第四章 Cocktail Party(9)
銃撃が止まる。再び、襲撃者たちが弾をこめ直しているようだ。或いは、一向に反撃の気配を見せない男たちに不信感を抱き、様子見を決め込んでいるだけなのかもしれない。そのどちらにせよ、オールドにとってはこの上なく好都合だった。
ばん、と大音量がコンポから飛び出す。サックスやトランペットが示し合わせて突き出した、張り手にも似た一音。反射的に襲撃者が音源に首を向け、その瞬間を待っていましたと言わんばかりにオールドが跳んだ。バーカウンターを右足で踏み込み、跳躍する。天井に吊るされたライトが男を照らし、怪物じみた影を作る。
着地と当時に、サックスたちが一糸乱れぬ動きで大きくうねる。
――開演。
「奴だ!」
一人が叫ぶ。発砲と同時に、再びサックスとトランペットが吠えた。
ベースパートが低く蠢めく。ずるずると這いずるように、ボルテージを高める。
オールドが負けじと張った。
「遅えんだよ素人!」
明後日の方向へ飛んだ銃弾には目もくれず、床を蹴る。近くにいた男に、ぐんと接近した。まだリロード中だったらしく、その顔には多分の焦りが滲んでいた。眉をハの字にして口角を下げている状態も、克明に観察できるほど近い。
オールドは上着の内側に手を入れ、一振りのナイフを取り出す。全体が黒く刃渡り十五センチ近くの、コンバットナイフだ。
男が何もできないまま、オールドは相手の右腕を切った。ひゅん、と、風を裂く音が疾る。
ナイフの軌跡を、赤い尾がなぞる。ぎゃ、と男の醜い叫びを遮るように、愛用のナイフを喉に突き刺した。手首を捻り、傷口を拡げる。蛇口を失った水栓かと言わんばかりに、赤が噴き出した。
「一人目」
淡々と告げる。足を痙攣させて白目を剥いた男を、抱き寄せる。男が女に接吻を求めるかのごとく、力強く、色気に満ちた腕付きだった。
一瞬遅れ、発砲音が跳ねる。鉛玉が、ばすばすと男の背中に突き刺さった。
ナイフを持ち替え、死体を盾にしたまま右腕のしなりだけでナイフを投げる。鋭く空を切った刃物は、吸い込まれるかのように一人の眉間に突き刺さった。
「二人目」
二人目の犠牲者が倒れるより早く、オールドは死体の腹部に右足を添える。狙いを定め、力一杯男の体を蹴り上げた。肉の塊が、空を舞う。腕を切られ喉を刺され銃弾の盾にされた哀れな死体は、力強く蹴られ仲間の体にぶつかった。勢いよく飛んだ肉袋が衝突したことで、男の一人が背中から床へ倒れこむ。取り敢えず一人の動きを大きく制限したことにより、オールドの動きやすさは格段に跳ね上がった。




