〜ドラゴン討伐編最終回〜 完了
ども辰太郎です!
まずは読んでいただいてありがとうございます。
今回はこれでドラゴン討伐編は終わりです。
評価やブックマークの数からこのまま打ち切りにするつもりなので。
もし、もう少し見たいとか思ってくれる人がいるのなら感想などに書いてください。
それでは、皆さんどうもありがとうございました!
「多分この人数じゃドラゴンは討伐できないだろう。 だから今回は撃退する事を目的に攻撃をするんだ。 ネルビオは魔法で攻撃を頼む、チズル、お前はそもそも飛んでるドラゴンを攻撃できないから寝てていいぞ。 ってか動かれるとややこしい事になりそうだからそこから動くな」
「アンタって容赦ないわね。 流石に今のは私も傷付いたわ」
ギルドから出た俺はまずドラゴンを前に作戦を練っていた。
現在思ったより街の被害は大きく、所々から火が上がっている。
他の冒険者達はというと、弓や魔法でドラゴンを攻撃しているが、その攻撃が効いている様子はない。
先程から冒険者が放った魔法が何度もドラゴンに直撃しているのだが………魔法に体勢でもあるのか?
見たところ弓矢が刺さっている場所からは血が流れているが………
「なぁネルビオ、ドラゴンって弱点とかあるのか?」
「分からないです。 そもそとドラゴンは滅多に現れない希少なモンスターです。なので私は見た事すらありません」
「そんなに希少なモンスターがなんたってこの街を襲って来るんだよ。 まぁいい、とにかく見たところあのドラゴンに魔法は効かないけどもしかしたら魔法の種類によっては効くかもしれない。 ネルビオはそれを試しておいてくれ」
「分かりました。 基本的に私は解体専門なのですが今回は緊急事態なので良しとします」
「ねぇ、さっきから私無視されて切ない気持ちになってるんですけど?」
ネルビオは冒険者達と共に魔法でドラゴンを攻撃する。
しかし、案の定攻撃は効いていない。
クソッ、どうしたものか………
思考を巡らせていると、空を飛んでいるドラゴンが建物の上に降り立った。
その姿は巨大で、見ているだけで恐怖を感じる。
そして、その巨体は鋭い目付きで俺の方を睨むので、当然俺はその吸い込まれるような大きな瞳を前に物怖じして動けなくなる。
なんでよりにもよって俺を見るんだよ!
そんな俺の気も知らずにドラゴンは大きく息を吸う。
まてよ、この動きって………
「おい、ブレスが来るぞ! みんな逃げろ!」
俺は必死に叫んだ。
とはいうもののドラゴンは完全に俺の方向を見ているので、他の冒険者に直撃する事はないのだが。
なにより俺はどうしよう。
走って逃げるか?
いや、この距離で逃げたって間に合わない。
直後に訪れるであろう死を前にアドレナリンが効いているのか、辺りがスローモーションになる。
何か、何か手はないのか?
必死に考えていると唐突にネルビオが言っていた「魔法は組み合わせによって最強にもなる」という言葉が脳裏によぎった。
そうか、氷の分厚い壁があればあれを防げるかも………
でもどうやってそれを作るんだ?
ええい、悩んでいるよりも行動するしかねぇ!
俺は魔法で大量の水を出現させ、アクアロックを使って目の前に氷の壁を作る。
そして、次の瞬間にはドラゴンはブレスを吐いた。
なんとか防げるとも思ったがやはりドラゴンのブレスに氷の壁は耐えられないようで、物凄い勢いで溶けていく。
あ、ダメだ………死んだかも。
「スルガ‼︎ 私が横から一瞬だけ魔法でドラゴンのブレスを吹き飛ばします! その間に逃げてください!」
諦めて目を瞑った所でネルビオが叫んだ。
「わ、分かった、頼んだぞ!」
「えぇ、この私に任せて下さい! 準備はいいですか? 『ウィンドブレスッ!』」
ネルビオが勢いの強い風を生み出してドラゴンのブレスを横から吹き飛ばしてくれる。
よしッ、今ならいける!
俺は急いでその場から走り去ってなんとか窮地を乗り越えた。
今のは流石に危なかった。
ネルビオには今日辺りに美味しい飯でもご馳走してやろうか。
けれど今は安心している場合じゃない。
悲しい事に俺の魔力ストックは少ないので、さっき氷の壁を作るのに全魔力を使い果たしてしまった。
それに加えてドラゴンは再び飛び上がり、宙を舞う。
これによって完全に俺のドラゴンに対する攻撃手段は失われた。
正直に言って現在の状況は最悪だ。
冒険者達は皆疲れを感じているのか、最初と比べて動きが鈍くなっている。
その中でも魔法攻撃を主にしている冒険者なんかは魔力が切れたらしく、マジックポーションまで取り出していた。
ダメだ…………このままじゃ全滅だ。
こんなにもこちらは消耗しているというのにドラゴンの方は手負う様子もない。
せめて撃退でもできないだろうか。
落ち着け、考えろ、考えるんだ、必ず何か手がある筈だ。
思考を巡らせていると、一人の冒険者が放った矢が偶然にもドラゴンの左目を捉えた。
すると、ドラゴンは苦しむように叫び声を上げた。
効いてるのか⁉︎
だとしたら魔法耐性があっても斬撃や打撃の耐性はないと考えても言い訳だ。
けど、ドラゴンは現在飛び回っている。
そんな空中を舞う的に弓で狙って当てるなんて至難の技だろう。
少なくとも俺はできない。
先程からの様子を見るに、ドラゴンの左目を潰した冒険者は偶然当たったという感じだ、恐らく次の一撃は期待できない。
どうする、飛んでいるドラゴンに物理攻撃を与える方法はあるっちゃあるんだが魔力が足りない。
……………まてよ?
確かこの近くにアイテムショップがあった筈………
俺は急いで辺りを見回す。
多くの家や店が壊されているとはいえ、やはり面影は残っている。
独特な看板だったし分かりやすい筈なんだが…………あった!
見つけたアイテムショップは半壊しているが、なんとか入れそうだ。
その店まで走っていき、壊れた扉を無理やりブチ破って中に入ると、棚に並べられているマジックポーションをありったけ手に持った。
無いのなら、奪ってみせよう、ホトトギス。
まぁホトトギスは関係無いんだけれど。
現状が現状だ、こんな時に盗みを働いて責められることは無い…………と思う。
俺はそれを一気飲みし、先程から何かにショックを受けて膝を抱えながら地面にのの字を書くチズルの元まで走る。
「なによ、この使えない私に何の用よ?」
「お前にしか頼めない事がある。 もしかしたらお前さえいればあのドラゴンを倒せるかもしれないんだ」
「なによ、さっきはあれ程こっ酷く私を捨てたくせに。 どうせアンタにとって私は都合のいい女なんでしょ⁉︎」
「その勘違いを生むような言い方をやめろ! さっきの事は謝るから、頼むから言う事を聞いてくれ」
「………………分かった、聞いてあげる」
「サンキュー、助かる」
チズルは唇尖らせながらも了承してくれた。
そして、俺がお礼を言を言うと頬を少し紅色に染めながらこちらにジト目を向ける。
「んで、私は何をすればいいの?」
「その事なんだが…………空に吹っ飛ばされてくれないか?」
俺は次の瞬間にチズルから強烈な右ストレートを腹に食らった。
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「それで? つまり私はアンタに魔法でドラゴンの所まで吹き飛ばされなきゃいけないの?」
「あぁ、それでその時に奴のどの部位でもいい、その剣で深く抉ってくれないか?」
「嫌よ、嫌に決まってるじゃない。 そもそもそんなスタントマンみたいな攻撃を成功させた所でこの世には重力があるのよ? 私落ちるじゃない、死んじゃうじゃない!」
「大丈夫だ、しっかりと俺が受け止めてやる。 俺を信じろ!」
「アンタに信じるに値する人間性があるんなら私だって迷わないわよ! けど無いでしょ、どこを探したって!」
俺は必死にチズルの説得をしていた。
今この時冒険者達やネルビオはドラゴンと戦っているのだが、こんな悠長な事をしていていいのだろうか。
「なぁ、頼むって。 今こうしている間にもネルビオや冒険者達が怪我をする可能性だってあるんだぜ? それを未然に防いだのならお前は最高にカッコイイと俺は思う」
「私だってそんなカッコイイ事してみたいけど………でもスルガだけは信用ならないわ! 私はドラゴンを撃退するために落下死とかしたくないもの!」
「だからちゃんと受け止めるから! これ以上ダダこねるんなら迷わず切り捨てるぞこのクソビッチ!」
「今ビッチって言った! 何度も言うけど私は処女よ!」
「おま、処女とか大声でよく言えるな」
俺が呆れながら呟くと、どうやらチズルにも羞恥心というものがあったらしく、自分の発言を思い出して頬を染める。
やがてチズルの肩がプルプルと震えたと思えば、突然俺の胸に拳を突きつけた。
「分かったわよ、やってやろうじゃない。 その代わりもし私を受け止めてくれなかったら末代まで祟るからね」
その言葉に俺は苦笑しながら、
「末代まで祟られるのは、勘弁だな。 それじゃあ頼む。 ちゃんとドラゴンに一撃を与えてくれたら今度から宿屋に泊まった時ベッドはお前一人で使ってもいいぞ」
「本当に⁉︎ って事はこれから邪魔な奴が横にいるなぁ、なんて思わずに安眠できるって事なのよね⁉︎」
「お前今までそんな事思ってたのかよ、もう一生安眠しちまえよ」
コイツは本当になんというか、締まらない奴だ。
しかし、文句を言いながらも俺の頼みを聞いてくれたのだから素直に感謝しておこう。
俺は定位置に着くと、深呼吸をするチズルに声をかける。
「こっちは準備オーケーだ」
「わ、私もオーケーよ! 私のいちにのさんを合図に魔法を使ってちょうだい。 いい、いちにのさんの『さん』で魔法を使うのよ?」
「分かった、分かったからそこを動くなよ」
俺はチズルに手を向けて、魔力全部を使った『ウィンドブレス』を使う体制に入る。
そして、
「それじゃあ行くぞ」
「えぇ、カウント始めるわよ。 いちにのッ⁉︎ ぎゃぁぁぁあああああ⁉︎ アンタなにカウント終わる前に魔法使ってんのよ⁉︎」
そんな事を言いながらチズルはドラゴンの元に吹っ飛んでいく。
よし、どうやら力加減はバッチリだったようだ。
ネルビオが吹っ飛んでいくチズルを見ながら、
「うわぁ、まさかチズルに攻撃をさせる為に吹き飛ばしたんですか? スルガって本当に鬼ですね」
「しょうがねぇだろ、こうするしかなかったんだから」
微妙な空気が流れる中でチズルはドラゴンの飛んでいる高さまで到達する。
傍目から見て分かるほどチズルはビビっていたが、すぐに鞘から剣を抜き、落下と同時にドラゴンの羽を切り裂いた。
肉を裂かれたドラゴンは先程よりも大きな声で叫び、痛さを紛らせる為か上空に向かって何度もブレスを吐く。
よし、効いてるぞ!
あとはこのままチズルを受け止めれば………って、このまま受け止めたら二人共死ぬんじゃね?
悩んだ俺は再びマジックポーションを飲み、今度は弱めに『ウィンドブレス』をチズルに向かって使う。
理由としては落下速度を和らげるつもりだったのだが、あろう事か俺の放った魔法のせいでチズルの落ちてくる方向が大きく逸れて、近くの崩れた民家に悲鳴と共に落下した。
………………うん、今のは事故だった。
「ど、ドラゴンめッ! よくもチズルをッ!」
「いや、どう考えてもスルガの所為ですから! なに怒って誤魔化そうとしているんですか⁉︎ あの速度で落ちたら流石にチズルでもヤバイですよ⁉︎」
「チズルか、アイツはいい奴だった………」
「何故既に過去形なんですか⁉︎ この薄情者!」
「お、おい、アレ!」
そんなやり取りをしていると、一人の冒険者がドラゴンの方を指差した。
その先を見る。
ドラゴンは苦しみながらも、威嚇の為に轟音を轟かせた。
このまま逃げてくれればいいんだが。
……………しかし現実はそれほど甘くなかった。
ドラゴンは先程とは違い、怒りを露わにした激しい動きで地上に舞い降りる。
巨体だというのにそのスピードは異常な程に早かった。
そして次の瞬間……………
ドラゴンの異常な速度の反応に遅れた冒険者が一人、怒るドラゴンに食い千切られた。
その冒険者の下半身から上は完全に無くなっていて、大量の鮮血が辺りに広がる。
今、一人の命が消えた。
そう脳内で理解するのに数秒の時間が掛かった。
死んでしまった、目の前で、人が。
血が、血が沢山出て……それで………
知らずの内に俺はその光景を前に嘔吐していた。
その理由は気色が悪かったからとかそういう理由じゃない。
今、自分の目の前で人が死んでしまったという事実を実感して、恐怖のあまり嘔吐したのだ。
正直舐めていた。
心のどこかで何故か俺は死ぬ筈なんてないと、そういう思い込んでいた。
多分日本では絶対に起こらない事だからこそ安心していたんだと思う。
そうだ、よく考えてみろ。
ここは紛れもなく異世界ではあるが、ゲームでも漫画でも小説でもなく現実だ。
当然やられれば人だって死ぬ。
呆然と立ち尽くしていると、ネルビオが舌打ちをしてドラゴンに小型の投げナイフを投げる。
すると、それを避ける為にドラゴンは冒険者の上半身を咀嚼しながら再び空を舞うと、遠い彼方へ逃げていった。
残されたのは冒険者の亡骸と、恐怖に顔を歪めながら立ち尽くす冒険者達だった。
既に下半身だけになった冒険者の仲間と思しき女性が叫び声をあげる。
「よくもヴィンスをッ! 許さない……絶対に殺してやる!」
女性は泣き叫び、ドラゴンが飛んでいった方向をギロリと睨む。
重い空気が辺り一帯に流れた。
ドラゴンは攻撃を受けて怒り、その結果であの冒険者を攻撃した。
つまり………攻撃する方法を考えたのは俺な訳で、あの冒険者を殺したのも俺?
途端に手の震えが止まらなくなった。
するとネルビオはそっと俺の横にやって来て、
「ドラゴンの撃退には成功しました。 でも………犠牲が一人出てしまいましたね」
「お前は、なんでそんなに平然としていられるんだ?」
「平然となんてしていません。 ただ私はしっかりとドラゴンを相手にしている以上自分がああなる覚悟をしていました。 なので悲しみは湧いてきますが恐怖は湧いてこないんです」
ネルビオは俯きながら自嘲気味にそう答えた。
俺は自分がそうなる覚悟をしていたのだろうか………いや、できてなかったな。
だから、今こんなに恐怖している。
「怖いんですか?」
ネルビオは震える俺にそっと尋ねた。
「あぁ、もしかしたら自分がああなってた可能性がある事と、俺の責任で人が一人死んでしまった事が」
「そうですか……………その………」
「スルガッ! アンタねぇ、あんだけ受け止めるだなんだと言っておいて…………どうしたの?」
俺の肩にそっと手を置きネルビオが何かを言いかけた所で、どうやら無事だったようでチズルが身体中を土まみれにしてやって来る。
さしものチズルも現在の俺の情けない状態に気が付いたようで、様子を見て立ち止まった。
「チズル、今は放っておいてあげましょう。 そうする他ありません」
「な、何があったのよ一体」
「ドラゴン撃退には成功しましたが、一人犠牲者が出ました」
「…………え?」
そう言われたチズルが視線を巡らせ、冒険者の亡骸を見て目を見開いた。
やはりチズルもショックを受けているのだろう。 それから無言になって下を向いてしまった。
こうして、俺達のドラゴン撃退クエストは幕を閉じた。