〜第12話〜 拘束
始まった、うん、始まったと思ってたよ?
でもね、完全に相手にならなかったよ。
悲しい事に俺達がネルビオ一人に対して相手にならなかった。
いやぁ、やっぱり世間ってのは存外に厳しいね。
俺つえー? なにそれおいしいの?
敵と対峙して初めて自分の才能が目覚める王道ファンタジー? それどう考えても世間を舐めてんだろ。
正直内心では「ヒャッホウ! なんか今の俺カッコよくね⁉︎」とか思ってましたよハイ。
だってさ、この世界に来て半年が経って初めてのそれっぽい戦いだよ?
普通に考えてテンション上がるでしょ。
まぁ、その結果やられてたら目も当てられないんだけどね?
結果としては俺とチズルはネルビオに瞬殺された。
今はチズルと二人で仲良くロープでグルグル巻きにされて床に座っている。
あぁ、俺達はこれから再び監獄に送り込まれて貧しい毎日を送っていくのか。
せっかく防具を買ったというのに………
憂鬱な感情に苛まれていると一緒に縛られているチズルが小声で喋りかけてくる。
「ねぇ、実は私こうゆう事も想定して小さいナイフを持ち歩いているのよ! それでこの縄をドラマやアニメみたいに切れば簡単に抜け出せるわよ! やるならあの子が居ない今しかないわ!」
「おぉ、たまにはお前も頭を使うんだな。 よし、それじゃそのナイフを出して縄を切ってくれ!」
「とりあえず今の暴言は聞かなかった事にしてあげるわ。 待ってなさい、今から私がこの窮地から脱出させてあげるから」
そう言ってチズルはウネウネと身体を動かした。
そして、ややあって長い事ウネウネさせたチズルは息を荒くしながら、
「ローブのポケットに入ってるんだけど、私は縄で縛られてるから取れないわ。 スルガが取って!」
「……………いや、お前に届かないのに俺が届く訳ねぇだろ」
「…………………へ?」
チズルは一瞬固まり、黙考を始める。
それからどうやら何も浮かばなかったようで、真剣な顔つきで俺を見る。
「どうしよう、これじゃあ縄が切れないわ」
「お前本当に使えねぇな! 頼むから一回でも俺が凄いって言うような事してみろよ!この
ビッチが!」
「うるっさいわね! そんな事いうならアンタがこの縄から抜け出す方法を見つけなさいよ! どうせ頭の悪いスルガだもの、見つからないんでしょ?」
「おいお前、今自分がどうゆう状態なのか分かってのか?」
「はぁ? どういう状況って………まさか縛られている私に何がいやらしい事を!」
「だからそれはない。俺にも選ぶ権利がある」
「私の手が自由だったら今すぐアンタの顔面ブチ抜く所だったわ」
そう、俺達は今背中合わせに縛られている訳だ。
つまり、俺の手は今チズルの背中あたりに密着している。
さて、ここで豆知識だ。
古来よりくすぐりというのは拷問にも使われる程の苦痛だったのだが。
今だったら、抵抗される事なくこのバカをくすぐれる訳だ。
俺は勝ち誇った様な笑みを浮かべると、少し体制的にはキツくなるが手を動かしてチズルの脇腹をくすぐった。
「ちょ、なに⁉︎ プフッ、く、くすぐるなんて変態の所業、ひゃはははは! もう、本当に謝るから、謝るからやめてくださいスルガ様ぁ!」
「やめてほしいならもっとまともな頼み方をしろ……っておいてめっ、や、やり返してんじゃねぇよ!」
思わぬ反撃に俺は「その事を考えていなかった」と後悔するがもう遅い。
ここで俺が先に止めるのも癪などで笑い声を上げながら俺達はくすぐり合う。
すると、先程俺達を縛ったネルビオがいつからそこにいたのか分からないが、ジト目を作ってこちらを見ていた。
「あの、二人共なにやってるんですか? 側から見たらまるでじゃれ合う子供ですよ」
「うわあああ! 帰って来た、私達もうお終いよ! これからまたあの牢獄にぶち込まれて余生を過ごすか死刑されるんだわ!」
「ちょ、人を死神みたいに言わないで下さいよ! 先程も言いましたが私は別に貴方達を憲兵に引き渡そうという訳ではないんです!」
慌ててヒステリックを起こすチズルをネルビオがなだめようとするが、それは失敗に終わったらしい。
チズルは彼女の言葉を聞いて更に顔を真っ青にした。
「ま、まさかモンスターだけじゃ飽き足らず私達まで解体するきなんじゃ………」
「おいおい、縁起でもない事言うなよ。 流石にこの人もここまで…………しないよな?」
「なんで疑問系なんですか、しませんよ! いや、確かに人もやってみたい気持ちもありますが、それをやったらお終いな気がするのでしません! それより、私が聞きたいのは貴方達が一体なにを企んでいるのかを知りたいだけですよ」
ネルビオは深いため息を吐きながらそう言った。
ここで正直に「はい、魔王を称して国に対する反逆行為をしようとしています」なんて言ったら速攻で憲兵を呼ばれるだろう。
どうする?
しかし、ネルビオは先程俺達を憲兵に引き渡す気は無いと言ったが、それは信用できるのか?
いや、出来るはずがない。
こういった悪者共は人を騙すのが得意なのだ。
もう決めた、俺は何があっても口を割らない。 絶対、絶対にだ。
あとはチズルが口を割らないかが心配だな。
俺はチラッとチズルを見ると、このバカはあろう事か死んだフリをしてやり過ごそうとしていた。
コイツッ!
後で覚えてろよ、絶対痛い目に合わせてやるからな!
額に青筋を走らせていると、ネルビオが無言で床に落ちているチズルの剣を拾い上げた。
それに対して俺は引きつった笑みを浮かべる。
「あのネルビオさん、何故いま床に落ちてるチズルの剣を拾い上げたのでしょうか? 」
「いえ、言う気が無い様に感じたので拷問でもしようかと」
俺はこの半年の間に練った計画を洗いざらいネルビオに喋った。