第六章 Spettatore(6)
二階に上がり、アンジェラが感想を漏らす。
「変な人ね」
「王はあんなモンじゃねえぞ」
「王って?」
アンジェラの質問に、「中国人の名字の事じゃねえぞ」と付け加える。
「このビルの住人は全員、基本的には“傍観者”ってあだ名で呼ばれている。まあ俺が自分のことを“オールドファッション”って名乗るようなもんさ」
煙草を咥え、火を灯す。
「その中でも、傍観者たちを束ねる奴がいる。そいつのことを傍観者自身もそうじゃない奴らも、みんな便宜上“王”って呼んでるだけさ」
「傍観者って何?」
アンジェラが尋ねる。
浅く息を吐き、煙を肺の外へ。
「俺も上手な説明できる気がしないんだが」
言いながら、煙を肺に泳がせる。
「まあ要するに、ルツボに関する莫大な情報バンクだ。ルツボの事なら何でも知ってる、生きた検索エンジンみたいなモンだな」
「Yahoo!キッズとどっちが凄いの?」
それと比べるのか。そう言いたげな表情を浮かべながら、オールドは話す。
「ルツボ内のことに関しては、間違いなく傍観者だ。傍観者たちの正しい人数はわからん。そいつらがありとあらゆる場所や機関に根を張り、ありとあらゆる情報が王のもとに集まる。ルツボのことをこの世で一番多く知っているのは、間違いなく傍観者の王だ」
階段を上る。一段飛ばしで足を延ばすオールドにおいて行かれないよう、アンジェラはちょこちょこと足を動かせる。
三階を通り過ぎ、四階へ。
ドアの前では、アサルトライフルを携帯している二人の男が立ちはだかっていた。
慣れているらしいオールドは軽薄な笑みを浮かべ、自身の腰に手を回した。
「そう物騒な面構えしなくてもいいんじゃねえの? 別にアンタらを取って食うつもりなんてないんだ」
言いながら、革製ベルトに引っ掛けていた折り畳みナイフを取り外す。ドアの近くに備え付けられた籠へ投げる。上着の下に携帯してあったホルスターも脱ぎ、籠へ。
のちに入念なボディチェックを経て、ドアが開かれる。
「粗相がないように」
唸るような声を適当に聞き流し、オールドは奥へ。アンジェラも倣い、部屋に入った。