第八章 Autumn Leaves(6)
「ねえオールド、あなたの巧みな話術で何とかならないのかしら」
「思ってもねえこと言うんじゃねえよおチビ」
幼女の囁きに、オールドは眉間に皺を刻んだ。
「ま、やらないよりましか」
ぼやき、殺し屋は口を開く。
「なあ爺さん、耄碌するにはちょいと早いんじゃないかい? 最近はタダの寿命だけじゃなく身体の健康を刺す健康寿命だなんて言葉もあるらしいじゃないか。身体の方は大丈夫だとお見受けするが、脳トレちゃんとしてるか? そんなことしなくても大丈夫だって言うんだったら、銃口を向ける相手を間違えていると思うんだが」
「生憎だが」
老人は、唇の片端を上げる。「先日やったDSの脳トレソフトでは、私の脳年齢は四十代前半らしい。ボケの心配は杞憂だ」
「なるほど」
殺し屋は息を吐いた。「俺より若いね。羨ましいぜ」
はあと、オールドは息を吐く。
「参ったぜ。今日はアイツ(カンパリ)と会った記憶もないんだが、ロクでもないことってのは来るみてえだな」
「厄介ごととは、往々に望まぬ者に齎されるものさ」
ネグローニの軽口に、「でも」と殺し屋は反駁する。
「アンタだって、本心は俺に銃向ける気でもないんだろ。な?」
「私は同じことを二度以上言うのが嫌いでね」
銃を構えながら、老人は穏やかな笑みを浮かべる。「私の言ったことを、思い出してみるといいさ」
「俺が下品って話か」
「少し足りないな。もう少し戻った方が良い」
「アンタが予知能力持ってるってくだりか?」
「戻りすぎたな。もう少し調節しまえ」
「俺のナニが凄いって話か?」
ネグローニが、親指で撃鉄を引く。
「冗談だ」
オールドが、おどけたように声を出した。
「ちょっとしたジョークだ。そうカッカなさんなよ」
苦笑いを浮かべながら、仕立て屋の銃を見る。
「目は口ほどにモノを言うし、手はそれ以上。だろ?」
やれば出来るじゃないか。
ネグローニは静かに笑った。
「この挙動を見て、まだ私が冗談を言っているとでも?」
「まさか」
オールドは表情を崩さない。
「アンタがいかに真面目な精神で俺に銃を向けているのか、それを痛いほどに理解している。尿路結石と同じ痛みだ」
「それは痛いな」
ネグローニは同情の顔をする。
「それにしても、流石伝説だな」
銃口を向けられてなお、オールドは軽い調子で話す。
「俺だってそれなりに実績のあるプロだ。そんな俺が全く気付かないうちに――それこそ殺意も敵意も察知できないうちに銃を向けるなんてな。頭が下がる思いだ」
「私もそこそこ地獄をハイキングしたプロさ。君とは年季が違うんだ、青二才クン」
「なるほど」
未だチラシを手にしたまま、オールドは乾いた笑みを浮かべた。
「後学の糧とさせていただきたいね、生きて帰れたら」
「生きて帰れたら、という条件だがね」




