第四章 Cocktail Party(5)
「それにしてもカンパリ、お前がここに来るってことは仕事か?」
オールドの問いに、女は首を横へ。最寄りから椅子を取り寄せ、当たり前であるかのように腰かけた。
「今日は気分よ。なんとなく、ここへ来たくなったの」
目線で店員を呼び、一言。「カンパリオレンジを頂戴。オールドの奢りで」
「ふざけんじゃねえよクソが」
男は頬杖を突き、依然として不機嫌な顔つきだ。
「帰れ、今すぐ帰れ。俺の心と世界が平和な内に消え失せろ」
ずけずけとした物言いに、カンパリは悩ましげに腰をくねらせる。自分自身を抱きしめるようにし「つれないわねえ」と溜め息を吐いた。
「オールド、レディにその物言いは紳士的じゃないわ」
横から口を挟んできたアンジェラを、オールドは追い払う手つきで黙らせる。
「ガキは黙ってろ」
「ガキですって!? こんなレディにガキだなんて信じられないわ!」
憤怒するアンジェラを視界から外し、オールドは煙草を咥える。運ばれてきたカンパリオレンジを飲むカンパリに、「帰れ」と端的に告げた。
「なによ。あたしみたいな美女が同席すれば男冥利に尽きるでしょ?」
「お前以外でお前レベルの女なら大歓迎だ。酒の一杯なんてケチ臭い事言わねえで何十杯でも奢ってやりたいところだが」
一息おいて、男は女を指差す。
「ただしカンパリ、テメーは駄目だ」
「どうしてそこまで嫌うの?」
女は右手を自身の右頬に当てる。あまりにもわざとらしい挙動も、ハリウッド顔負けのカンパリがすれば様になった。『絵になる』という言葉は、彼女のためにあると言っても過言ではないような気さえしてくるから不思議だ。
「お前まさか自覚ないのか」
煙を吐きながら、男がげんなりした顔で話す。訳が分かっていないアンジェラが首を傾げる中、男はふと目線を逸らした。
七人の男が、店に入ってきた。みな一様に顔つきは険しく、堅気の人間とは思い難い雰囲気だ。殺し屋をはじめとして様々な人間が出入りするバーであるため堅気ではない人間の存在もむしろ自然。だが、この七人組は顔に緊張を滲ませている事やあからさまに慣れない雰囲気で落ち着かない目線も、物騒なバーとは似ても似つかわしくない何かを感じさせた。
入店するなりせわしなく首を振って何かを探す挙動も、怪しさを膨らませている要因と言えるだろう。
「おいカンパリ」
酒を飲みながら、男は尋ねる。
「アレはお前のお連れさんか?」
カンパリは素っ気なく首を横へ。
しかし男たちがアンジェラ見た瞬間、各々が懐へ手を差し込ませる。
オールドは「嗚呼」と呟き、ぼんやり漏らした。
「なるほど、『また』このパターンか」
席を立ち、素早くアンジェラの首根っこを引きあげる。アメリカンフットボールでもするかのようにアンジェラを抱え込み、カウンターに向かって全力で駆け出した。
「総員避けろォおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!」




