第五章 Interlude(4)
あまりに素直な声援に、オールドは唇の内側を噛んだ。
「気味悪いくらい、爽やかな応援だな。何か裏でもあるのか」
まさか。カンパリはさらりと応える。
「貴方はなかなかいいビジネスパートナー(金ヅル)だから、死なれたらあたしも困るの。あたしの豊かな生活のために、これからも羽振りのいいお仕事よろしくね」
白魚のような指で、女が一枚の名刺を弾く。
「何かあったら、できる範囲で手伝うわ」
できる範囲でね。自分の領域以上はしないことを繰り返し、事務所を出る。他の面々も彼女に倣い、続々と部屋を後にする。それぞれ去り際に適当な挨拶を残し、事務所はオールドとアンジェラのみになった。
はあと息を吐き、オールドはソファに寝転ぶ。
「アホほど疲れたな、今日は」
欠伸をしながら時計を見る。もうそれなりに遅い時間だ。適当なものを腹に詰めて、寝るに限る。
「おいチビ」
「アンジェラよ、おじさん」
アンジェラの反論に、オールドが上半身を跳ね起こした。
「おじさんだと!? ふざけんじゃねえお兄さんだろ!」
「おじさんじゃない」
幼女は言い切った。
「二十歳超えたら、私の中ではみんなおじさんよ」
確かに九歳の感覚からすれば、二十歳超えた時点でそう認知されるのも仕方がないことだろう。しかしオールドにとってそれは受け入れ難く、どうしても撤回したい部分であった。
「まだ俺は二十九だぞ。今すぐ撤回しろ」
嫌よ。アンジェラは即答した。
「でも、考えてあげないでもないわ」
目を細め、まだ小さい人差し指を振る。その芝居掛かった仕草は、学芸会じみた微笑ましさと奇妙なリアリティが同居していた。天使のように艶めく亜麻色の髪と、将来性を十二分に確信させる両親譲りのルックスがなせる技だ。
「私のことをちゃんとした名前で呼んでくれるのなら、おじさんを撤回してあげてもいいわ」