第九章 Like Thunder(2)
塩野の断言に、オールドは唇を歪める。
「じゃあつまりはこうなる。神に核弾頭は通じねえ、それをアンタは殺せる。つまりアンタは『核すら効かない神を殺せる男』になるし、俺がアンタを殺せば『核すら効かない神を殺した男を殺せる男』って称号を頂戴できるわけだ」
「そこにオールドが割り込む意義が一切わかんないんだけど」
大人しく牛乳を飲んでいたアンジェラが口を挟む。「お子様は黙ってろ」と跳ね除け、カットフルーツの盛り合わせをアンジェラの前に滑り込ませる。幼女は嬉々として、フルーツに手を伸ばし始めた。
「ちなみに、俺も神様は今まで三人殺したことがある」
「物騒だね」
「全部『自称』の、チンケなオッサンばかりだったがね」
本物の神様と殺し合いをしてみたいもんさと、オールドはがっくり肩を落とした。
「そこが問題なんだ」
塩野は人差し指を立てる。
「僕は神様を殺せるけど、」
「その神様が実在するかすらわからない、だろ」
そうなんだ。
塩野はへらりと笑う。
「ホンモノの神様がいればいいんだけどね。まだ誰も見たことがない」
オールドはニタリと笑う。長く話せば、きっと仲良くなれるかもしれない。
「少し聞かせてほしいんだが、これって結構昔からあったか? 四十年とか、数十年くらい前から技術としてはあったか知りたいんだが」
塩野は腕を組む。
「歴史はちょっと調べないとわからないけど、僕が学生のころからあったのは確かだから二十年前には学問として成立はしてたね」
そうか。オールドは呟く。
「済まないね。力になれなくて」
「単なる興味さ。ちょっと手がかりというか、そういうのが欲しかっただけだから全然いい。それに本命はしっかりとこなしてくれたんだ。これに勝る成果はない」
鞄から封筒を取り出す。
「これが今回の報酬だ。おたくらの相場が分かんねえから少し色を付けたつもりだが、それでも少なかったら遠慮なく言ってくれ」
塩野は封筒を覗き見る。
「もらい過ぎだ」
眼鏡を押し上げ、塩野は唇をへの字に曲げる。
「確かに同業者相手で解体そのものが難しいとか、対象に接触するときに武力的なリスクがあれば追加でお金をもらうけど今回なんて簡単すぎるくらいさ。こんなにもらえない」
「俺からの気持ちさ」
殺し屋は涼しい顔だ。
「服や身なりから見るに金に困ってるようには見えねえが、それでも金はあって損じゃない。それに子供だっているなら、ちょっと美味い物でも食べさせてやってくれ」
「そこまで言うなら拒みはしないけど、羽振りが良すぎるね。一周回って不気味だ」
「当然だ」
オールドは酒を呷る。
「専門性は何よりの財産さ。俺にできないことを、アンタは俺の代わりにやってくれた。それだけでも多くの金を払う価値はあるし、アンタとはこれからも縁がありゃ仲良くさせてもらいたいんでね」
手刀を、自身の首元に当てる。
「アンタと戦って負ける気もないが、生憎勝てる気もない。なら平和に仲良く、温厚な関係を築いていたいのが人の心ってやつさ」




