表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死体蹴りが必要になった社会  作者: ごんの者
1章 【死体蹴りが必要になった社会】
9/29

第8話「死者が歩けば坊主が儲かる」

「そういえば、今日出席した会議で議題に挙がってたんだけど。最近、妙な宗教団体が幅を利かせているらしいの」


 俺への愚痴合戦も終わり、一息ついた透子さんが思い出したように口にする。


「レヴェナントって喉仏が十字架に変わるじゃない?仏が十字架に変わるもんだから、その団体は、レヴェナントは仏教とキリスト教を経て、神に進化した存在だと主張してるみたいなの」


 なんて罰当たりな宗教団体だ。仏教とキリスト教を混ぜるなんて、どっちの教徒からも大バッシングを受けそうだけど。

 真司さんは近くの椅子に腰掛けながら、更に話を掘り下げる。


「そのイカれた団体はレヴェナントを崇めてんのか?」

「いいえ。崇めているのは、その団体のトップの万道(まんどう)と呼ばれているお坊さんらしいわ」

「どういう理屈で、そいつが崇められてるんだ?」

「そこがちょっと問題でね……。万道は、かつてエンバーマーだったらしいの。不正にエンバーマーの権利を濫用したことで、資格は剥奪されたんだけど」


 透子さんは、万道という男が宗教団体を設立した経緯について教えてくれた。


 万道はこう主張しているそうだ。


 エンバーマーだった時、レヴェナントは人類の敵ではなく、高次元に進化した存在であることに気が付いた。その真実を知ってしまったが為に、自分はエンバーマーの資格を奪われた、と。


 そして、万道は宗教団体「懺悔の教室」を設立する。レヴェナントが恐怖の対象であることを悔い改めて、神に進化した存在であることを教え伝えていく。自分が人と神を繋ぐ伝道師になることで。


「万道は、神のお告げを伝える伝道師として、信徒からは崇められているそうよ」


 透子さんの話から、万道が宗教団体を設立する経緯は分かった。しかし、いまいち腑に落ちない。


「そんなふざけた理論をどうして信じてしまうんでしょうか? 確かな事実は、万道がエンバーマーの資格を奪われたことだけじゃないですか」


 そんな俺の疑問に透子さんは、先程までの会議で得た情報と彼女の持論を折り混ぜながら説明してくれる。


「まずレヴェナントの存在自体が理論的に証明できていないことが、そういった突飛な考えすら信じさせてしまう隙を作っているのかもしれないわね。更に言えばレヴェナント登場以降、新興宗教の数は急増しているわ」


 確かに街角に出れば、勧誘で声を掛けられることも珍しくはない。

 真司さんは胸元のロザリオに指をかける。

 

「レヴェナントが現れるようになって、多くの人間が絶望に直面した。追い詰められたとき、考えることすらしんどくなったとき、人間は(すが)るための拠り所を求めるもんだ」


 かつて人は、死の恐怖から少しでも逃れるために、拠り所を求めた。

 今は、死さえも乗り越えたレヴェナントの存在によって、絶望の淵に立たされ、拠り所を求めている。


 俺は、そんな救われない世界だからこそ、神様なんて信じない。

 神様がいるのなら――そいつは性格が悪すぎる。そんなやつにこの世界を任せられるか。


 寺の住職をしている俺の義父が言っていた言葉を思い出す。


「絶望が広がるとき、坊主は儲かる。それは否定しねえよ。でもな――それがどんなものだとしても、縋ることでしか生きる希望を見出せないのなら、好きなだけ縋ればいいのさ」


「縋って縋って、それでも生きていくしかない。誰もが皆、お前みたいに強くはないんだ。それが気に入らないなら、お前が縋られる存在になればいいじゃねえか。その性格の悪い神様よりな」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ