表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/23

〜第19話〜 戦闘の果てに


人口も少なく豊かで小さな街グランデ。

つい最近にこの街はドラゴンの襲撃によって大損害を受けていた。


結果的に死者は二桁に登り、負傷者に至ってはかなりの人数になっている。


早くも壊れた建物の再建をしているようで、いつになく街には人が多いいようにも感じる。


そんな状況をただ淡々と眺めながら俺は街の外に歩いて行った。


街を出て直ぐにはだだっ広い草原が広がっており、その中で一際目立つ位置に一つの慰霊碑のようなものが建てられている。


これは今回のドラゴン襲撃の際に亡くなった人々の慰霊碑だ。

今回のドラゴン撃退で潤ったギルドが速攻で建てたものなのだが、しっかりと丁寧に作られている。


俺は手に持っている名前も知らない綺麗な花をそこに供えた。


ヴィンガス・ガレウス。

この前俺の目の前でドラゴンに殺された男。

俺の軽率な判断で死んでしまった男。

結局、あれからこの男の知り合いの冒険者はドラゴンが現れたと聞いて慌てて逃げ出した憲兵に対して抗議をした。


その結果、街で彼女の姿を見た者は居ない。


どうしてこうなってしまったのだろうか。

余程ヴィンガスの亡骸を見てショックを受けたのか、チズルはあれから宿屋に閉じ籠って出てこない。


多分アイツも俺と同じく恐怖をしているのだ。

人が最も簡単に死んでしまった事に。


「やっぱりここに居たんですね。 探すのに苦労しませんよスルガは」


呆れ顔をしながら歩いてくるネルビオは慰霊碑に花を添える俺の横に座った。


今日は少しばかり温度が高い所為か、彼女はいつもは閉めているローブのボタンを開け放している。


その中に着ているのはシンプルな黒いシャツに短めのスカートなのだが、そんな格好で体育座りをしたら色々と見えちゃってるんじゃないか?


しかし、今の俺にはそれを覗き込む様な元気も気力もない。

精神的に疲れているのだ。


ネルビオは無言でなんの反応も示さない俺に目を見開いた。


「スルガの様な変態がスカートを覗き込もうとしないなんで珍しいですね。何か悪い物でも食べたんですか?」


「いや、なんだか色々と気乗りしなくてな…………じゃなくておいちょっと待て。 俺は今までにスカートを覗き込む様な所業をした覚えはないぞ?」


「はい、確かにスルガはスカートを覗き込む様な事はした事がありません。 けど、いつも私の胸元にケダモノの視線を向けてるじゃないですか」


「……………へ、気付いてたの? 俺そんなに明らさまだった?」


俺はそんな事を口走ると、ネルビオは一瞬固まってから自分の身を守る様に後ずさった。


「いやあの、冗談のつもりだったんですが…………最低ですね」


「タチの悪い冗談はよせ。それよりもチズルの様子はどうだ?」


「………今話し逸らしましたね?」


「…………それよりチズルの様子はどうだ?」


「この男何が何でも話を逸らす気ですよ! もう本当にゲスですね。 余裕面して話題変えてますけど実は内心焦ってるんですよ絶対!」


い、いや、別に焦ってねぇし。

本当にチズルの様子が知りたかっただけだし!


断固として話題転換を譲らない俺をネルビオはジト目を作って見つめる。

完全にこれは人を疑っている目だ。


「…………まったく、チズルは未だにドアの外から声を掛けても生返事しか帰ってきませんよ」


「そっか、あいつもあいつで悩んでんのかね」


「どうでしょう、でも正直そろそろ部屋から出てくれないと流石に困りますよ」


ネルビオは草に居たテントウ虫らしき虫を捕まえて指の先に乗せながら呟く。


テントウ虫モドキはネルビオの指から飛び立って慰霊碑の方にとまった。


そう、チズルが一人で宿を独占している所為で毎日宿代が発生している。

二部屋借りるお金の余裕もない俺は、カルディアに頼み込んでネルビオと一緒に武器屋で寝泊まりをしていた。


「それもそうなんだよな、どうしたものか」


「まぁでも仕方ありませんよね、あんな事があったんですから。 もうちょっとだけ様子を見ましょう」


「俺の財布が空にならないうちにどうにか出てきて欲しいもんだ。………そういえばお前はなんで俺を探してたんだよ?」


「はッ‼︎」


俺の問いにネルビオは何かを思い出した様に目を見開くと、突然グイグイと詰め寄ってくる。


「完全に忘れていました! ギルドが全盛期の頃と比べるとまだ足りませんがドラゴン撃退で名を挙げたみたいで他の町からも依頼が殺到してるらしいですよ。 これで冒険者も増えます。 全ては私達の思惑通りですね」


「おぉ、マジか! ついでにドラゴン討伐の報酬はどうなってるんだ⁉︎」


俺が興奮気味に問うと、ネルビオがキョトンとしながら瞬きをする。


「そんなの私が断りましたよ。 私達はギルド再建のために戦ったのです、その結果ギルドからお金を貰ってたら意味ないですよ」


「お前という奴は! なんでそんな勿体無い事してんだよ、俺達が金を持ってないのをお前だってよく知っている筈だろ⁉︎」


「それはそれ、これはこれですよ。 そんな我侭ばっかり言ってたらいひぁい! ほっぺひゃをつねるほをやめへくらはい!」


ジタバタと暴れるネルビオを押さえ付け、更に力を入れて頬を抓る。


やがて満足がいったので離してやるとネルビオは抓られて赤くなった頰っぺたを抑えながらキッとこちらを睨む。


「よくもやりましたね⁉︎ 私は正しい事をしたというのに何故こんな仕打ちを受けなければならないのですか!」


「状況を考えろよ、お前いつまでもカルディアさんの世話になる訳にはいかないだろ?」


「いいんですよ、あの人は」


そう言ってネルビオはバツの悪そうな顔をしながらそっぽを向く。


「お前、なんか姉に恨みでもあるのか?」


「恨み…………とは違いますね、端的に言うと嫌いです。 性格とか性格とか性格とか」


「そんなにか?」


見た感じでは優しくておっとりしてる様子だったが、実は妹にしか見せない裏の顔があったりするんだろうか?


だとしたら詳細を聞いたら人間不信になりそうだ、止めておこう。


代わりに俺は前々から気になっていた事をネルビオに問う。


「そういえばなんでカルディアさんって男の服着てるんだ? あれ程顔が良けりゃドレスとか間に合うだろうに、ってか普通に鍛冶屋が似合わない」


「そうですね、説明が長くなるのでカルディア本人に聞いて下さい。 面倒くさいです」


「うん、お前もう砕け散れ」


気だるそうに手払いするネルビオに俺は精一杯の悪意を込めて言い放った。


ネルビオは俺の放った悪口を軽く受け流すと生い茂る地面の草をむしりながら、


「ともあれこれからどうしましょうか。 今私達が出来る事なんて帝国に対するみみっちい嫌がらせぐらいなんです」


「皇帝の所に特攻すればいいじゃん、お前単独で」


「スルガは私に死ねと言っているのですか⁉︎ 強者揃いの王都に乗り込んだりなんてしたら私なんて一瞬でチリになりますよ!」


「そんなにヤバイのか王都ってのは」


「マジヤバです、スルガなんて道中で死にますよ」


「それ俺モンスターにやられてるよね?」


いや、流石に俺だって王都周辺に出るような雑魚モンスターに負けるような事は………あるのかもな、うん。


よくよく考えれば俺コボルト相手に苦戦してたような気がするし。


「とにかくです、立ち直りつつあるギルドに私達は冒険者登録をしましょう。 今の内に恩を売っておけば後々王都を相手にした時に助けてくれるはずです」


「だな、とりあえずはその方向で行くか。 依頼が殺到してるならそれなりにお金も稼げそうだしな。 今どこぞのバカの宿代で金銭も底を尽きつつあるし」


俺はそう言って溜息を吐いて立ち上がる。

しかしネルビオは俺に続いて立ち上がる事は無く、草の上で膝を抱えながら空を見やった。


「チズル、立ち直りますかね」


「…………どうだろうな」


そんなやり取りをしてから俺達は最後に慰霊碑に手を合わせた後、一旦ギルドへと向かった。







ども!


今回は評価を下さった方が居ましたので再開させていただきました。


稚拙ながら表紙の方も描いたので良かったら見てください!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ