第四章 Cocktail Party(12)
「一応礼は言っておく、助かった」
「オールドがそうやって時折素直になる時は、大抵ロクでもないことが起きる前兆なのよね」
無作為にロクでもないことをオールドへ運ぶカンパリが、ぼんやりと話す。
「お前のおかげで、こちとらトラブルの在庫にゃ事欠かねえよ。注文した覚えはないんだが、次から次にウチへ来るんだ」
「大変なのね」
まるで他人事。自分には一切関係がないような顔をするカンパリに、オールドは祈るように尋ねる。
「クーリングオフはないか?」
「ないわ」
即答。
満面の笑顔で切り返すカンパリに、聞こえないよう「超絶ドス黒ブラック業者の鑑だな」と呟いた。万が一聞かれて従前以上の面倒事を持ち込まれては、たまったものではない。
そのやり取りを見計らったかのように、曲が終わった。夢の時間はおしまいだ。
「それにしても」
インペリアルがバーカウンターから顔を出し、憎々しげに息を吐く。
「なんだってコイツらは、いきなりウチで発砲なんてしやがった」
その点に対しては、オールドも明確な解を持ち合わせていない。ニコラスを殺したらしい裏切り者が、面倒な手間暇をかけて一人の小娘を狙う理由がまるで存在しないのだ。
加えて、相当弱い。オールド自身の強さもさることながら、ルツボの人間としては少々資質を疑われる程度には弱かった。多分ルツボの殺し屋を雇ったわけではないのだろう。外の人間を雇った――そもそも殺し屋ですらないのかもしれない。暴力団の末端が、何一つ事情を知らされぬままアンジェラの命を狙うことを命じられた線が濃厚だ。そうでもなければ、ルツボの殺し屋にしては粗末すぎる。
「ねえオールド、一人くらい生きてる?」
アンジェラの問いに、オールドは視線を流す。壁にめり込んだ男はソルティが殺したのだろう、身体にいくつもの穴が開いて血を流していた。
唯一生き残っている男を発見する。死体の下に敷かれ、身動きを取ることができなかった男だ。必死に死んだふりをしているようだが、殺した数を間違えるオールドではない。適当に拾った銃を突きつけながら、男に呼びかける。
「死んだふりなんてつまらん真似は辞めて、ちょっとお話ししないか? 拒んだら殺す」
呼びかけではなく、明確な脅迫だ。しかし男に選択肢がないことは火を見るより明らかであり、閉ざしていた目を開ける。
「アンジェラ、ひとり生きてたぞ」
オールドの返答に淡々と頷き、アンジェラはインペリアルを見る。
「灰皿、あるかしら?」
「アンジェラちゃん、まさか吸うのかい?」
ルツボには、飲酒喫煙にまつわる法律が存在しない。寧ろ殺人等に関する方もあってないようなものだが、それが生きやすいとする人間も多いのが現実だ。
アンジェラのように見ただけで育ちの良さを認識できる少女が灰皿を要求することに、インペリアルはたじろぐ。しかし拒むわけにはいかない為、クリスタル製の灰皿を手渡した。
「ちょっと、これを使わせてもらうわね」