〜第15話〜 魔法
さて、突然だかこの世界の「魔法」について語らせてもらおう。
魔法、魔術、これはもう異世界ファンタジーの中でも王道である。
しかし、その設定や使い方はそれぞれ異なると思う。
でもって、正直俺はこの世界に来てわずか半年間で中級の魔法を使える自分を凄いと思ってた時期がありました。
いや、ついさっきまでなんだけども。
コボルト相手にゴブッち二号を失った挙句に逃亡された俺は今、ネルビオによる簡単魔法講座を聞かせれている。
その説明を聞くとどうやら、この世界で魔法というものはとても覚えるのが簡単らしい。
なんでも魔法に合った体質のひとならわずか一ヶ月で上級魔法まで覚えられるのだとか。
……え、そんなにありがたみがないのかよこの世界の魔法は。
俺はそんな説明を聞かされて完全にモチベーションが下がっていた。
ネルビオはというと、肩を落とす俺をニマニマと笑いながら眺めた後に、
「でもスルガ、魔法というのは上級であるから強いとかそういうもんじゃないんですよ。 沢山の種類を覚えるのは大切な事ですが、簡単な話でいうと一番強さに直結するのは機転を効かせる事です。 例えば………」
ネルビオは何故かチョイチョイと合図をしと俺と暇を持て余しているチズルを自らの元に手招く。
「例えばです、私達の周りに飛行型モンスターが何体も居たとします。 スルガならそんな時魔法で敵を倒すとしたらどうしますか?」
「どうって………」
飛行型モンスター………つまり素早く飛び回ってる訳だよな?
なら当然攻撃が当りにくくなる。
「だったら速度が速い魔法で対抗するのが妥当なんじゃないのか? そんな場合俺は雷魔法の「サンダーレイン」を使うけどな」
さも当然のように答える。
俺の解答の何かが気に入らなかったの、かネルビオは盛大にため息を吐いた。
なんだか小馬鹿にされているようでムカつくな。
「そんな短絡的な考えしか出来ないと早死にしますよ。いいですか、見てて下さい」
そう言ってネルビオはまず最初に『ドロップウォーター』を使って真水を空中に出現させる。
そして、その水が重力に負けて地面に落ちるよりも早く『ウィンドブレス』を使って水を拡散させる。
仕上げに『アクアロック』を使って拡散する水を氷の槍に変えた。
氷に帰られた水はそのまま四方八方に物凄い勢いで飛んで行って突き刺さる。
あぁ、だから俺とチズルを近くに呼んだのか。
もし俺達がネルビオの近くにいなければ今頃ハリセンボンになっている事間違いなしだった。
正直に言うと、感動した。
チズルも同じくその光景を見て目を輝かせている。
あの頭がおかしいネルビオがやたらカッコよくまで見えてしまう程に俺はその魔法の使い方に惚れ込んでしまったのだ。
「どうですか? こうすれば一瞬で飛行型モンスターは片付くでしょう? 」
「なんつーか、凄いなお前。完全に見直した」
「そうでしょうそうでしょう………まぁこれは受け売りの使い方なんですが」
前言撤回だバカヤロウ。
ネルビオはジト目を作る俺を傍目に咳払いをして話を続ける。
「とにかく魔法というのは組み合わせれば無限の力になる便利な物なんです。 機転が利いたり想像力が豊かな人が使うと最強と言ってもいい代物なんですよ」
「ねぇネルビオ、その魔法って私にも使えるのかしら?」
先程から感心しながら黙っていたチズルが開口一番にそんな質問をする。
「魔法はバカには使えませんよ」
「なら良かった、って事は私にも使える訳よね!」
「……………なるほど、バカは自分がバカな事に気が付かない程バカなのですね」
「今物凄く失礼な事言わなかったかしら?」
呆れたネルビオが助け舟を出してくれと言わんばかりの顔で俺の方を見やる。
やめろこっちを見るんじゃない!
俺はこのおバカさんの知り合いでもなんでもないんだからね!
「とりあえずこれで魔法の説明は終わりです。 今の知恵を生かしてコボルトを捕まえて下さい。ついでに早くしないとそろそろ日が暮れてしまうので捕獲が出来なくなってしまいますよ」
「分かった、出来る限りの事はやってみるが期待はすんな。 俺にその機転とやらがあるかどうか分かったもんじゃないからな」
「おや、意外にも謙虚なのですね?」
「違うわよ、この男は失敗した時の為の保険を立てているだけなんだから。 そうよねスルガ?」
なんとも不思議そうに首を傾げるネルビオ。
そしてチズルはその少女の発言を真っ向から否定した。
「まずは手馴しの為にコボルトじゃなくてどこぞのバカを生け捕りにしてやろうか?」
「バカなんてここにはいないでしょ。 まさか自分を生け捕りにするつもりなの? やっぱりスルガってバカなの?」
他の誰にバカと言われても構わないが、この女だけにはバカと言われたらいけない気がする。
それにしても魔法は組合せか。
確かにそれはネルビオの言う通り使い方次第ではどんな下級の魔法だって上級に勝る程の可能性を秘めている。
特に魔力のストックが少ない俺からしたら下級魔法でコボルトを捕まえられるのなら素直にありがたい。
途中で魔力の枯渇を引き起こして倒れでもしたら速攻でコボルトの餌になっちゃいそうだしな。
兎にも角にも俺はチズルの頬を引っ張り回して泣かせた後、再び森の中を彷徨ってコボルトを探した。