は一言も、ありがとうを言わなかった。いただきます…と消えそうな声で呟く。
カチカチと箸の音だけが食卓に響く。目を合わせたら何か言われるんじゃないかと怯えて暮らすようになってしまった。「そろそろ学校に行ってみない?」と言われてしまいそうで早く食べて部屋に逃げ込みたい。
やることがないのは、なんて苦痛なのだろう。布団に包まって携帯をイジって眠くなったら寝る。本当に最低な生活態度だった。
どうせ私がいなくなっても誰も困っなりしないんだ。学校では必要とされない私なんて生きている意味も価値もない。そして今日は憂鬱な理由がもう一つある。
「舞ちゃん、来たよー」
家のチャイムが鳴ったことには、もちろん気付いていた。毎週木曜日になると担任の先生とクラスの人が訪問してくるのだ。ほっといてくれたらいいのに。偽善者どもめ。そうやって私を嘲笑っているんだろう。
お婆ちゃんたちや、学校の皆は良い人だ。なのに……こんなに優しく受け入れてくれたというのに、私ときたら。
「舞ちゃ〜ん」
「はーい」
ここで更に逃げたら悲しませてしまう。今でも十分悲しませているというのに変なプライドで私は玄関に赴いた。
「よお」
「………だれ?」
玄関を開けると知らない男子が一人立っていた。いつもなら先生と女子の誰かがやって来ているのだが、男子がやって来たのは初めてだった。
「おい、ニート。プリント持ってきてやったぞ」
図々しく学校で配られているプリントを私に渡してくれた。きっと同じクラスの人なんだろうけれど覚えがない。人の顔を覚えるのはあまり得意ではない。(というか、イジメっ子の顔なんて覚えていたくもない)
「いやいや、ニートじゃないし私」
「プリント渡すの面倒くさいから学校に来いよ。メチャクチャ迷惑なんだよね」
「ハァ?」
私の何を知っているのだろうコイツは。
「…迷惑なら来なければいいじゃん」
「俺だって来たくて来たわけじゃねーよ」
「なにそれ…。ていうか先生は?なんで一人なの?」
気になっていた疑問をぶつける。
「なんか、会議だってさ」
「………忙しいってこと?誰かと違って」
「おい、まるで俺が暇みたいじゃねーか」
「そんなこと一言も言ってません」
何だコイツ。私は引きこもりの可愛そうな乙女なんだぞ。もっと優しく話せないのか。男ってやつはみんなこうなのだろうか。私はため息が出そうになってしまった。
「はぁ…まあいいや。プリントありがとうね」
「…おう」
彼が少し様子が変になったように思えた。
「なに?まだ何かあるの?」
早く部屋に戻ってゲーム実況の続きがみたいんだ。
「な、なんでもねーよ」
「……?」
それじゃあ、と言って帰って行った。私も部屋に帰ろう。
「あ、そうだ…」
アイツの名前、聞けばよかったかな、と少しだけほんの少しだけ後悔した。
でも、そんなことよりゲーム実況が面白すぎてアイツの名前とかどうでも良くなったけどな!
舞「あぁ〜Switch欲しいなぁ〜」




