第七章 Time check(4)
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「待てオラァ!」
がなり立て、誘拐犯二人を追う。アンジェラがじたばたと抵抗しているためか誘拐犯の足取りは重い。オールドは疾駆し、距離を畳む。小道もなく、路地裏の真っ直ぐとした道である。最高速に至るまで、そう時間はかからなかった。男たちはハイエースにアンジェラを押し込んでいようとしている。「誘拐の王道だな」と漏らし、オールドは追う。
あと二十メートル強。そう確信すると同時に、男の一人が懐から銃を取り出す。銀色のハンドガンだ。メーカーや種類は分からないが、よく見るタイプの銘柄だ。人気があるということは、性能としては、きっと悪くない。
銃口がオールドをぎろりと睨む。
ぎょっと目を剥き、オールドは横に飛び跳ねた。高く積まれたレンガに身体を隠す。こりゃまるで刑事ドラマだな。オールドはぼんやり考えた。
発砲音が路地裏を跳ねる。乾いた音と真後ろのレンガが徐々に削れる音を聞きながら、殺し屋は「銃は本職じゃねえんだけどな」とぼやく。しかしナイフ投げにしては些か遠い。
懐に手を差し入れる。煙草を一本、火を点した。肺の中で煙が躍る。揺らめく紫煙を目線でなぞり、腰のホルスターから銃を取り出した。G17と呼ばれる、角ばったデザインが特徴的な銃だ。人気も高く、特段銃への執着を持ち合わせていないオールドは好んでこれを使っている。使いやすく、よく馴染む。仕事の伴侶とする分には、申し分ない。
弾が入っていることを確認する。大丈夫、問題はなさそうだ。
「さて」
呟き、銃把を確かめる。こっちは少女を攫われている身だ。本気で撃ち合い、アンジェラをうっかり殺してしまうなんて展開は避けたい。飽くまで、牽制だ。一人くらいあわよくば撃てたら万々歳、そのくらいの感覚である。腕時計をちらりとのぞく。
ファック。二度目の定時点検も逃した。
「おチビ! 無事かお前!」
しかし決まりは決まりだ。とりあえず声を大にし、アンジェラの安否を問う。そこで、男の冷静な理性が鼻で笑った。
いや、流石にこの状況で返事は来な――
「無事じゃないの分からないの!?」
返事が来た。
こんな状況下でも律儀に返事をよこすアンジェラに、オールドは苦笑した。余程律儀な少女か、ただの阿呆である。
「そっちは無事なの!?」
加えて、雇った殺し屋の心配までする始末だ。
発砲音が一瞬静まる。
「俺なら大丈――」
物陰から顔を覗かせる。銃を左手に構え、眼前の光景を目にした瞬間さっと青ざめた。
「全然大丈夫じゃないな、コレ」
見れば、片割れがRPGを持っている。ゲームの事ではない。対戦車擲弾だ。厳密には誤りであるがロケットの推進力でグレネードを飛ばす兵器である。それを、オールドが身を隠しているレンガの壁に向けていた。
「おいおいおいおい」
顔面蒼白。
一にも二にも、殺し屋は全力でそこから跳びのいた。一瞬遅れ、兵器が発射される。
けたたましい爆音が、レンガを粉々に砕いた。砂煙が立ち上る。腕で頭を護っていたオールドが、よろよろと立つ。多少の打ち身や打撲はあっても、骨折や目立った出血はないらしい。
こんな狭い道で爆発物使うなと文句を言ってやりたかったが、男たちとアンジェラを載せた車はちょうど出発した。走って追う。車が大通りに出る。波のように流れる数多の車を見て、オールドは呆然と頭を抱えた。




