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魔王が存在しない退屈な日々に人々は刺激を求めている‼︎  作者: 辰太郎
第1章 ドラゴン討伐編
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〜第10話〜マッドサイエンティスト


「どぅあ……た、助かりました。 危うく死ぬところでした」


「あぁ、まぁそれは全然いいんだけど……」


机に突っ伏しながら水飲む防具屋の女の子を呆れ顔で見ながら一旦店内をぐるりと見回す。


チズルは先程から店内に置いてある置物やモンスターの剥製を物珍しそうな顔をして眺めている。



「ここって防具屋であってるんだよな? 」


「はい、一応合っていますが。 それよりアナタ達はなぜ私の店の前に居たのですか?」


「鍛冶屋のカルディアからこの店を紹介されてな、割引をして貰えるって聞いて来たんだが」


「……………ケッ、防具ですか。 それならそこらへんに置いてあるんで適当に見てってください」


「なぁ、お前今、ケッって言わなかったか?」


「いいましたけど何か? 確かに此処は防具屋ですが、私は死んだモンスターを売りに来る人を待っているんです。 正直防具なんてついでです」



そう言い放って女の子は木箱の中に乱雑に入れられた防具一式を指差す。


正直此処の店に入った時点で気付いてはいたが、展示されている品のほとんどがモンスターの毛皮やら、身体の一部やらと素材になるものばかりだった。


「死んだモンスターを買取って一体どうするんだ?」


「ふふ、よくぞ聞いてくれましたね。 私はモンスターを解体する事を何よりもの快楽とする商人、ネルビオ・ナイトメアです! どうぞお見知りおきを………ってちょちょ、待ってください、無言で立ち去るのは流石に傷つきます!」


ネルビオは踵を返して歩き出す俺の裾をカウンターから乗り出して掴んだ。


先程から俺の中の脳内アラームが「コイツと関わってはいけない」と危険信号をけたたましく鳴らしている。


間違いない………コイツは頭のおかしい奴だ。


「おいおい今すぐその手を離すんだ………おいこら離せッ! 俺はモンスターの解体を趣味とするキチガイと関わり合いになる気は無い!」


「そう言わずこの店を見て行って下さい、ほら、どれも素晴らしい物ばかりですよ! オススメはマンティコアの尻尾にコボルトの心臓………はぁぁ、どれも美しいです」


そんな事を口走りながらうっとりとした顔をする。


コイツ変態だぁー!

やはりどの世界にも居るんだな、こういう頭のおかしい奴が!


俺は隙を見てネルビオの手を払い除けると、先程から店の中の物を興味深そうにツンツンと突っついているチズルの腕を掴んだ。


「ひゃう⁉︎ な、なによ突然⁉︎ 」


「チズル、此処を出よう。間違いない、アイツは危険だ、関わっちゃいけない!」


「はぁ⁉︎ なんなのよ、どっちかって言うといきなり私の腕を掴んで引っ張るスルガの方が危険なんですけど⁉︎」


「黙れ脳内空っぽガールが‼︎ いいから付いて来い!」


「ねぇ今なんて言ったのかしら? 答えようによってはブチ殺すわよ?」


額に青筋を走らせるチズルを連れて扉に手をかける。

すると、先程までうっとり顔をしていたネルビオがハッと我に帰って来る。


いや、もう帰ってこなくて結構なんで一生自分の世界にでも居て欲しいところだ。


「ちょ、待ってくださいよ! カルディアからの紹介でこの店に来たんですよね⁉︎ 今なら助けてくれたお礼も兼ねて防具を半額にしますよ? 」


「さて、どれにしようかな」


「…………アンタ、本当に現金な最低野郎ね。 頭の中にある意思って言葉を死んだ時どこかに落っことしてきたんじゃないの?」


ネルビオの言葉を聞いて一瞬で踵を返し、防具探しを始める俺にチズルが冷え切った視線を送ってくる。


「おいネルビオ、本当に半額でいいのか? 見た感じ防具の展示方法はかなり乱雑だが、物自体はかなりいいものなんじゃないか?」


「あぁ、全然いいですよ。 先程も言いましたが私は別に防具を作るのが本職ではありません。 死んで直ぐのモンスターを解体して素材にするのが趣味………ではなく本職です」


「……………そ、そうか。 それじゃあお前はなんでわざわざ俺達を引き止めたんだよ? なんか理由でもあるのか?」


「そ、それは…………その…………」


聞くと、何故かさっきまでは強気な顔をしていたネルビオがモジモジと急にしおらしい態度に急変する。


うん、この子はあれだな。

チズルと同じく黙ってれば可愛系の女の子だ。


「わ、私のこの趣向が原因なのか、お客さんが全然来なくて話し相手が居ないんです」


「あー、さっき本当は強がってたんだ。意外に寂しがりやなのね、その子」


あまりにもネルビオが可哀想だったのか、我関せずといった感じだったチズルが眉をハの字にしながら呟いた。


なんていうか、この子自覚あったんだな。


俺とチズルは二人してなんとも言えぬ顔でネルビオを見ていると、


「そんな可哀想な奴を見る目を私に向けるのをやめてくれませんか?」


「あぁ、その、なんだ、悪かったな」


「謝るなぁぁ! 余計惨めになっちゃうじゃないですかぁぁ!」


「じゃあどうすりゃいいんだよ⁉︎ 情緒不安定過ぎるだろお前!」


俺の盛大なツッコミにややあってネルビオは涙目になりながら机を力強く叩く。


「うるさいですね、そんなに私と話したくないなら早く防具を選べばいいじゃないですか! そしてこの店から消えて下さい!」


「あぁ、分かったそうする。 えぇっと、この防具は………」


「あわわわ、ちょっと、そこは否定して下さいよ⁉︎ お願いです、お願いですからそんな早くこの店から立ち去ろうとしないでぇぇ!」


め、面倒くせぇ…………

奇抜な趣味に加えて面倒くさい人間とかどうしようもなさ過ぎるだろ。


呆れていると真横にいたチズルが、


「この子ったら完全に情緒不安定ね。 少しはこの落ち着き払った私のクールさを分けてあげたいわ」


いや、そこで無い胸を張ってるコイツには本当のクールとは何たるかを力説してやりたい。


クール系美女というのはまず男口調で始まり男口調で終わらなければならないという鉄則のルールがあるのだ。


もちろんこれは俺の中でのルールだが。


ともあれ盛大なため息を吐く俺は、木箱に乱雑に入れられた防具を漁るのだった。


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