第九章 Like Thunder(10)
サックスが重い腰を上げる。艶めかしい音色が、オールドの身体に絡み付く。ソロの背後を、ほかのサックスが支える。
「こいつやばいぞ!」
誰かが叫ぶ。
やっとか。オールドは醒めた目をした。きっとこのグループは外の世界でも大した力はないんだろうなと、ぼんやり察する。安直で愚かしく、戦うことに慣れていない。バイパーもこんな奴らに匿われて気の毒だなと、敵ながらに同情した。
長い廊下を歩きながら、G36を手放す。スリングで繋がれているため、床に落ちるようなことはない。代わりに懐から手榴弾を二つ取り出す。白のマジックペンでわざわざ『Have A Nice Day!』と書いてある、ソルティ曰く「相当に悪趣味」なオールドのカスタマイズ品だ。ピンを引き抜き、それぞれ左右の部屋に投げ込む。部屋の中では天地が引っ繰り返ったかというほどの大絶叫が響き、爆発音と同時に誰の声も聞こえなくなった。
撃つ、殺す。撃つ、殺す。出し惜しみはせず、殺せると感じたら銃弾をばらまく。相手は殆ど素人同然だった。多少腕っ節に自信があるか気性の荒いはぐれ者ばかりで、大した脅威には成り得ない。期待外れだったかなと、不穏な気配を男は脳裏にピン留めした。それに伴い、股間の一丁がしゅんと落ち込む。
「そんなに凹むなよ。愚息っち」
スリングを外し、G36を床へ置く。弾が切れた銃は鈍器としか使えない。加えて重い。用途と実用性が釣り合っていないことは、誰にでもわかる。
代わりに、ハンドガンを取り出す。M&P9。飾り気の少ない、やや無骨とも取れるデザインが逆に男のフェティシズムをくすぐる逸品だ。こちらは二つのマガジンを予備として携行してあるが、節約するつもりは一ミリもなかった。
枷が外れたことにより、オールドはゴム毬さながらに屋敷を駆け回る。相手は知名度や外見を意識したせいか長モノばかりしか持っていない。照準のスピードは、オールドに多大な分があった。
「どんどん行くぜェ!」
再び管楽器がまとまった音を出す。小休止とはいかないまでも方向性を見直し、修正している最中だ。
手短にいた男を殺し、盾のように使う。加えて数人も撃ち殺した。マガジンを替え、空になったマガジンは出会いがしらの一人に向かって全力で投げた。眉間に当たり、大きく仰け反る。マガジン交換を無事に終えたオールドは、「ハイご苦労さん」と一言労って鉛玉を叩き込んだ。男の身体は、無残に赤を吹き出した。
じわじわと、曲の温度が煮えたぎる。
ホーンが一斉に鳴りやんだ。一本のトロンボーンが、やや高めの音を奏でる。トロンボーンのソロだ。
拳銃も放り投げる。敵の数も残り少ない。満を持して、オールドは腰から黒塗りのナイフを抜き取った。
「踊ろう――マリア」




