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公務員スレイヤー  作者: 武論斗
第1章:無修正と呼ばれる男
3/3

三殺:無修正、の名を冠する者

―――――――  1  ―――――――



 長い夜――

 そう、表現するのが妥当だとう

 鬱積うっせきした憤懣ふんまん身悶みもだえしているにも関わらず、人々は社会にあらがう事さえせず、怠惰たいだ色褪いろあせた見せ掛けの公平社会ディストピアう名の惰眠だみんむさぼる。

 週休五日制のもたらした寂寞じゃくまくたる街並みは、白黒モノクロ写真(さなが)ら。

 極度な理想が反映された社会生活は、静寂せいじゃく愚鈍ぐどんな毎日と云うときいざない、白痴はくちれ流す。

 非生産的な社会が、世界を、日本をおおい尽くし、忍びる。


 きたい職業50年連続一位、それが公務員。

 すでに殿堂入りしており、就きたい職業の選択肢から外されているほど

 公務員の採用枠は拡大の一方。それでも枠は足りず、みなし公務員にまで、拡大。

 人口三億を越えた列島の掲げる目標は、国民総公務員化。

 およそ、馬鹿げているが、仕方がない。

 それを、国民の多くが望んでいるのだから。


 月曜日、公務員達の登庁とうちょうに、大地が揺れる。

 おそろいの革靴は自治体からの配給品。

 おびただしい数の革靴に踏み付けられるアスファルトの整備は行き届いていない。

 メンテ不足が顕著けんちょなのは、誰の目から見ても明らかだが、それ(・・)を口にする者はいない。

 極端きょくたんな労働時間の圧縮あっしゅくとは、そう云う事だ。

 ――宿題。

 お役所言葉で云うところの宿題。要は、棚上たなあげ、だ。

 分かってはいるが、時間がない。

 “働く(・・)”時間が、だ。

 法の定めたる労働時間を超過してはいけない。

 それは、“みな(・・)”が求めた事なのだから。

 みな(・・)が求めた政治家が、みな(・・)の求めた要求を法案として通し、これをみな(・・)が受け入れ、みな(・・)生活する。

 みな(・・)とは、多数派。

 無論、少数派の意見も聞き入れ、公正・平等・公平・中立的たる采配さいはいを行使、差別・偏見を極端に無くした理想社会。

 これが理想的な民主主義、21世紀末の日本の姿。

 美しい国、日本。ここに極まれり。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 火事――

 行き交うパトカーと消防車。

 都内外れでまた、不審火ふしんび

 スマホのニュースでは、そう流れている。

 ――しかし。


 最近、ネット界隈かいわいで噂になっている。

 放火そのものが目的ではなく、何者かによる襲撃しゅうげきの結果、と。

 それは、公務員やみなし公務員を対象とした襲撃である、と。

 そう、公務員殺し(スレイヤー)仕業しわざ、と。


 公務執行妨害ですらその罪状は重く、無期むきしくは12年以上の懲役ちょうえき

 公務員を対象とした暴力や傷害は、それだけで30年以上の懲役となり、過去、この刑の対象となった最長記録は、懲役141,079年の刑期がとある(・・・)男性に下された。

 死刑制度が廃止された現在のおいて最悪の犯罪、となっている。

 もし、公務員殺し(スレイヤー)の噂が真実だとしたら、刑期の最長記録を塗り替えるかも知れないと迄、うそぶく者もいる。


 以前であれば、公務員殺し(スレイヤー)の噂をインターネットでつづる事さえ出来なかった。

 根も葉もない噂話うわさばなし、つまり、情報源ソースのはっきりしない文章は、全てフェイクニュースと見なされ、5年以上の懲役となるフェイクニュース取締法の刑罰対象となるからだ。

 言論統制の一環いっかんでしかないこの悪法だが、あまりにもその適用数が多い為、人々は従わざるを得なかった。


 ところが、公務員殺し(スレイヤー)を思わせる匿名とくめいの書き込みが登場し、その内容と事件との一致性がいちじるしく似通っていたためフェイクニュース取締法から一部、れた形になっていた。

 抑々(そもそも)、犯行予告そのものが重大な刑事罰の対象であり、これをものともせずに書き込み、実際の犯行に及んだのであれば、それはまぎれもなく公務員殺し(スレイヤー)当人であろう、と予想され、噂の火種ひだねとなったのだ。

 そして何よりも、取り締まるべき公務員達が、自らその情報を拡散している、と云う事実。

 当然とうぜんと云えば当然。

 何故なぜなら、もしも、公務員殺し(スレイヤー)なる存在が実在しているのであれば、自身もまた、その事件の対象になりてしまうからだ。


 公務員という者達は、自らの安泰あんたいを一番に願う存在。

 一生の安泰を願いく職務こそが公務員であり、その安定性を勝ち得る為であれば何でもする、それが公務員。

 同様に、公務員にある者であれば、自身の多少の違法性・適法性に関しては法規的、組織的に目をつぶってもらえる、その特権がある、と信じて疑わない。

 事実、重大な過失でもない限り、所属する官公庁は公務員を包括的ほうかつてきに、それが適法ならざるものと知った上でまもっている。

 特権を有するが為、彼らの口を、閉ざすべきものが損なわれていたのだ。


 マスコミが封殺ふうさつしている公務員殺し(スレイヤー)の噂は、公務員達の、その特性故にネットを通じて蔓延まんえんし、真実が分からない故、また、どこの新聞社も報じないが故、益々(ますます)、混沌として行く。

 これが、公務員殺し(スレイヤー)自らによる仕掛け、こうなる事を読み切った上でのねらいであったとしたら、どれ程、怖ろしいものであるか、いまだ公務員達は気付いていない。


 ネットでささやかれている公務員殺し(スレイヤー)暗号名コードネームは、狩靡庵かりびあん虚武こむ

 およそ、一世紀近く前、20世紀末から21世紀にかけ、現在のネット環境が整い始めた狭帯域通信ナローバンドから広帯域通信ブロードバンドへの移行時、様々なホームページにあるアンカーリンクを辿たどって行くと最終的に閲覧ブラウズしてしまうアダルトサイトの名称。

 Yahoo(ヤフー)が入口であれば、カリビアンコムが出口。そう思わせる程、トラップまみれのリンクの源流、それがこのアダルトサイト。

 そして、そのサイト名を公務員殺し(スレイヤー)の暗号名として揶揄やゆした。

 無論、揶揄であれば良いのだが。

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