第九章 Like Thunder(12)
「オマケの視聴者プレゼントだ!」
サッカーボールキックを放つ。技術やノウハウを成長の過程で亡くしたような、力任せの一撃だ。男の首が、50度の可動域を超えて真横に折れる。死んだことは、誰が見ても明らかだった。
殺し屋は順調に殺す。淡々と、プロのイラストレーターがさらさらとラフを白に落とすかの如く、滑らかな死を屋敷に落とす。その過程でびちゃびちゃと赤が跳ねるも、オールドはたいして気にも留めなかった。
刺す、裂く、切る、削る、殴る、蹴る、捻る、砕く、振り下ろす、投げる、引き抜く、蹴り飛ばす。単純な動作を正確に積み重ねる。それだけで人は死ぬ。にこやかに人を殺しながら、オールドは自分に教えを施した男の言葉を思い出した。
『その気になれば人間は、あっさり死ぬぞ』
殺し屋として人を殺し続け、その度に「全くだよ」と返したくなる。
屋敷の中を概ね殺し終える。屋敷内の見取り図は、ミリ単位の誤差なくオールドの頭に入っていた。あと数部屋を除き、全ての部屋や廊下を渡り歩き、殺している。殺すついでにクロゼットやタンス等にも鉛玉を叩き込んでいるため、殺しそびれはないはずだ。加えて少々小細工もしており、不測の事態にも備えを怠っていない。
もう一人、首にナイフを突き立てた。黒い赤がスプリンクラーながらに飛び出る。突然の大量出血で脚を痙攣させる相手に、オールドは突然肩を貸した。
「ちょっと待って。まだ死ぬんじゃねえぞ。もうちょっとだけ頑張れ」
意識も朦朧としている男を無理やり立たせながら、オールドは懐からスマートホンを取り出す。カメラの設定を弄り、『自撮りモード』へ。
「ハイ、チーズ!」
肩を貸したまま左手でピースサインを作り、スマートホンのシャッターをきる。綺麗に撮れていることを確認し、忙しなく端末をタップし始めた。
「『仕事なう。今日は愛する妻と一緒にお仕事! いつも以上にビシッと決めた服装なんで、妻を惚れ直させる気満々です!(笑) 隣の男性は名前知りませんが、スリル満点の殺し合いできて楽しかったです。8割くらい殺したと思うんで、あと2割弱頑張ります!:)』……っと」
いいねたくさんもらえるかなと呟き、先の写真と文章をSNSにアップする。勿論、仕事報告用アカウントで、だ。
撮影に協力してくれた男に、念のためナイフを突き刺す。うめき声もない。どうやらすでに事切れていたようだった。
オールドは屋敷の廊下を歩く。バイパーは地下室に引きこもっていることも塩野が吐かせた。そこまで信じていいのかとアンジェラには疑問視されたが、ネグローニの紹介であれば間違いはない。加えて一連の流れは、ネグローニも相当に腹を立てているらしい。故に、嘘を教えるメリットもないだろう。こうした稼業は、信頼が何より重い財産となる。
マリアについた血を拭いながら、曲がり角を右へ。十五メートル近く前方に、一人の男が立っていた。今までの烏合の衆とは、何かが違う。




