ささやかだが「成果あり」
巨大な生物が大阪に来襲した時、第一線にいた陸上自衛隊の隊員の手記の一部です。
「あのときは、正直怖かったですね。
我々は第7普通科連隊の第2大隊で伊丹駐屯地にいました。
まだ本格的に改編される前でしたから、今よりは贅沢なアメリカ流の編成でしたが、それでも歩兵主体の部隊には違いありません。
そんな我々の任務はまず、沿岸部の住民の退避の支援です。今のように皆が車持ってる訳でないから、ずいぶん後の神戸の地震の時みたいな、車の渋滞なんかはなかったですが、その分徒歩中心での移動だから、早目早目の退避を促すのに苦労したもんです。
装備と言っても、各中隊ごとの重火器小隊くらいしか、役立ちそうなもんありませんからね。無反動を怪物に撃ち込んだ連中に聞いても、対戦車榴弾が確かに命中しているはずなのに、効果なしなんです。
それも75ミリとか一昔前の戦車の弾みたいなのが、命中してるのに。
砲兵じゃあないや、特科?の野砲も直接支援してくれてますし、こっちからも命中してるのが見えていても、一向に効果が見えない。
私も先の戦争では8連隊で中支をひたすら歩いて戦ってきましたけどね、こんだけ火力を集中してもだめなんて初めてで、心底怖くなりました。
とは言え、今ではこっちも部下を持つ身ですから、怖がってばかりもいられない。
とりあえず交通統制任務が完了次第、こちらも退避をと思って、我慢して沿岸に進出した監視哨から、状況を確認してました。
そのうち「巨大生物、こちらに向けて移動開始!」と見張り員の声がします。
あわてて、双眼鏡で見ると、まさに奴と視線が合いましてね。まあ原始時代に恐竜と出くわしたご先祖様の気持ちがわかる気がしましたよ。
このままでは、まともな 掩蔽壕でもない監視哨なんてヒトタマリもないから、「総員退避」を発令して、回りにいる若い隊員から撤収させました。
ドドーンて、まるで野戦重砲の 響きのような足音が迫ります。困ったことに、こいつ意外と足が速い。
しかも想像してなかった、火炎のようなもんまで放つんですな。
後ろから受けた砲撃が気に入らなかったみたいで、ちょっと振り返って、口から火炎を放ちます。
ちょうど、海軍さんの、小さな舟艇が機関砲やらロケットを撃ってるとこだったんですが、見事に直撃、たちまち爆発、轟沈です。可哀想に全滅でしょう。
そんなとこ見たら、こちらも必死です。
後で聞いたら、戦車、もとい特車もやられてるらしいですな。もともとは、踏まれなければなんて思ってましたが、今の見たら、意外と火炎攻撃の射程が長い。
これでは我々の火器では射程もないし、火力も小さいからこのままでは、潰され損です。
とりあえず、野戦通信機と武器以外はおっぽらかして撤退です。
監視哨に残されたたった1両のニトン半のトラックに皆が乗って逃げ出したのと、先ほどまでいた、監視哨が奴に踏まれてぺしゃんこになるのがほぼ同時でした。
安治川沿いに逃げ出した、我々を追う形で怪物が寄ってくるんで、もうだめかと思ってた時、我々の前方から多数の砲弾が白い航跡を引きながら飛んできて奴の周囲に命中します。
こんな攻撃は見たことなくて、びっくりしました。
まるで戦車の砲撃のような、高速で低伸した弾道でいくつも来るんです。
てっきり、私は新手の戦車部隊が応援に来てくれたかと思って見ましたが、どうやら多数に見えた砲撃は実際には多連装のロケット砲が1個中隊いただけらしいです。良く見ると、2両ごと組みに なった車両が交互に射撃していました。
まあ、多数のロケット弾を装備してるから、再度の装填には時間がいるからだろう位はわかりましたが。
あとから聞いたら、高速のロケット弾で下手な戦車の弾並みに速いらしい。
知り合いの海軍さん、あっこれも海上自衛隊ですか。
もとい海上自衛隊の知り合いに聞いたら、なんと先っぽを切り取ったムクの弾らしいんですな。どうやら潜水艦の船体に命中したら外殼やらを撃ち抜けるようにしてたらしいです。
先っぽを切ったから、水面でスキップせずそのまま、水中に飛び込むとのこと。
色々工夫があるもんです。
我々の乗ったトラックはおかげで奴の注意からそれて助かったし,助けてくれたロケット砲隊もたまたま上空からの戦闘機の攻撃に気をとられてる隙に、無傷で撤退できたらしいです。
彼らは命の恩人でしたから、あとから無事を聞いてホッとしたもんです。
怖かったでしょうな