第六章 Spettatore(9)
オールドが慌ててアンジェラの右手を下ろすよう掴む。
「なんのつもりかな、お嬢さん」
平静を務める王の問いかけに、アンジェラは「別に」と応える。
「私はただ手を挙げただけよ。別に口を挟んだわけでもないし、あわよくば発言できるなんて思惑なんてないわ」
オールドがどうにかアンジェラの右腕を降ろそうと悪戦苦闘する中、王は笑みを一層深めた。
「若さゆえの、閃きだね」
王は続ける。
「今まで、そんな拙い方法で僕の話を遮ろうと試みる人間なんて居なかったよ」
王の笑顔は冷たい。
「でも知っているかい? 僕は自分の話を遮られることが一番嫌いなんだ。冷えた餃子よりも、矮小な島国の癖して先進国の仲間入り気分でいる日本人よりも、僕は自分の話を遮られることが耐えられない」
そして――
王は続ける。
「ここは無法の窯――ルツボだ。相手の逆鱗に触れたら殺されても文句が言えないことくらい。幼い君でも知っているだろう」
その言葉に合わせ、四方の男たちが銃を構える。
アンジェラの腕を無理矢理下げ、オールドが苦笑を浮かべた。
「おいおい王様、ここでドンパチやろうなんざ無粋の極みだぜ。コイツの無礼については後で俺がしこたま注意を促す。それでどうだ? なんなら今度、アンタが常々欲しがってた“Made in Japan”の高級洗濯機だって贈ってやるさ」
視線を右から左へ。未だ敵意の消えない警備員たちを見ながら、オールドは捲し立てる。
「これからの時代はやっぱり“スマート”じゃなきゃいけねえ。アンタだってここで無用な弾を使ったり手駒を失ったりすることは避けたいだろ? お互いがより笑顔で歩み寄れるヴィジョン確立のためにも。ここはひとつスマートに行こうぜ」
「この状況で、君が動けるとでも?」
「できるさ」
オールドは即答した。
「こう見えてルツボ屈指の殺し屋を自負してるんでね。依頼主がピンチになったら命張って闘うし、その為ならどんな奴らも殺すくらいの気概はあるつもりだぜ」