〜第11話〜共闘
結局俺は木箱の中から真っ黒なアーマーとインナーを二万五千ペールで購入した。
何故かネルビオはあんなに構って欲しそうにしていたのに、俺が防具を選んでいる間から今に至るまで無言で何かを思い悩むように俺とチズルを見ていた。
しかしそんな事はさておき………いやぁ、案外いい買い物だったのかもしれん。
どうやらネルビオの作る防具の趣味は俺の趣味と合致しているようで、木箱の中にある防具はどれもイケてるものだらけだった。
早速新しい防具に着替えた俺は姿見の前に立って全身を確認した。
うむ、なかなか様になってるではないか。
そんな事を考えながらキメポーズをしていると、チズルがひょっこりと顔を出して俺を見ているのを鏡越しに確認する。
まさかこの俺の様変わりした姿に見惚れてるとか?
まぁ仕方ないよな、なんか黒の剣士って感じでカッコいいしなこの格好。
いや、剣士ではないのだが。
しかし、チズルは俺を見て何を言うでもなく口元を抑えると、肩を震わせながら俯いて顔を引っ込めた。
………コイツッ!
「おい、何か言いたい事があるなら聞いてやるぞ?」
「いや、あの………顔に風呂敷巻いたら古風な泥棒になりそうな感じで似合っているわよ」
「喧嘩売ってんだなそうなんだな? よし分かった、表に出ろクソビッチ!」
「私はクソでもビッチじゃないんですけど⁉︎ 上等じゃない! この際だからどっちが強いか決めときましょう! さっき私が買った剣の切れ味も試したかったし!」
「あ、お前汚ねぇぞ! 自分だけ武器使うのかよ!」
「アンタには私よりも半年も早くこの世界に来てるハンデがあるでしょーが!」
「ああああああぁぁぁッ‼︎」
言い荒らそいをしていると、先程まで何かを悩んでいたネルビオが唐突に大声を出した。
チズルと俺はそれに対して肩をビクッと跳ねさせる。
な、なんだコイツ。
やっぱ頭が…………
「貴方達を見た時にずっと引っかかってたんですけど、その理由がやっと分かりました。 貴方達は監獄から脱獄して指名手配をされている囚人ですよね⁉︎」
おいおい待て待て!
俺達って指名手配までされてるのか⁉︎
え、それやばくね?
いや、まずそれ以前にそれが目の前の少女にバレたのが何よりもマズイ。
下手をすればこのまま憲兵に突き出されるかも………なんとかしなければ。
俺はチズルに目で合図をして一斉に店の外に出ようと扉まで突っ走る。
すると、どういった魔法なのかはわからないが、ネルビオが扉に手を向けた瞬間にドアノブが硬くなって外に出れなくなる。
クソッ、マジかよ、完全に閉じ込められた。
「ちょっと、何逃げようとしているんですか。 …………ってあれ、ちょっと待って下さい。 って事は姉の店を焼き払ったのは貴方達でしたか…………ふふ、何か面白い事をしているのですね」
ネルビオは何がおかしいのかとても愉快に笑っている。
…………ん、待てよ?
こいつ今カルディアさんの事を姉と言わなかったか?
いや、今はそんな事を考えている場合じゃない!
「剣を構えろチズル! 出口を塞がれた以上アイツを倒して強行突破するしかない!」
「え、えぇ分かったわ!」
いい音を立てながら新品の剣を鞘から抜くチズルの横で俺は攻撃魔法の準備をする。
そんな中でチズルは目をキラキラさせながら俺の方を見た。
「ねぇスルガ、私今この世界に来て初めてそれっぽい事してるような気がするの! さっき私の事見てた⁉︎ ちょーカッコよく剣を抜いたわよ⁉︎」
「言ってる場合かよ! いいから早くお前はアイツに突っ込んでいけ、援護は俺がする!」
「って、私の固有スキルじゃ完全にあの子に負けちゃうんですけど⁉︎」
「しらねぇよそんな事! つべこべ言わずに早く行け!」
「だぁぁ!! 分かったわよ、どうなっても知らないからね!」
剣を片手に突っ込んでいくチズル。
その姿を前にしたネルビオは少し戸惑いつつもチズルの攻撃をヒョイッと躱した。
「いや、あの、何故二人共戦闘体制に入っているんですか? 私は決してそんなつもりじゃ………」
「そんな言葉に騙されるかマッドサイエンティストが! 『ウィンドカッター』!」
「ちょ、マッドサイエンティストって! それにこんな狭い店内でそんな魔法使ったら危ないじゃないですか⁉︎『ウィンドブレス』!」
「なッ⁉︎」
俺が放った風を利用して対象を切り裂く魔法、ウィンドカッターはネルビオの放ったウィンドブレスによって打ち消された。
コイツやりおるな!
「ププッ! スルガさんったらドヤ顔で魔法出して打ち消されるんですけどちょーウケいだだだだッ⁉︎ ひょほをひゅねるのをやめふぇ!」
わざわざ俺の元に来て小馬鹿にしてくるチズルの頬を力一杯つねりあげる。
このバカはもう少し状況を考える脳みそを持ちやがれってんだよ。
とにかくこの状況は非常にマズイ。
俺で精一杯の中級魔法を使ってもネルビオは淡々とそれを打ち消した。
つまりそれはこちらより相手の力の方が勝っていることを意味する。
しかしこちらは二人、相手は一人。
……………よしいける!
確信した俺はチズルの頬から手を離してネルビオに向かって走り出した。
「チズル、多分二人でいけばやれない事もない筈だ! 俺が魔法をぶっ放すからアイツに隙ができ次第攻撃しろ!」
「分かったわ、やってみる!」
俺の言葉に慌ててチズルは剣を構えた。
その構えは素人の俺から見てもあまりにも無骨な構えだったが、まぁいいだろう。
今俺とチズルの初めての共闘が始まった。