第五章 Interlude(3)
「そもそもあの刺客たちがここへ来たのはあたしが不幸を貴方に運んであげたおかげよ。そうでもなければUSBの存在は一生知らなかったままだし、ここまでオールドのテンションが上がるようなこともなかったじゃない」
一理あるかもしれない。
オールドは数秒考える。しかし、ここで素直に折れることは些か許しがたい何かがあった。
「超嫌だ。絶対嫌だ、マジ嫌だ」
「ここぞと言わんばかりに一句詠むな。おまけに無季語」
マルボロの批評に、オールドが食って掛かる。
「季語は“マジ”だ。冬眠から覚めて餌を狙う時の“マジ”って言葉が、いかにも真剣だ。よって季語はマジだしなんなら“嫌”でもいい。その場で意味をこじつけてやる」
「そんなことはどうだっていいのよ」
カンパリが会話を遮る。
「ほら、あたしにもお礼の言葉を一つ」
「誰がお前なんかにくれてやるかよ」
唾すら吐きそうな勢いで邪険にするオールドを見て、カンパリが目を細める。
その様を見たアンジェラは首を傾げ、年相応の幼さを滲ませる。
「ねえマルボロ、あの二人って仲悪いの?」
マルボロの反応は鈍い。肯定するでも否定するでもなく、んんと唸る。
「俺もよく分からんが、そこまで仲がいいようには思えんな」
「じゃあ険悪?」
マルボロはソルティやインペリアルに目線を送る。他の二人も、明確な答えを持っていないようだった。
「そんな態度続けるようだと、もっとひどいの連れてくるわよ」
カンパリが脅しをかける。
しかしオールドも慣れたものらしく、鼻で笑った。
「おいおい、今度はどんだけヤバいの連れてくるつもりなんだよ。いい加減打ち止めなんじゃねえか?」
「プルトニウム一キロを連れてきてあげようかしら」
「仲直りの握手だ」
オールドが右手を差し出す。
掌が、一瞬で裏返った。
握手に応じたカンパリを見ながら、オールドは敢えて明朗な声で話す。
「やっぱり持つべきものは友達だ。常にクソみたいな厄介ごとを持ち込んできては他人に処理を任せる面の厚さを持った、ワールドワイドに通用するクソで清々しいぜ」
オールドの嫌味はまるで聞くつもりがないらしい。カンパリは笑顔で握手に応じた。
「あたしも、あなたのこと結構好きよ。都合のいい友達として」
その様を見たアンジェラが、マルボロの脇腹を突いた。
「結局、二人は仲良しなの?」
さあな。マルボロは投げるように応える。顎でパソコンを指し、それとなく促した。
「Google様ならなら知ってるかもしれんぞ」
「Googleでも分からないことは一杯あるわ」
威勢良く反論するアンジェラに、インペリアルが苦い顔をみせる。
「仮にも世界シェア一位だぞ」
「Yahoo!キッズが一番よ。ゲームもあるし」
その一言で、男連中の鼻から息が漏れ出た。マルボロは膝から床へ崩れ落ち、インペリアルは腹を抱えて壁にもたれる有様だ。ソルティも深呼吸することで笑うことを辛うじて押し留めているものの、肩が震えているために隠しきれていない。何がおかしかったのかと、少女が頭上にクエスチョンマークを浮かべる。
頃合いを見て、カンパリがオールドから手を離した。
「じゃ、頑張ってね」