第五章 Interlude(1)
アンジェラのネックレスから唐突に出現したUSBを解析した面々は、皆苦い顔をしていた。オールドの事務所にはカンパリやソルティ、噂を聞き付けたマルボロや勢い余ってインペリアルすら押し寄せる始末だ。
「インペリアル、お前店はいいのか?」
「じゃあ営業再開できるくらいに復興させてくれよ。そうすりゃ喜んで店に帰るさ」
「悪かったよ、そう拗ねんなって」
パソコンのディスプレイを見たソルティが、口をへの字に曲げる。
「これは、なかなか困ったね」
マルボロも頷く。
「まさかこんなに大きな話だったとはな」
オールドは深く息を吐いた。下がったテンションを引き戻すように、煙草を口へ。火を点け、しみじみと言った。
「まさか外も絡むなんてなあ」
ルツボは基本的に、閉じられた世界だ。食品や生活用品等は全国から集まり小売業者が販売しているようなものだが、基本的にルツボの中で起きることはルツボ内で処理するのが前提である。ニコラスを殺した仇は、その決まり事に風穴を開けようとしていたと言っていい。ルツボの外で蔓延るヤクザやマフィアたちと、懇ろになろうとした結果なのだろう。それを摘発しようとしたニコラスを煙たがり、殺した。
そもそもルツボは、麻薬の売買程度で刑罰を負う世界ではない。ただそれをあまりに過剰な売買でルツボ内の秩序を下げることや、外の都道府県と売買することは厳禁とされている。
また警察も存在せず、ニコラスが所属していたような自警組織しか存在しない。されど、秩序は存在するのだ。あまり外の世界で問題を起こすと、干渉が始まる。今のルツボを好む者たちにとって、何がなんでも避けたい事態の一つでもあった。
「これからどうするつもりだ」
尋ねたマルボロが、オールドの冷蔵庫から勝手に瓶ビールを取り出す。歯で栓を開け、直接飲み下す。オールドがそれをひったくり、同じくがぶ飲みする。
さて何を言うか。
一同の注目が集まる中、オールドは赫々(かっかく)とした目で話し始めた。
「クソ面白そうじゃねえかこれ!」