第四章 Cocktail Party(13)
「お、おお……」
何が起きるのか想像もできない中、アンジェラは気丈に歩く。
襲撃者の隣に立ち、目線をオールドへ。
「ちょっと聞きたいことあるから、この男の時間を頂けるかしら?」
好きにしろ。
そう言いたげな目で頷き、オールドは煙草を口へ。火を灯し、近くの椅子へ腰かけた。念のため、何があってもいいように銃だけは忘れず握る。念には念を入れ、アンジェラが来る前に男の自由は手首を結ぶことによって拘束してある。アンジェラがそばによっても、大丈夫なはずだ。
この少女が何をするのか。僅かな興味があったオールドは、少女を見る。
「さっきは素敵なサプライズライブをありがとう、オジサン」
アンジェラが襲撃者に微笑む。その拍子にウェーブがかった髪が揺れた。あどけない笑みと可愛らしい顔が相まって、本物の天使と錯覚してしまっても致し方ないだろう。
勿論それを皮肉だと知っているのだろう、唾でも吐いてやりたい顔をさせながら、男はアンジェラの言葉を待つ。
「なんで私たちに銃を向けてきたのが、理由を教えてもらえる?」
人道的な尋ね方をしたアンジェラの態度と反比例して、男は汚い笑みを見せる。
「誰がお前みたいな奴に教えるかよ」
歯を見せ、挑発する。
「パパとママに訊いてみたらどうだ?」
そこで、男は思い出したように「ああ」と付け加える。
「そういやお前の親は最近死んだんだっけな。随分間抜けな死に方だって聞いたぜ」
アンジェラの顔から、笑顔が消えた。
人の顔に温度や気温があるとすれば、先程までの微笑みは二十度前半の過ごしやすく、暖かさと柔らかさを持った顔だ。
しかし今はどうだ。凍りついている。今アンジェラの顔に触れたら指先から凍って壊死してしまうのではないか。そう思わせる迫力と静かすぎる怒気が、彼女の中で牙を研いでいた。
しかし、彼女は飽くまで冷静だった。
「パパが生前こう言っていたわ。『人は敬意の生き物だ。互いに敬意を払い、人である内は、アンジェラも最大級の敬意を以て相手と接しろ』とね」
アンジェラが、もう一度微笑む。先程のような顔の筋肉全体を使った笑みではない。目の筋肉が、一ミリも動いていなかった。変化をもたらしていたのは、口周りの表情筋だけである。
「これが最後よ、襲撃者さん。クズに堕ちたと言え、私も誰かが悲しむようなことはできる限り避けたいの。だからここは、お互いに“人として”対話をしましょう」
「九歳とは思えないな」
ソルティの独り言に、カンパリやインペリアルも顎を引く。
「アンジェラちゃん、あたしみたいな裏切らせ屋とか交渉屋とかになれるんじゃないかしら」
真剣に考えるカンパリに、オールドも心の中で賛同する。九歳とは到底思えない態度と、あくまで相手と対等で情報を引き出そうとする姿勢は驚嘆の一言だ。
アンジェラの最終勧告に、男が笑う。
「消えろチビ」
なるほど。
呟き、アンジェラは深く息を吸った。
「“人間の時間”は終わりね」
「やめとけ」
オールドが口を挟む。
「こいつはきっと、普通のやり口じゃ吐かんぞ。曲りなりとも組織の下っ端だ。あっさり組織売るのは自分の命にかかわるからな」
でしょうね。
アンジェラの返答は淡白だった。
「だから“人間の時間”は御仕舞なの」
言うが早いか、アンジェラはその手に持っていたクリスタル灰皿をフルスイング。男の顔面を、真正面からとらえた。




