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オールドファッション  作者: 僕と久保
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第四章 Cocktail Party(6)

 オールドが叫ぶ。それが火蓋であったかのようなタイミングで、銃声が一斉に店内を跳ねまわった。

 凶弾が店を荒らすコンマ数秒早く、少女を抱えたオールドはバーカウンターを飛び越えて身体を隠す。カンパリも、オールドに倣って無事避難できたようだ。着地の際に、アオザイの裾がひらりとはためく。

 どうやら狙いはオールド――或いはアンジェラらしく、他の客には目もくれずバーカウンターに対して執拗な銃撃が迫る。木材の弾ける音や銃声をはじめとして、男の耳に様々な音が流れ込む。中には「祭りだ!」と囃す野次馬の声まであり、オールドはわざとらしく溜め息を吐いた。


「マジ勘弁してくれよ。これでトラブル呼ぶのは何回目だ?」


 オールドの指摘に、カンパリは声を張る。


「別のあたしのせいじゃないわよ。あたしが貴方に会ったらこうなるってだけ。あたしは悪くないわ」


 この疫病神め。男は心中で悪態をついた。

 オールドはどうも、カンパリと運の巡り合わせが致命的に悪い。彼女に会った日は、決まって乱痴気騒動に巻き込まれる。銃弾が好き勝手飛び交い、ナイフが乱舞し、血の華が咲き乱れる。オールド自身それを楽しんでいる節は大いにあるものの、しかし唐突に訪れるゲリラライブは些か健康に悪いと言わざるを得なかった。


「俺一人ならまだしも、依頼主がいる状態でこの大騒ぎは勘弁してほしいんだけどなあ」


 目を白黒させているアンジェラを尻目に気のない声で呟くオールドが、近くにあった適当なビール瓶を掴む、開封し、銃声が鳴りやんだ瞬間を見計らって顔を出した。


「ヘイヘイそこのお兄さんたち、ちょっと落ち着こうぜ」


 バーカウンターにビール瓶を置き、徐々に体を上げる。


「何が目的だ? いきなりイチモツをモロ出しなんてスマートじゃねえ。酒でも飲みながらゆっくりとお互いのことを知って行こうぜ。その後ホテルで一つのベッドを共にしながら、睦言交じりに情報交換だ。俺はバイだから、なんの心配もいらんぞ。全力で可愛がってやる」


 満面の笑顔で、両腕を広げる。

 リロードを終えた一人が、無言でオールドに銃を向けた。


「ま、そうなるわな」


 オールドは慌てて身を隠す。一瞬遅れて銃声が轟き、瓶の割れる音が聞こえる。コンマ数秒後に、金色の液体がオールドの髪に降り注いだ。どうやらバーカウンターに置いたビール瓶が撃ち抜かれ、中身がオールドにピンポイント豪雨として迫ったらしい。

 べったりとビールが付着した黒髪を見て、アンジェラが腹を抱えて笑う。それに構わないようにと自身を制しながら、オールドは髪をかき上げた。

 同じくバーカウンターの内側に避難していた男が、そそくさとオールドに寄ってきた。


「災難だね」


 黒髪を柳のように垂らす男の名は“ソルティ”。カクテルのソルティドッグをこよなく愛する、武器商人だ。戦闘職でない為かやけに細い四肢と一切表情が読めない顔が特徴的な男だ。


「なんだソルティ、お前もいたのか」


 オールドは陽気に右手を挙げる。「お前こそ、いろいろ災難に思えるけどな」

 まさしく。そう言いたげに、ソルティは首肯した。


「そんなことはどうだっていいんだよ!」


 もう一人、バーカウンター内部で避難している男がいたようだ。バーテンダーが着る服を身に包み、鼻の下に立派な髭を蓄えている。


「なんでお前たちはそうやってトラブルばかり持ち込むんだ! こっちは静かで落ち着いた、客の心を癒すバーを経営したいだけなんだぞ!」


 今にも泣きそうな声で男が叫ぶ。彼こそが店長――“インペリアル”だ。インペリアル・フィズを愛する、バー“Raving”の店主である。


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