第1話 死んだのですが?
コンテニューできないゲームをリタイアした。
あぁ、意識が薄れていく。
痛みはない。けど、なんか寒気がするなぁ。
地面に自分の血だまりができているのが分かる。
ふと、視線をずらすと。
──アイツ、笑ってやがるよ。俺を刺したあの女。
にしても俺、死ぬのか。なんか実感が湧かないな。
アイツらのことを考えると、少し寂しい感じもするが。
ごめんな。俺、人生からリタイアするわ。
意外と早かったな。
こんなクソみたいな世の中とおさらばできる。
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夕日が眩しく感じる7月下旬の5時前。田舎なだけあってか、人通りの少ない駅前。
「でさー、最初コイツが何言ってるかわかんなかったの」
「ウケる! 自称クズだもんね、木賊」
目の前を歩いているこの二人は、俺の数少ない親友の不来方紫苑と東安庭菖蒲。後ろに俺がいるの忘れてませんかね。
愛宕木賊。これが俺の名前。変な名前?知ってる。
この名前のおかげで、小学校の頃はすぐに名前を覚えてもらえた。まぁ、それだけなんだけど。
如何せん俺はクズだから、覚えてもらったところで友達にはなれないけどな。
上等だ。友達なんていらない。
こんなクソみたいな世の中なんだ。友達なんて作ったところで、ソイツらもクソみたいな奴らだと思ってた。
でも、菖蒲だけは違った。家が近所で親同士の仲が良かったというのもあったが、どんなに俺が拒絶しても気にせず話しかけてきた。
最初は、変わった奴だと思ってた。でも、何かはわからないが、他の奴とは違うと小学生の俺は思ったのだろう。気づけば菖蒲とは友達になっていた。
菖蒲のおかげで、小学校の頃と比べて大分まともな中学校生活を送れただろうな。
そんで高校生になって、紫苑に出会った。コイツも変わったやつだよ。……お前が言うな?その通りですね。はい。
高校生活の初日の自己紹介で、何を血迷ったかこう言ったんだよ、俺。
『愛宕木賊です。趣味は体を動かすこと。中学ではサッカーやってました。後、友達はできないのでいりません』
思い出しただけで頭が痛くなってきた。なんでこんなこと言ったんだ、俺。
クラスがざわつく中、紫苑と目が合った。他の奴らが変な物を見る目を俺に寄せる中、コイツだけは違った。
キラキラさせてたんだよ、目を。
その時、俺笑っちゃったんだよ。それでまた変な目で見られてさ。
紫苑とは隣同士だったから、打ち解けるまでにそう時間はかからなかった。
──だからって、今その話を菖蒲にするなよ。恥ずかしいだろ!
というか、お前らいつ仲良くなったんだよ……。
「うるせーよ。てか、自称じゃねぇ。俺は自他共に認めるクズなんだよ」
「僕も菖蒲も、木賊をクズだなんて思ったことないよ? ね?東安庭さん」
「そうだよ! あ、アタシのことは菖蒲でいいよ! 東安庭だと長くて呼びづらいでしょ。アタシも紫苑君って呼んでいい?」
「じゃあそうするね! 全然呼んでもらって構わないよ!」
「てか紫苑。お前らいつの間にそんな仲良くなったんだ……?」
「え、あぁ……。 今だね!」
コイツやべぇ。コミュ力お化けかよ。
「すげぇなお前……」
「木賊の友達は僕の友達!」
「まぁ、木賊の友達ってアタシくらいしかいないんだけどね」
コイツ……。今、俺を笑ったな? ダークサイドに堕ちそう。
「菖蒲さん! LINE交換しようよ!」
「うん、いいよー……って、あれ」
「どうしたの?」
「あれー……。アタシ今日スマホ家においたままだったみたい」
「菖蒲……もう学校終わったぞ。気づかなかったのかよ」
「そういや今日スマホ見てないや! ごめん紫苑君、木賊に教えてもらって?」
「わかったー! 木賊、菖蒲さんのLINE教えて! 3人でグループ作ろうよ!」
女子高生かお前は。
「あいよ。……って、あれ」
「まさか!」
「あっれー木賊? 人の事言えないんじゃない?」
「一緒にすんな。学校に忘れてきたかもな」
「あ、木賊。そういえば帰るときスマホ机の中にいれっぱなしだったよ?」
「今言うなよ! わり、ちょっと取ってくるわ」
「はーい。アタシたちここで待ってるね?」
「先帰っててもいいぞ?」
「いいの! 待ってる!」
「はいはい……。じゃ、すまんがちょっと待っててくれ」
「寄り道しないでまっすぐ戻ってくるんだよ?」
「お前は俺のオカンかよ。すまん紫苑、菖蒲とちょっと待っててくれ」
「了解!」
俺は二人を駅前に残して学校に戻った。
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「あった。良かったー」
自分の机の中を確認すると、黒いスマホが入っていた。
あんまり使わないとはいえ、なくしたら困るからな。
スマホをブレザーのポケットに入れて、教室を出ようとした……その刹那。
「何だ?」
わずか一瞬だが視線を感じた。こう見えても人の視線には敏感な方だ。特に、悪意ある視線にはな。まぁどう見えているかは知らんが。
今の視線は違う。悪意ではない。何か……欲しいおもちゃを見つけた時の子供のような、興味や好奇心のような視線だ。
しかし、教室には俺一人。文化部に割り当てられた教室でもないし、ここは3階だから校庭の運動部の奴らでもない。
何か変だ。早く教室を出よう。そう思って、教室のドアに手をかけた。
「愛宕木賊だね?」
声をかけられた。どこかに隠れていたのか?
振り返ったその先には──セミロングの黒髪にメガネをかけた少女が立っていた。
「ねぇ、聞いてるんだけど。君が愛宕木賊だね?」
「……だったら何だ。つーか、お前誰だ? ウチの生徒じゃねーだろ。」
「あれ、よく分かったね。ちゃんとここの制服も調達してきたんだけど」
「いくらウチの校則が緩いからって、そんな物騒なもん持ち込む生徒なんている訳ないだろ」
「あ。盲点だった」
コイツ、バカなのか。
しかし問題はそこじゃない。この女は、何故か黒と赤の日本刀の様な物を持っている。
「まぁいいや。君が愛宕木賊と確認出来たらそれでいい」
「おいおい、何する気だよ」
「大丈夫。一瞬で終わるから」
「終わる? 何がだ」
よ。と、最後まで言えなかった。
言葉が出ない。上手く喋れない。
それに、目の前にいたはずの女がいない。
視線を下げると、漆黒の刃に深紅の刃文が映える刀身が、俺の腹から突き出ていた。
そして、さっきまで目の前にいた女の声が、俺の後ろから聞こえた。
「さようなら。この世界の、愛宕木賊。そして──」
フォレストヒルで会いましょう。
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「木賊遅いねー」
「そうだねー。何してるんだろ?」
「紫苑君から連絡してみてくれない?」
「分かった!」
東安庭菖蒲。
不来方紫苑。
この二人は。
愛宕木賊が既にいないことを。
まだ、知らない。
他サイトで書いているものをこっちでも書き始めました。
拙い文章ではありますが、読んでいただけると幸いです。
感想や誤字報告などいただけると嬉しいな。