第七章 Time check(5)
まずい。
オールドは唸る。まずいどころでは済まされない境地ではあったものの、それしか男の頭に浮かばなかった。勿論追いかけたい。しかし、どう追いかけたらいいのか。それに困った。
当たり前だが、オールドは人間である。殺しの技術が人並み外れただけの、酒とセックス、少々の刺激と煙草を愛する男だ。走って車に追いつくのは、無理以外の何物でもない。
銃把を握り、奥歯を噛み締める。
「適当な奴脅して車ぶんどるか」
いや、しかしそれは――
渋面を浮かべるオールドに、背後から声がかかった。
「オールドじゃないか。どうしたんだそんなところで」
振り返る。一台の黒バイクが、ぶるぶると馬のように身を震わせていた。横に側車がついており、俗に『サイドカー』と呼ばれる代物だ。荷物や人を載せ、運ぶことができる。ルツボでも公道ではよく見る、タクシーに近しい存在だ。尤もそれはルツボに限った話で、外で見ることは相当に少ない。
ハーフタイプのヘルメットをかぶり、黒髪を後ろで結んだ、やや中性的な顔をした男が乗っていた。歳は25歳くらいだろうか。俳優だと言われたらそうかもしれないと思えるほどには、整った顔立ちだ。飾り気の少ない、均整のとれた顔である。穏やかな瞳はどこかたおやかで、愁いを帯びている。カクテルの『サイドカー』を愛す、ルツボの住人である。噂によれば、恋人募集中らしい。しかしなぜか相手ができないと、風の噂で聞いていた。
その顔を見て、オールドは瞳を輝かせた。
「『サイドカー』!」
急に名前を呼ばれた運び屋はぎょっと身を仰け反らせる。嫌な予感がするぞ。顔にはそう書いてあった。
「お前今暇だよな。な!? 暇って言ってくれ!」
イエス以外の答えを受け取るつもりがないオールドの圧力に、サイドカーは渋々頷く。
「まあ、暇と言えば暇だけど」
よし来た! オールドは吠える。
「俺を運べ! あのハイエースを追って!」
言うが早いかオールドは側車に飛び乗る。右手には銃を握っており、普通に運んでハイおしまい。で終わるわけがないことは明白だ。
「聞いても無駄だと思うが、結構面倒なことに巻き込まれているんじゃないだろうな」
安心しろ!
オールドは高らかに吠えた。
「結構じゃねえ。スーパーウルトラ驚天動地空前絶後級に面倒くさいだけだ!」
嗚呼降りたい。サイドカーは息を吐く。
「別にお前にドンパチやってほしいわけじゃねえ。ただ近くまで連れてってくれりゃいいんだよ!」
「簡単に言うが、迎撃の可能性もあるだろ」
「まあな」
オールドはカカカと笑った。
「一流の運び屋なら、それくらいできるだろ?」
「あまり買い被るな」
ため息を一つ。動力をあげ、スピードを速めた。
「舌を噛むなよ!」




