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魔王が存在しない退屈な日々に人々は刺激を求めている‼︎  作者: 辰太郎
第1章 ドラゴン討伐編
17/23

〜第17話〜 ギルドの冒険者



ドラゴン、別名飛龍とも言われるモンスターはどうやら生態系の頂点に属する最強モンスターらしい。


過去に王都がドラゴンに襲われた時は半壊所の騒ぎじゃ済まなかったという。

そして、そんなモンスターがこんな小さな街に来たとなれば間違いなくこの街は消滅するだろう。


けたたましい警鐘が鳴り響く中で空を舞う一匹の巨大な龍が轟音を辺りに撒き散らす。

その声には魔力が込められているのか、聞いたその瞬間から震えで足が動かなくなる人もいた。


「チズル、ネルビオ! すぐに逃げるぞ!」


「え、えぇ、それが名案だと思うわ! この街が消えるのは残念だけど仕方ないわ!」


俺とチズルは急いで街から出ようとするが、ネルビオは龍を見ながらなにを考えているのか、その場に突っ立っている。


「おい、お前まさかあのドラゴンを解体してみたいだなんて思ってないよな? 先に言っておくがそんな事を言い出した日には迷わず俺はお前を置いて逃げるぞ?」


「ち、違いますよ! ただ、これは一種のチャンスなのではないかと思いまして」


「………チャンス?」


俺は常軌を逸脱した言葉に首を傾げた。

チズルはドラゴンを前に完全に萎縮してしまっているのか、震えながら俺の背中に隠れている。


おいおい、いつもの偉そうな態度はどこへ行ったのやら…………


「確実にこの街の憲兵じゃあのドラゴンには太刀打ちできません。 こういう時こそ本来ならギルドの出番だと私は思います。今の廃れたギルドに集っている数少ない冒険者を集めましょう!」


「またバカな事を………見ろよあのドラゴン、冒険者が数人集まった所で倒せそうにないぞ?」


「そうよネルビオ、ここは逃げるべきよ! この世に命よりも大切なものはありますか、いいえありませんとも!」


恥じる事なく言ってのけるチズル。

しかし、チズルが言っている事は正しい。

どんな事をするのにも命を失ってしまえば全てが終わる。


だが、ネルビオの考えはそうではなかったらしい。

彼女には珍しく至って真面目な表情でチズルに目をやった。


「その大切な命を守る為にもそうするべきなんです。多分この街の混乱の様子を見るに逃げ遅れる人だって沢山いるはずです。それともなんですか、チズルの腰に付いている剣はお飾りなのですか?」


「今なんて言ったのかしら?」


「おいおい、お前らこんな時にケンカなんてするなよ……」



明らさまな挑発をするネルビオにチズルは憤慨するが、懸命にその怒気を悟られまいと隠している。


いや、まぁ隠しきれてないのだが。

だって口元ヒクついてるし。


やがてチズルは盛大に鼻を鳴らした。


「その安い挑発に乗ってあげるわ、上等じゃない。 この私に掛かればドラゴンなんてイチコロよ」


間違いなくイチコロされるのはお前の方だと思うけどな。


しかしネルビオはそんなチズルの発言をバカにするでもなく満足気に眺めている。


「そのいきです。 スルガはもちろんドラゴン退治に行きますよね?」


「俺はまだ死にたくない………が、この街の住人の避難が完了するまでの足止めという形だったらいいぞ?」


「この男は……………はぁ、分かりました。 それでは冒険者ギルドに向かいましょう」



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



ドラゴンがブレスを吐きまくって街を損壊させており、街の住人達が悲鳴を上げながら逃げ惑っている。


そんな中での移動は困難で、たった数百メートルの距離にあるギルドに辿り着くのにかなりの時間が掛かった。


やっとの事でギルドに着いた俺達は早速中に入ってみる。


この世界に来てから本日二度目のギルド入店である。

建物の中は手入れが行き届いていないせいで荒れており、古びたカウンターにはアセアセと動くお姉さんが何人かチラホラいる。


恐らく廃れているとはいえドラゴン襲撃の話はギルドにも伝わってきているのだろう。


今にも壊れそうな古いテーブルに冒険者は集められていた。


「うわうわっ、いかにも冒険者って人達ね」


チズルは率直な感想を漏らす。

確かに、ここにいる冒険者は俺達が想像している物をそのまま具現化した様な人達だ。


筋肉質な身体に鋭いまでの目つき、おまけに持っている武器も血なんかこびり付いているので正直恐ろしい。


およそこの場に似つかないギルドスタッフのお姉さんは明らさまに挙動不審になりながら集まった冒険者の前に立つ。


あんな怖そうな人達の前に立つとなれば誰だってああなるよな。

彼女には同情してしまう。


「あのッ、その………今回冒険者の皆さんに集まって貰ったのは………」


「おい、声が小さくて何言ってるか分からねぇぞ!」


「ひゃいッ⁉︎ そのですね…………うぅ、」


段々と声が萎んでいくギルドのお姉さんにやさぐれた一人の冒険者が声を荒げる。


その辺にしといてやれよ、ギルドのお姉さん混乱し過ぎて泣きそうになってるじゃねぇか。


しかし、その姿を見かねたもう一人の女性スタッフが半泣きのお姉さんを下がらせる。


「ここに居る皆は知っているでしょうが、現在この街を巨大なドラゴンが襲っています。 恐らく自分勝手な憲兵共はこの街を捨てて逃げるでしょう。 なのでここに居る皆さんが頼りです。 どうかこの街をドラゴンから救って下さい、お願い致します」


ギルドのお姉さんはそう言って深々と頭を下げた。

恐らくこのお姉さんはこの街が好きなのだろう。 失いたくないと、そう思ってるからこそこんなに必死に頭を下げている。


しかし、ここに集められた数人の冒険者達は渋い顔をした。

その中でも一際存在感のある一人の冒険者がシーンとなったギルド内の沈黙を破る。


「なぁ嬢ちゃん、そいつはちょっとばかし無理があるんじゃねぇか? この人数でドラゴンを討伐とか頭がぶっ飛んでるとしか思えねぇ。 それにもしそれが成功した所でこの廃れたギルドからいくらの報酬金がでるんだ?」


「そ、それは………できる限り用意します」


「これも仕事だ、そんなあるかどうかも分からない報酬目当てに命を懸けられねぇよ」


諭す様に事実を突きつける冒険者。

ギルドのお姉さんはその答えに悲しそうに肩を落とす。


確かにあの冒険者が言っている事は正論だ。

実際に正しいからこそ渋い顔をするだけだった他の冒険者達は今の言葉で完全にドラゴン討伐に対して拒絶の色を示している。


でもな………少し違うだろ。

報酬とか、仕事だとか、そんなんじゃないだろ。


ネルビオが言っていた通り今こうしている間にも何人もの人々が危険な目に遭ってる。


なのにそんな事を言っている場合じゃない筈だろ。


いや、確かに俺も直ぐに逃げようとしたが、ドラゴンが街を襲っているその姿を見て放って置こうとは思わなかった。


俺は湧き出る怒りに拳を握り、正論を吐く冒険者に物言おうとしたその時、


「仕事だ報酬だとうるさい人ですね。 貴方みたいな人が居るからギルドがこんなに廃れたんですよ」


先程まで静かだったネルビオが冒険者をギロリと睨み威圧する。


その眼光には確かな怒りが込もっており、見ているこっちが恐怖を覚える。


うん、コイツを怒らせるととんでもない事になりそうだな。 これからは色々自重しよう。


これから俺が長生きする為の知識を脳内にインプットしていると、チズルが俺の袖をグイグイ引っ張って耳打ちをする。


「ね、ねぇ、これはかなり険悪なムードってやつよね? こんな場所でこんな事してるより早くドラゴンを討伐した方がいいんじゃない?」


「だよなぁ、確かにそれは俺も思った」


僅か十人にも満たない冒険者が増えた所で敵が巨大過ぎる。 ぶっちゃけるとそんなに状況は変わらないだろう。


しかし、ネルビオは恐らくギルド復興に向けて既に行動している。

ここで冒険者がドラゴンを倒せば少なくともギルドは王都からの報酬で潤う。

そしてドラゴン討伐で名を挙げたこの街のギルドは色々な場所から依頼が来る訳だ。


「おい、今なんつった?」


「聞こえなかったのですか? それとも理解する頭が無かったのですか? それじゃあバカにも分かりやすく端的に言いましょう。弱虫は逃げる事に理由なんて付けずに素直に尻尾巻いて逃げていて下さい、邪魔です」


「テメェッ‼︎」


ネルビオは襲い掛かってくる冒険者の攻撃を素早く避けて足を払った。


その動きは素人目からしても無駄がなく、綺麗な動きだった。


すると尻餅を着いた冒険者は自らの状況がよほど恥ずかしかったのか、近くにあった机に八つ当たりをかました後にギルドから去って行く。


もう一度誓おう、俺はこのキレたら何されるか分からないネルビオを前に行動や発言を自重しよう。


いつか殺されるレベルだよ。

だってめちゃくちゃ強いもんこの子。


暫くの間呆然とその状況を眺めていたチズルと俺は小声でひそひそと、


「趣味がモンスターの解体、そしてキレたら何するか分からない…………完全に危ない人ね」


「そうだな、だからお前も気をつけろよ? あいつを怒らせたら下手すれば解体されるぞ」


「全部聞こえてますよ! お二人共そんなに私をイジって楽しいですか⁉︎」


「「ごめんなさい、なんでもするので解体だけはご勘弁を」」


「この人達はッ‼︎」


再びネルビオが暴れだしそうなので俺はそれをなんとか宥めると、困り顔をするギルドのお姉さんを見やった。


「とにかくその依頼は俺達だけでもなんとかしてみる。どうやらここに居る奴らはどいつも腰抜けの様だからな」


一瞬にして冒険者達の俺を見る目が殺意が込もったものへと豹変する。


やばいどうしようめっちゃ怖い、やっぱし言うんじゃなかったな。


「ねぇ、今カッコつけて冒険者達を挑発してドラゴン討伐にやる気を出してもらおうとしたけど、思いの外冒険者達が怖くてビビってるんでしょう? そうなんでしょ? ねぇったら!」


「チズル、やめてあげて下さい。 スルガはこれでも勇気を出してるんですよ? ほら、手をみてください、ものすごく震えていますよ」


「あ、本当だ。 ごめん、私ったらスルガが実は手が震えるほど怖がってるなんて知らなくて、本当にごめんね?」


「お前等なッ‼︎ いい加減にしないと魔法使ってスカートめくるぞ⁉︎」


「変態ですね」


「変態ね」


もういいコイツらは放っておこう。

これ以上相手にしてると話が脱線してしまう。


俺は一旦咳払いをして冒険者達を一瞥する。


「とにかくアンタ等は逃げてればいい。 この俺が守ってやるからな」


できる限り他者から見たらムカつくであろう表情と言い方でそう言い放つ。

そして、俺達三人はギルドの出口に向かって歩いていく。


すると彼等はそれぞれが怒りの表情を見せながらも装備の準備を始めた。

どうやら俺の最後の言葉が冒険者達の心に火を付けたようだ。

それもそうだろう。

こんな弱っちそうな奴に守ってやるとまで言われて引き下がるような冒険者は恐らくこの場所にはいない。


「かなり危うかったですがうまくいきましたね、さすがスルガです。あとはドラゴン討伐中にどさくさに紛れて冒険者達から攻撃を受けるでしょうが、それを回避すれば完璧です」


「そこが問題なんだよ、流石に討伐中に冒険者にやられたとなったら格好が付かないよな」


「大丈夫よ、スルガに付ける程の格好はないから」


「お前討伐が終わったら川に投げ込むからな」


俺ギロリとチズルを睨み、冒険者達の痛い視線を集めながらギルドを出たのだった。







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