第九章 Like Thunder(6)
「つまり?」
「今ので分かれよ」
殺し屋は右手で顔を覆う。
「俺にとっちゃこの殺しは一世一代のデートだしソロコンサートだし晴れ舞台なんだ。だからだらしない格好じゃなく、自分を最もキマった魅せ方できる服で臨むんだよ」
理解できないわ。
アンジェラが唇を突き出す。
「私は少しだけわかるぞ」
サイドカーだ。思わぬ助け舟に、オールドは指を鳴らした。逆にアンジェラは、目を丸める。
「要は仕事に対して一定の美学があるということだ。ルツボの中では、そう言った手合いも多い」
私だってそうさと、運び屋は話す。
「依頼者のメンツもあるから、何かを運ぶ時には緊急の仕事を除いてみすぼらしい乗り物には乗らない。ちゃんとピカピカに洗った乗り物で、ビシッと届けたいさ」
「変な世界ね」
首を傾げる幼女の額を、殺し屋は人差し指で叩いた。
「ルツボで仕事すりゃ、自然とそうなるさ」
そうだと、オールドが切り出す。
「この腕時計、どっちに着けた方がかっこいいと思う?」
「利き腕と逆の腕よ。そんなことも知らないの?」
アンジェラが鼻を鳴らす。
「だから困ってるんだよ俺は」
オールドが下唇を突き出した。
その返答に、アンジェラが眉間に皺を刻む。
「俺は両利きなんだよ。左手で右手と同じようにペンを握れるし、ボールだって投げられる」
「そんな器用なことできるの? ぱっと見不器用そうなオールドが?」
「お前はっ倒すぞ」
殺し屋が吐き捨てる。
「殺しをプロにするくらいだ。どんな状態だろうが標的を殺すことが求められるし、俺はナイフ専門だ。右だろうが左だろうが、抜群に上手いナイフ捌きが必要なんだよ」
尤も――
オールドは続ける。
「そのおかげで、俺は一気に四人の女をイカせられるんだけどな。両手、腰、あと舌で」
サイドカーが息を吐いた。
「本当に下品だな、君は」
「なんでそんなことができるの? イカせるってどういうことなの?」
純粋な瞳で尋ねるアンジェラに、運び屋は「ロクなことじゃないぞ」と注釈する。
「オールドが口にすることは、九割ロクなことじゃない」
「あと一割は?」
「酒と煙草と、妻の話さ」
アンジェラが視線に同情をこめる。
「あなた、相当変な男なのね」
「今更かよ」
大して気にしていないらしい。オールドは鼻を鳴らした。
「そう言えば、お前にこれをやるよ」
短く告げ、鞄から一丁の拳銃を取り出す。オールドが持っているピストルに比べ、幾分小さかった。
「なにこれ」
「スターム・ルガーLC9sだ。小さいから扱いやすい、一応持っておけ。万が一に備えて」
護身用の武器を持たせ、オールドは再度自分の身だしなみを確認する。
「そろそろだ」
サイドカーの報告に、オールドは唇の端を釣り上げた。
「俺が殺しまくってバイバーを引きずり出すから、それまでは山中をお気楽ドライブでもしててくれよ」
言われなくても。
サイドカーは即答した。
「そのつもりさ」




