レト 動物たちを、一番愛する大きな森
「さて、今日はみんな、どうしているのかな」
誰にも聞くことのできない声で、呟いていたのはこの大きな森。
大きな川で東と西に分けられたこの森の、西側の中心にある、森の動物たちが『根っこ広場』と呼ぶ広場にある、この森の木の中で最も大きくて長生きな『特別な木』でした。
『くそっ! リスっ子め。また俺を使っていたずらを仕掛けてやがる』
「あっはっは、シーレのやつか。いたずらに使うその想像力を、他のものに使えばいいものを」
『聞いてくれよ。わしがつけた沢山の実を、ヘビの子がぜーんぶ食っちまった』
「ロイのやつは相変わらず食いしん坊だな。なのにあんなに細いのは不思議なものだな」
『特別な木』は、この森の中心の木。
この森の全ての木と根っこで繋がっていて、お互いに意思疎通が出来ました。
『まーたあのキツネっ子ったら! あの子はお人よしすぎる!』
「ふふっ、リンのことか。まあ、それがあの子の個性だからな」
『ああ、コマドリさんの歌にはうっとりしてしまうね』
「ああ、フルーだな。あの子の歌は本当にいい歌だ。また聞きたいよ」
『特別な木』は、一番長くこの森にいます。それに、他の全ての木と根っこで繋がっています。
なので、『特別な木』は、なんでも知っていて、なんでもお見通しなのです。
『——痛っ! こっちじゃまたアライグマの子が乱暴してきたよ。痛いったらたまらんが、まあ仕方あるまい』
「ディゴのやつか。相変わらずの暴れん坊だな。まあ、仕方あるまい」
『ねえ、レト。クマの子が泣いているよ。橋が渡れないと泣いている』
「パフか。あの子はいつも橋を渡れずにおるものなぁ。あの怖がりがなんとかして治らないものか」
『特別な木』の名前は、レト。
自分がどのくらいここにい続けているのか、自分でも分からないほど、長生きをしていました。
レトはこの森を、この森に住むものみんなを愛していました。
昔、レトは自分一人で孤独でした。
しかし、少しずつ木が増え、動物が増え、たくさんの木々の集まりとなったレトの森は、願いを叶えると言う噂のある池を飲み込みました。
そしてさらに木は増え、レトの根っこはどこまでも遠く長く伸び、たくさんの木と繋がってきました。
ある時突然地面が割れて、慌ててレトやレトと繋がっていた木々が根を伸ばして、その繋がりを維持した、なんてことがありました。
その割れ目がこの森を西と東に分けたことも。その割れ目に水が溜まり、やがて大きな川となったことも。そして、東の森で最も長生きの木が、近くにあった願いを叶えると言う池に、自分の自慢のドングリを落として川に橋をかけてほしいと願ったことも。その願いは叶ったけれど、年月が経って橋がボロボロのオンボロ橋になっていることも。レトは全てを見てきました。
レトは自分一人しかいなかったこの場所が、ここまで大きな森になったのを見てきたからこそ、他の木々よりもこの森を愛していました。
——わたし達の愛するものたちが、この森の木の全て、東の森にある池や、東と西でこの森を分かつ川も、草木や実も、大きな川にかかる橋も、この森に住む全ての動物たちもみんな、今日も幸せでありますように。
レトが、森の木々がそう願った、その時。
レトから、森の木々から、うっすらと赤いオーラが滲み出し、西の森におわんのような形のアーチをかけました。
そのおわんの底は、一番大きな木であるレトの、その上にありました。
『なんだ、これは』
『こんなもの、見たことがない』
『赤いアーチだ』
『逆さまのアーチだ』
自分も空を見上げ、その赤く逆さまなアーチを見て、レトは、すぐに気付きました。
「——ああ。これはきっと、わたし達がの想いが形になったものなのだ。ああ、絶対にそうだ。だから皆、怖がる必要はない」
そう。
それは、レトや森の木々達がこの森やこの森に住む動物達を愛する気持ちから生まれた『愛の赤いアーチ』。
そのアーチは、美しく光り輝きました。
——大好きだよ。
そんな森の木々達の想いを、映したかのように。