第三章 Hit the ground running(3)
アンジェラは、深く息を吸う。
燃える様な瞳でオールドを射抜き、短く告げた。
「パパとママを殺したヤツを、殺して頂戴」
少女が口にするにしては、あまりに物騒な言葉が部屋に響く。鈴の様に愛らしい声も、この時ばかりは重々しく、鋭い。
「ま、そりゃそうだろうな」
オールドは寧ろ当然と言わんばかりに頷く。
「驚かないのか」
マルボロの問いに、「当たり前だ」と返した。
「仲介屋のお前がこいつを俺の元に通した時点でそれ以外ねえだろ。本当にチャイルドシッターとして俺に繋いだのなら、そのアホさと愚かさと蒙昧さと馬鹿馬鹿しさを讃えて一連の顛末を電子書籍化してやる。ギャラは勿論俺のものだからな」
「俺のノンフィクションなら俺にもギャラをくれよ」
文句をぶつけるマルボロに対し、オールドは親指で自分の首を斬るパントマイムを見せつけた。
「安心しろ。その頃には俺がお前を土に還してるからギャラは俺の総ナメだ」
「じゃあ俺でなくてもいい。家族に少し分けてやってくれ」
「その設定は初耳だが、何人いるんだ?」
「アフリカに三人、ソマリアに五人」
「その内カカオ農場で働いてんのは何人だ?」
「一人もいない。みんなプロの水泳選手だ」
沈黙が降りる。自信満々に言い切ったマルボロを見て、オールドは吹き出した。
「猿でもわかるような嘘を堂々と吐くな」
にやけるオールドに対し、マルボロは確認する。「でも面白かっただろ?」
「悔しいが笑った。俺の負けだよ、今度一杯奢らせてくれ」
両手をひらひらと振り、オールドは少女に向き直る。
「すまなかったな、脱線した」
一応確認させてくれと前置きを据え、オールドは話す。
「お前さんは、親の仇をとりたい。だからマルボロを介して、俺に依頼した。これでいいか?」
アンジェラは首肯した。
「その通りよ。パパとママの仇をとってほしいの。親友だったパパを裏切って殺した罪を、その体で贖ってもらうわ」
成る程。呼気に混ぜてオールドは呟く。タバコを一本、咥えて火を点けた。
「今から、クソの役にも立たねえ正論を言う。お前さんにとっちゃまるで無駄な代物だとは重々承知だが、一応言わせろ」