第七章 Time check(14)
呆然と口を開ける少女を余所に、オールドは話し始めた。
「そこのお前ら――名前はいいや。今更名前出してもそろそろ出番終わるからアレだし、運転手がAでおチビに前歯おられたお前はBな。オールド様からありがたい助言をくれてやる」
「出番って何の事よ」
「こっちやあっちの話だ。気にしなくていい」
軽く受け流し、続ける。
「まずは辛口で行くぜ。アンタら二人の仕事に関するスタイルチェックだ」
男二人は、目を瞬かせる。オールドが銃を向けた瞬間詰んだかと思いきや、理解しがたい即席の講座が始まった。なぜ自分はまだ生きているのかと、間の抜けた顔をしている。
「あ、変な真似しようとしたら蜂の巣だからな」
警告に、背筋をスッと伸ばした。
「お前ら、ちょっと――すまん嘘。ちょっとじゃない、かなりだ。かなり杜撰だぜあれは」
ありゃいけねえぜと、殺し屋は続けた。
「もうちょっと周りを見ろ。少しでいいから、タイミングをじっくり窺うことを学ぼうぜ。で、なんで俺を殺さなかった? 殺さなくても、鈍器で頭ぶん殴って気絶させる位すりゃあこんなことにはならなかったんだぜ。B、理由言ってみろよ」
前歯を折られた激痛に耐えながら、Bと呼ばれた男が話し始める。
「俺たち、そうした荒事はあまり得意じゃなくて」
「おいおいおいおい」
オールドは渋面を作る。
「じゃあ何か? そんな覚悟もナシにおチビを攫おうとしたって? どうやって攫うつもりだった? 攫うために、何か共通の理念を持っていたのか?」
誘拐犯二人が、顔を下へ向ける。
肯定と受け取ったオールドが、「及第点未満だ」と吐き捨てた。
「いいかお前ら、業種は違うがルツボの先輩としてアドバイスを送ってやる」
指揮棒のように銃を振り、オールドは軽やかな語調で話し始めた。
「コンセプトを作れ。コンセプトのふわっとした意味合いくらいは知ってるだろ。それを二人の間で強固に保って、それに見合った動き方をするんだ」
AとBは首を傾げる。意味が通じ切っていないことを悟り、オールドは「コメダを頭に思い描け」と助言した。
「いいか、旧名古屋だろうがルツボだろうが、喫茶店にとっちゃここは大激戦の紛争地域だ。毎日のように喫茶店が入れ代わり立ち代わり、開店と閉店を繰り返している。そんな中でだ、大して珈琲やメシが美味いわけでもなければ若者の意識高い系マインドをくすぐるでもないあんな昭和っぽい店が黒血どころかルツボでも猛威を振るえているか分かるか? A、考えてみろ」
問題を吹っ掛けられたAはハンドルを動かせながら、「えと」と口ごもる。
「チェーンにありがちな営業の基盤と資金源が……」
「残念。全くもって大外れだ」
オールドは遮った。
問題はそこじゃねえんだ。
オールドは明朗に語り始めた。
「スターバックスでもそうなんだが、ああいった店は職場でも家庭でもない、誰もが最も安心できる『第三の場所』を提供するために汗水たらす。この『第三の場所を提供する』ことこそが、ビジネスで言うコンセプトさ」
アンジェラも真剣な顔をして、殺し屋の言葉を待つ。Bに至っては懐からメモ帳を取り出し、しきりにペンを動かせていた。
「『客にどんな価値を提供したいか?』。これがコンセプトの原点だ。それに合わせて、商品やサービスを決める、絞り込む。そうすれば、どうしたいのかもおのずと見えてくるはずだ」
「先生」
Bが、恐る恐る口を挟む。
「具体的に、コメダはどういったことを」




