第四章 Cocktail Party(8)
一瞬遅れて、大人たちが噴き出す。
「素晴らしいわアンジェラ。あなた天才ね」
「センスある」
「大きくなったらウチに来い。客からの人気は堅いぞ」
年長者たちの賞賛を一身に浴び、アンジェラは面映ゆいながらも得意気に唇を曲げた。
「一本取られたな、ジョブキラー」
インペリアルの茶化した声に、オールドは不満げながらも大人しく認めた。
「見事にしてやられたよ。俺の負けだ」
「話は振り出しに戻ったけど、これからどうする?」
ソルティの提起に、オールドは何でもない事のように言い放った。
「全員殺す」
その返事が来ることは想定済みだったのだろう。誰も異を唱えない。
「手伝おうか?」
ソルティが懐から銃を取り出す。小振りのハンドガンだが、武器を抜かることなく携帯している。“もやし”と小馬鹿にされても仕方ない体つきだが、腐ってもルツボの住人だ。
ソルティの提案に、オールドは親指を立てる。
「ありがたい。メインは俺が大暴れするから、適時サポート頼む」
頷くソルティに白い歯を見せ、オールドはカンパリを指差す。アンジェラの背を叩き、短く告げた。
「お前はこいつ頼む」
「そのくらいでいいなら、喜んでお受けするわ」
アンジェラを手元に引き寄せたカンパリが、穏やかに微笑む。アンジェラの頭を優しく撫で、囁いた。
「大丈夫よ。こんなのみんな慣れっこだから」
「インペリアル、店のコンポはまだ使えそうか?」
オールドの問いに、インペリアルが顎を引く。
重畳。
オールドはニタリと笑った。
「何が起きるの?」
アンジェラが無垢に問う中、男は自分の腰に手を回した。得物を確認しながら、「いんや」と応える。
「まあ、見てりゃわかる」
意味深な物言いに、アンジェラは首を傾げた。
「曲はどうする?」
インペリアルが近くにあった箱を漁りながら、複数枚のCDを取り出す。
「今日は派手にキメたい気分だ」
犬歯を見せつけ、男は至高の笑みを作った。
「Michel CamiloでOn Fireを頼む」
いいセンスだ。インペリアルが口の片端を上げる。それに伴い、鼻の下の髭も形を変える。
「本当は生演奏が一番脳にも股間にもクるんだが、今日は銃弾雨あられの悪天候だ。ナマは駄目な危険日ってな」
「ギネス級に下品なジョークだ」
カカカと笑うオールドに対し、ソルティが頭を振る。
「生演奏が下品なジョークなの?」
何も知らないアンジェラが、疑いを抱かぬ目で尋ねる。
「なんでもかんでも、生がいいってわけじゃねえ。うっかり当たっちまわないよう、時には生を避けるのも大人の振る舞いってやつだ」
よくわかっていないらしいアンジェラは、「楽器の生演奏って、そんなに奥が深かったのね」感銘を受けていた。青い瞳を輝かせ、珍しく尊敬の眼差しでオールドを見上げる。
「アンジェラの将来のためにも、オールドはここで死んだ方がいいんじゃないかな。今なら撃って殺せる」
銃の状態を確認しているソルティの一言に、カンパリとインペリアルも頷く。
「あれぐらいの娘がいる身としては、アンジェラちゃんが恐ろしく不憫だ」
「教育上、あの男だけはあたしも駄目だと思うわ」
三人が密かにアンジェラの将来を案じる中、オールドは舌で唇を濡らした。
「好きなタイミングで始めてくれていいぜ、マスター」
はいよ。インペリアルは陽気に応える。
「久々のソロだ。人の店でいきなり銃撃ったクソ客どもを手厚くもてなしてやれ」
「もちろんそのつもりだ」
目を爛々と輝かせ、オールドは煙草を咥えた。
「世界中で一番アツいソロと命の鼓動と、あとなんか色々を振りまいてやる」




