プロローグ2 JobKiller(4)
なぜわかるのか。
自分がそうであったからだ。攫った女を犯し、泣きながら助けを呼ぶ女の身体に注射針を刺す自分の声そのものだ。かつて狩る立場にいたからこそ分かる、声色だった。
「でもまあ、俺もそこまで鬼じゃない。悪魔かもしれねえが、聖書の悪魔なんて可愛いモンだ。たった十人しか殺してねえんだからな」
自身の腰に手を伸ばし、殺し屋は一つの銃を取り出す。黒塗りの、リボルバーだ。特殊な細工によって正面から装弾数が一切把握できないような覆いが施されている。
質素なリボルバー銃を、殺し屋は男に向かって投げ渡した。
「なんのつもりだ」
理解できていない男が問いかける。
「ゲームだ」
殺し屋は、なんでもないことのように言った。
「確かにアンタにゃ金しかねえ。人望もコネもなにもかも、金で買った虚像であることにゃ間違いねえさ。でも、その金を手にするだけの運はあったということに変わりねえ、そうだろ?」
不本意ながら、男は頷く。
「だったら、その運に今でも愛されているのかを見せてもらおうじゃねえか。ルールは言わずと知れたロシアンルーレット。六発ある中の三発、装填済みだ」
リボルバーを指差し、殺し屋は続ける。
「その銃の引き金を一回引け。五割の確率で死ぬし、五割の確率で生きる」
殺し屋が車の屋根に腰を降ろす。
「一回引き金引いてアンタが無事なら、運を味方につけたアンタの実力かイエス様や御釈迦様の思し召しだろうかは知らんが、この件はなかったことにして命ばかりは助けてやろうじゃねえの。言うまでもないが、このゲームを拒否した瞬間殺す」
どうする?
言外の問いに、男は銃把を握る。男に、選択肢はあってないようなものだった。耳元で脈打つ鼓動を聞こえてないふりをし、息を吸う。そのまま、祈る気持ちを胸に銃口を己のこめかみに押し当てた。
「貴様は一体、何のためにこんな事をしているんだ」
男が訪ねる。
「復讐の肩代わりなんて時代遅れ極まりないことを、まさか貴様の善意が駆り立てているわけでもないだろう」
「一応言っておくがな」
ペストマスクが口を開く――どこが口なのか全く見当がつかないものの、話し始めた。
「俺は別に慈善事業でこんなことしてるわけじゃねえ。寧ろ俺がしたいことの口実を探すために、殺し屋って稼業をしてんだよ。俺は俺のしたいことをする。『我が道を往く』ためにジョブキラーをやってんだ。正義の殺し屋みたいな、フィクションにありがちな幻想は今すぐ捨てろ。古臭くて時代遅れで大いに結構。俺は俺がしたいために、俺自身を確立させるために殺し屋をしてるんだ。文句は一切受け付けねえぞ」
殺し屋は虫を払うかのような手振りで、シッシと手を振った。正義という言葉が、この殺し屋にとってはアレルギーなのだろうか。
「一つ訊かせろ」