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俺の名前はディーン。田舎の山村産まれの22歳の男だ。
15歳まではそこで畑仕事やら家畜の世話をしてたんだが、そんな生活に嫌気が差してそこを飛び出して王都にやってきた。
そこでいつでも募集している兵士として一応ながらの職について、日々のきつい訓練や市街の門番や見回りをしながら糧を得て生活していた。
え? そんな生活なら田舎村にいた頃のほうがマシだったんじゃないかって?
バカ言え、どれだけ働いても無限に仕事が回ってくる環境だぞ。しかも重労働なうえにもちろん金なんかもらえないし、作物の収穫季になると領主様に税としてその内の何割かは持っていかれるしな。
いや田舎の話しなんてもういいよ、誰も興味ないし俺もあんな場所思い出したくもない。
金が貰える上に娯楽もあるこっちのほうが何倍もいいよ。
こっちに来てから7年経ったわけだけど俺も随分成長した。修練場での稽古や模擬戦に、野外訓練での魔物との戦闘によりレベルが上がりスキルも習得した。
説明が難しいんだけど、レベルっていうのは魔物を倒すことによって自分の存在の位階が上がって、それが上がるほどに身体能力なんかが向上するってものらしい。
何言ってるかわからんって?大丈夫だ実は俺もほとんど何も分かってないから。とりあえずレベルが上がれば強くなると思っておいたらいいよ。
次にスキルなんだけどこっちは何て言ったらいいか。
たとえば俺が訓練で覚えた『剣術』っていうスキルがあるんだけど、このスキルをもっていると剣を使う時に何となく動きにキレが増すというか、今まではなんとなく振ってた剣の無駄な動きが分かるようになってきたというか洗練されてきたっていうか、とにかく『剣術』のスキルを覚えてから剣の扱いがうまくなって上達も早くなったんだよ。
でもスキルには種類があって『剣術』みたいに剣の扱いがうまくなったりその成長を補助してくれるようなものもあれば、『毒耐性』みたいに毒攻撃を受けたり毒物を食べた時に毒状態になりにくくなるもの。
『スラッシュ』っていうスキルは刃物武器だけでしか使えないスキルで、剣を振り下ろして斬るだけのスキルなんだけど、そのスキルを使えば自分で剣を振るよりも速くて重い一撃をうつことができるスキルなんだ。戦闘用以外でも日常的に役立つようなスキルもあるけどそれは別にいいだろ。
ちなみにスキルは才能がまったくないわけじゃなけりゃ鍛練次第で覚えることができる。一般的なやつはな。
噂ではユニークスキルっていう極わずかな人しか持ってなかったり、種族特有のスキルもあるみたいだけど。
自分がどんなスキルを持ってるか知りたければステータスを確認すればいいよ。
ステータスっていうのは個人の能力を表すものの俗称みたいなものだ。
自分の種族や習得しているスキルを見たり、自分の基礎能力の力や耐久力なんかを数値化したもので、ステータスを見るにはそれを見る魔法道具やスキルを使うか、自分のだけなら自分の内側を覗きこむようにすれば確認できるよ。
…説明下手だからこれ以上の説明はできないからな。
あぁそれと、覗きこむやり方ならギフトも確認できるよ。
ギフトっいうのは、産まれた時から持ってるスキルみたいなもので誰でも持ってるわけじゃないけど稀にそれを持って産まれてくるやつがいるんだよ。
スキルとの違いは正直なところわからないんだけど、かなり特殊な能力らしくて基本的に他人には話さないほうがいいみたいだ。
無害な能力だったら別に関係ないと思うけどな、俺みたいに。
まぁ、一応俺もギフト持ちなんだけど俺の能力って正直使い方がわらかないんだよな。
『生まれ直し』っていうんだけど。
何だよ生まれ直しって、使ったらもっぺんお袋の腹の中からやり直せるってか?誰が使うんだよそんなもん、変態かよ。
…でも実は正直いまはそんなものでもいいから使いたい状況に追い詰められてるんだけどな。
さっきから自分の語り、ってほどでもないけど自分の話しをしたり、スキルやらステータスの下手くそな説明を頭の中でも繰り広げてたのはぶっちゃけ現実逃避なんだよな。
何でかって? うん、実は俺が今住んでる王都なんだけど王国への足掛かりとして隣国に攻めいられてるんだよね。
正直人との殺し合いなんてまっぴらごめんだから勘弁願いたいんだけど、一兵士として逃げ出す訳にもいけないから上の命令で戦闘を開始したんだけど不意討ちだったのもあって味方がばっさばっさやられていって俺も今敵に囲まれて大ピンチなんだよね。
…そっち側に寝返るからって言ったら見逃してくれないかな、なんなら最上級の謝罪方法の土下座を披露してもいいよ?
まぁ、絶対見逃してくれないだろうけどな。だってこいつら明らかに殺しを楽しんでるもんな、同僚の殺られ方を見てたら分かるよ。あれは酷い。
打つ手なしか、しょうがないか、本当はこんなことしたくなかったんだけどあんな殺され方するぐらいならこうしたほうがいいよな。
あーあ、こんなことなら王都じゃなくてあちらさんの国に行けば良かった。
つか、そんなヘラヘラ不気味な笑顔浮かべてこっち見るなよな、怖いっての。
でも、最後におまえらのその顔を歪められると思うと清々するよ。
じゃあ長々としょうもないことを考え続けるのももう終わりだ、最後に一言声に出していってみるとするか。あ、あいつらに聞かれたら笑われるかもしれないから小声で、見られるのも恥ずかしいから注目も逸らせるか。よし、じゃあせーの。
毎日やってる動作だ、淀みなく腕は動く。左腰の鞘から右手で剣を引き抜いてその場で一度剣を振り払う。相手の意識が剣に集まったところでその剣を真上に投げ棄てる。
よし、成功。じゃあなお前らがアホ面で上を向いてる間に終わらせてやるよ。
「お袋、親父悪い」
背中側の腰に吊るした鞘から右手でナイフを引き抜いて、鎧の隙間からそれで自分の首を横一線に斬る。
血が噴き出してめちゃめちゃ痛い、熱い、けどこれじゃ死ぬまでに時間がかかる。近くに回復魔法の使い手がいたら回復された上でいたぶられて殺される。そんなのは御免だ。だからもう一息死ぬ気で頑張れよ俺!
痛すぎてあんまり力は入らないけどあと一発喉にぶちこんでそれでしまいだ。
両手でナイフを握って、いけ!
喉元に無理やり異物が捩じ込まれた感触がして、全身から力が抜けて膝をついた音で周りのやつらが死にかけの俺に気づいた。
気づかれたけどまぁいいよ。もうさすがに助からないから。じゃあな。
結局人生最後に見た光景は敵兵の呆けたアホ面だった。
ん?
なんだ? まぶしい。
もう朝か……いや、違う、なんで俺は光を感じてる? まさか、生きてる? 嘘だろ? あの状況から死ねなかったのか!?
まずい、拷問とか死ぬより嫌なんだけど。目が開かない、身体も動かせない。いや、ちょっと動くけど、プルプル震えるだけで力が入らない。
でも身体はまったく痛くない。痛みを感じないぐらいぼこぼこにされたのか。それともあの状態から俺を回復させたやつが気絶するたびに俺を回復してるのか?
…最悪だ、こうならない為に自害を選んだのにこれじゃ意味がない。
ってうわ!? なんだ? 今顔に生暖かい何かが触れたような。
うぉ! やめて! なにこれ! 生暖かい上に獣臭い! なんの拷問だよこれ! 痛みはないけど不気味で気持ち悪い!
ちょっ! だからやめろって! …あ、目が開いた。
…開いた、んだけど、なにコレ、目の前に俺より遥かにデカイ獣がいるんだけど。
え? 俺、喰われるの? あいつらこんな化け物飼ってたのか? ちょっと待って俺餌じゃないよ! 不味いよたぶん! 鎧着てるし!
ってさすがに鎧は脱がされてるか。
あれ?いや、目を開けてから今初めて自分の手を見たんだけど、なんだ、薄いピンク色で産毛みたいなのが大量に生えてて、は?
いや、何か周りにも俺と同じのような色の産まれたての犬みたいなのがいるんだけど、あれ? 俺と同じだよな?
うわ! デカイやつに舐められた! …あぁ、さっきから感じてた獣臭い生暖かさはこれか。
ん? 目の前のデカイやつって、よくみると魔物のウェアウルフじゃないか?
…いや、ちょっと待てよ、周りにコイツの子供っぽいのがいて俺も手しか見てないけどコイツらと同じで、デカイのが周りの子供をペロペロしてて、俺もペロペロされて? 俺もコイツの子供で? デカイのが俺の親で?
いやいや、それはない。いくらなんでも意味がわからないし。
…でもなぁそう考えると一つ気になるモノがあるんだよなぁ。
うん、そう俺のギフトなんだけどね。
『生まれ直し』って名前なんだけどね。
いやぁ、うん。これは酷い。
名前通りの効果ってわかったけどこれはないわ。
赤ん坊からやり直すにしても人だろ、そこは。俺人間、コイツ魔物。流石に酷すぎないか神様。
…でもこうして生まれてしまった以上はこれからは魔物として生きていかなきゃならないのか。
どうすんだよホント。…あのもう舐めないでくれません。