第三章 Hit the ground running(2)
アンジェラの自己紹介に、オールドが首を傾げる。「おい待て。ブルーノートだと?」
こう言ったほうがわかりやすいかしら。そう呟き、少女は付け足した。
「“ニコラス”が死んだわ。もっと詳しく言うなら、殺された」
その一言で全てを察したオールドは、一秒間息を止める。緩やかに息を吐いて、オールドが確かめた。
「つまりアンジェラ、お前さんはニコラスの娘ってわけだな」
アンジェラが首肯する。
そうか、とオールドは呟いた。
「ニコラス、死んだのか」
現実を噛み砕く様に、もう一度言葉を繰り返す。
「この稼業の人間として、ニコラスにはずいぶん世話になったからな。俺からも、無上のお悔やみを申し上げさせてもらうぜ」
ひとしきり悼んだオールドが、「で」と切り出す。
「まさか嬢ちゃん、わざわざその知らせをしてくれるために来てくれたわけでもねえだろ。何か頼みたいことの一つや二つ、あるんじゃねえか?」
鋭いのね。と、少女は否定も肯定もしなかった。
「業界最高ランクのプロだからな、目を見りゃわかる」
言い切り、上半身をずいと乗り出す。
「お前さんの目はな、怨念に取り憑かれた目だ。嘆き、悲しみ、無力感、その他諸々の感情が怒りの一点に集約し、ドロドロのマグマみたいに煮え滾ってんだ」
俺にはわかる。
オールドは断言した。
「確かに顔は静かだ。見方によっちゃ諦観と思われても仕方がねえくらいに凪いでる」
しかし、目が違う。
「ニコラス譲りの綺麗な青い瞳が濁るほど、お前さんの中には強い怒りが渦を作っている。ただ殺す。そのあとどうしたいのかなんて明確なヴィジョンのへったくれもないまま、ただ目の前の理不尽に対して仕返しをしてやりたいって目だ」
俺はそういう目、大好きだけどな。
オールドは歌う様に付け加えた。
「何から何まで、お見通しなのね」
「そりゃそうさ」
プロだからな。
自慢げに言い放ったオールドの隣で、マルボロが肩を竦めた。
「これでもう少し静かなら、言うことはほとんどないんだがな」
「余計なお世話だ」
オールドは下唇を突き出す。
さて。とオールドが仕切り直した。
「大体の察しはついてるが、一応聞いておこうか。何が望みだ?」