第六章 Spettatore(7)
部屋の中は、どことなく薄暗かった。雰囲気だけで言えば、高級なバーと言えなくもない。
しかし部屋の四方で銃を持っている部下がいるため、その雰囲気は限りなく台無しだ。
部下の一人が二人をソファへ座るよう促す。
「王を呼んで来る」
短く告げ、部下が部屋を後にする。
きょろきょろと視線を彷徨わせるアンジェラに、オールドは耳打ちした。
「王はかなり変な奴だから、気を付けてくれよ」
「さっきも聞いたわ」
子供じゃないんだから。アンジェラが拗ねる。
「一回言われただけで十分よ」
「それと、王の発言は絶対に遮るな。具体的には、王が話してる途中に声を出すな」
「なんで?」
見上げたアンジェラに、オールドが注釈する。
「アイツは中国人の癖して妙に潔癖症で繊細だ。特に自分の言葉を遮られると、その日は一言も喋らないなんて噂もあるくらいだ」
殊勝に頷くアンジェラを見て、オールドはとりあえず安心する。
「一応言っておくが、ご破算になって困るのはお前だってことを忘れんなよ」
言い終わると同時に、向かいの扉が開く。
「謁見だ」
部下が宣言する。それと同時に、部屋の四隅で敬語を担っている男たちが立膝を着いた。皆一様に頭を垂らし、畏敬と畏怖の念を表現している。
部屋の奥から出てきた男は、思いの外平凡だった。アンジェラは“王”という響きから、勝手にエジプトの王がするような全身に金を散りばめるスタイルを連想していた。そうでなくとも、欧米への固定観念にありがちな王冠を頭に載せ、煌めくマントを羽織っているものかと想像していた。
しかし目の前の男はどうだろう。中国付近にありがちな大陸系の顔立ちで、全体的なフォルムは丸い。特に腹はでっぷりと肉が乗り、カジュアルなズボンのベルトに乗っているような有り様だ。“王”と表現するより、“ちょっとお金に余裕があって気前のいい親戚のおじさん”程度の言葉がしっくりくるビジュアルだ。穏やかな笑みを浮かべていることも、その感想に拍車をかけていると思っていい。
単語から生じた大きすぎるギャップに、アンジェラは硬直する。
それに構わず、オールドは座ったまま頭を下げる。
あのオールドがここまでするのか。
その事実が、より一層アンジェラを驚かせたことは言うまでもない。
中国人風の王が、穏やかに右手を肩まで上げる。それに伴い、警備の男たちが起立。オールドも頭を上げた。
「お久しぶりです」
オールドの挨拶に、王はやんわりと応える。
「そう久しぶりでもないけど、形式上久しぶりだね」




