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問題児  作者: 朝馬手紙。
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第十話



 喉が渇いたから冷蔵庫から麦茶を取り出して一息をついた。時計を見ると一時間目の授業が始まっていることを確認する。

 急ぐことなく自分の部屋に戻ってベットに横たわる。引きこもりに戻ったわけではない。

 私は考えをまとめる為に学校を休むことにしたのだ。答えはもう決まっているようなものだけれど、それでも時間が必要なんだ。


 ズル休みしたいズル休みしたいといつも思っていたが、いざ休んでみると多少なりにも罪悪感が湧いてくる。用もないのに家の中をヨチヨチと歩いてみたり見たくもないテレビをつけたり消したりして落ち着かない。遠くで学校のチャイムの音がする。あぁ、私は一体何をしているのだろう。

「のどが渇いたな」

 本当は乾いてないのかもしれないけれど呟かずにはいられない。取り敢えず家を出る理由を作るのが下手くそなだけだ。知り合いに合う可能性はゼロに近いのでオシャレもせずに玄関の扉を開ける。やっぱり今日は良い天気だ。グイグイと歩く。さっきまで感じていた罪悪感は、ポカポカ温かい日差しに溶けて消えたらしい。思わずスキップしそうで困っていたら可能性の壁を超えてきた男に出会ってしまった。

「お、大森って、スキップするんだな」

「…してないから」

 振り返ると斗真がコンビニの袋を持って立っていた。ランドセルを背負っているから寝坊したのかなと推測する。

「授業始まってるよ」

「ブーメラン」

 グハァ。…あれ?思ってたより痛くない。

「サボりとか、不良じゃん」

「別に俺もお前も不良だから。サボって良いんだよ」

「あぁ、そっか」

なる程なる程、と頷き納得する。ツッコミは只今不在です。はい。


 立ち尽くすのもアレなので近くの公園のベンチへ移動する。忘れないうちに斗真の記憶から私のスキップを消しておこうか、と考えていた時だ。

「さっきコンビニで肉まん買ったんだけど」

 ガサゴソと袋から2つ取り出して1つを私に渡してきた。私はそっと優しく受け取った。

「あんまり美味しくなかったから。一個、大森にくれてやる」

「上から目線、ウザい」

 チクチクと胸に痛みが走る。言えなかったアリガトウという言葉が、尖った角を使って私を容赦なく襲う。

「ねぇ、斗真」

「もう一個か?」

「違う」

 やはり、慣れないことをするのは難しい。頭を掻きながら何日も何日も考えてきたことの答えを本人に打ち明けることを決意した。     

 どうして恋したのだろう。憎たらしい斗真のどこが良かったのだろう。そうして一つ一つの思い出の映像を繰り返して気付いてしまったんだ。意地悪な顔に隠れてしまった優しい本心に。あの時も、あの時も、本当は意地悪していただけじゃなくて心配してくれていたんだ。ドッヂボールで菜乃花ちゃんが怪我した時も様子を見に来てくれていたんだ。ただ余計な一言を言ってしまうのが斗真なんだ。

 そして、コイツの横顔だけで私はクラクラするようになってしまった。

「すき」

 あ、しまった。ぼー、っとしていたら一粒落っことしてしまった。このときの私はとても変だった。

「え?」

 しかし彼は分かっていないみたい。

「なにその反応」

「い、いや…そっか。そんなに肉まんが好きだったなんて知らなかった」

「いや、違うから。肉まん全然好きじゃないから」

「は?」

「斗真」

「だから何?」

「……すき」

 あ、っと彼の顔が変わった。言ってしまった。私が言ったことで何かが大きく変わってしまうだろうな。別に照れてしまったとか、緊張しているわけではない。ただただ、物凄く冷静に自分の発した2文字を見つめているだけだ。だから、私はこのまま学校に行ってもいい。

「なんて顔してんだよ」

 ハッ、と自分の頬を両手で触る。

「おい、トマト」

「だ、誰がトマトだ!」

「俺、トマト好きなんだよね」

「はぁ?何?ベジタリアンだったの?」

「ウソ」

 グイッと斗真よ胸ぐらを両手で掴む。このまま、ぶん投げてやろうかと目で訴えた。

「すぐキレるよな、お前って」

 誰のせいだよ。

「男子みたいに怪力だし」

 どうやら死にたいらしいな。

「全然女子っぽくないし」

 テメエの血は何色だ?

「友達だと思ってたのにな。どうして好きだと気付いてしまったんだろうな」

「へ?」

「アホ顔するな、トマト」

「いやだからトマトじゃ…」

「先に告白されたら困るだろうが」

 

 


 どうしよう、手に力が入らない。まともに斗真の顔が見られない。

「俺もお前と同じ好きって言葉言ったら……なんか、その…薄いよな」

 好きな人に真っ直ぐ見つめられて言われたら…と想像したトマトはブンブンと首を横に降る。

「えぇ…」

「カッコいい言葉はいらないの!早く言え!」

「うわ…急に元気になりやがった」

「適当でいいから!」

 だがしかし、トマトの必死の要望は叶うことはなかった。

「適当じゃねーよ。本気だよ」

 

 少女漫画を読むことも、映画のラストシーンも、どんなラブソングも、彼氏からの2文字には敵わない。私はクラクラしながら、新たな発見を見つけた喜びを味わったのでした。




舞「アンコール!アンコール!」

斗真「ハァ……なんでこんな奴を……」

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