第九章 Like Thunder(18)
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バイパーは驚くほど簡単に見つかった。地下室に引きこもり、慣れていないらしい拳銃を持っていた。どうやら現場の人間ではなく事務方らしい。ろくに抵抗できないまま、オールドの一撃で気を失っている。その様を、アンジェラは軽蔑の眼差しで見降ろしていた。
先の激闘で傷んだ体を労わりながら、オールドは深くソファに腰を下ろしている。膝の上には先ほど注文したピザがある。ルツボでは知らない者はいない『ニコニコピッツァ』の、『スーパーウルトラデラックスコンボ』である。何がそこまで凄い称号に値するのかは誰も知らないが、とにかく味が濃い。別名、『デブのバイブル』とも呼ばれている。
「これいいよな。昨今流行りの健康志向に真正面から唾吐いてる感じがして大好きだ」
口の端に着いたソースを舐め取り、コーラを呷る。健康が次々死んでいく。五臓六腑でしみじみ噛みしめる。
お前も食うかと一切れ差し出すが、幼女はそっけなく首を振った。
「まだ体重気にするような年でもねえだろ。気になる男子がいるわけでもねえし」
「食べる気分じゃないの」
ああそうかいと返し、オールドは自身の親指を舐める。マスタードのパンチが、舌をチクリと刺した。ちなみにこの会計はオールドが持っていない。バイパーが持っていた財布を、配達の青年に放り投げた。向こうも深く言及する気はなく、ほくほくと元来た道を帰っていった。ここに法はあってないようなものである。尤も、まともな精神を持った配達員なら死体がごろごろと転がる廊下をピザセット片手に来ることすらしない。
ほどなくして、バイパーが意識を取り戻す。小太りの男は両手首を前に拘束されており、自分の状況を察したのか顔から血の気をなくし始めた。
「お、お前たち!」
唾を飛ばしながらバイパーが喚く。
「こんなことしてタダで済むと思っているのか! 私は自警団の一員で――」
「麻薬の密売組織と仲良くなって、捜査していたパパを殺した。でしょ?」
アンジェラが遮る。幼女が誰かわからなかったのだろう。バイパーはしばらくの間目を白黒させていた。
「あなたが殺したニコラスの娘よ。バイパーおじさん」
そこで男はハッとする。
「あの時殺し損ねた娘か」
憎々しげに呻き、下唇を噛む。
「いくつか聞かせて」
有無を言わせぬ圧を放ち、アンジェラがガラス製の灰皿を右手に。
嘘ついたらそのたびに歯を砕くわと釘を刺し、口を開く。
「なんでパパを殺したの?」
「邪魔だったからさ」
バイパーの返しは早かった。「人がせっかくうまい汁啜ろうとしてるのを、邪魔するのが悪い。現場組は捜査中に遺品をくすねることがあるのに俺たち事務組はそのおこぼれだってもらえねえ。ニコラスだってよくやっていた。急にお土産を持って帰ってくることはなかったか? くすねた貴重品を金に換えて、お前たちへの愛を示していたんだ。現場組にはそれができて私たちにできないなんて、不公平じゃないか? だったら私がちょっとずるいことしても、おあいこだろう」
「パパはそんなことしない!」
アンジェラが声を荒げる。バイパーが、ニタニタと笑い始める。
「家ではいい父かもしれんが、外ではどんな顔してるかわかったもんじゃないだろう。大人なんて、得てしてそういうものさ」
「黙れ!」
灰皿で殴る。床を転がり、こめかみから血を流す。しかしそれでも、バイパーの余裕は崩れなかった。




