魔王の刻印~2
「逃げるな。大人の口づけをもっと教えてやる。」
ユリウスは、沙也を壁際に追い詰め、そして、その上から、覆いかぶさるようにして、口づけを与えた。
「あ・・・」
ユリウスから濃厚な口づけを受けて、沙也は、思わずうめき声を出してしまった。ただでさえ、カッコいいユリウス様が、舞踏会の正装をしているのだ。殺傷力満載の色気を存分に湛えて、沙也の唇に触れている。
・・・これを拒める人がいるのだろうか?
この前、ユリウス様と口づけを交わした時のことを思い出して、ゾクゾクとした感覚が蘇った。
「沙也・・・そうだ。素直だな。いい子だ。」
ユリウスは、濃い紫色の瞳に、うっとりとした色を湛えて、満足そうに微笑んだ。沙也の髪の毛をゆっくりと撫でた。
ユリウスは、沙也をみて、毒のある瞳で、甘い笑みを漏らした。ユリウス様は、麻薬のようだ。溺れたら、抜けられないかもしれない・・・
でも・・・私たちは確か、「上司と部下」の関係だったはず・・だよね?
「まっ、魔王様っ?」
何処から出てきたのかわからないくらい上ずった声になっていた。
「なんだ?」
邪魔をされて、少し不機嫌そうなユリウスの顔があった。
「えっと・・・私たちは、その・・・そういう関係ではないように思うのですが・・・」
おそるおそる申し上げてみた。
「そういう関係とはどういう関係だ?」
メンドクサイことを言うな、と言いたげな顔をした魔王様がいた。
「えっと・・・私たちは、その・・・恋人同士、と言うか、そういう関係なのですか?」
「そうだ。」
えっ? 沙也は、意外な答えに戸惑った。そんな話一度もなかったじゃん・・・
「だから、こうしてよいのだ。」
ユリウスは、再び沙也の首筋に唇を這わせた。
「ユ、ユリウス様は、私のことが好きなのですか?」
「ああ、好いておる。でなければ、これはないだろう。」
「わ・・・私は、ユリウス様に、まだ告白しておりませんが・・・」
いや、好きなんて、まだ言ってないから。と言うか、そんな大それたこと言えないよ。
「それはまたいずれでよい。今日は、とりあえず、余のものになれ。」
「ユ、ユ、ユ、ユリウス様?」
さらに上擦った声しかでなかった。
まだ、口づけしかしたことないのに・・・いきなりそれはハードルが高すぎる!
「ま、まだ・・・その心の準備ができていない・・と言うか、いきなりそれは早すぎると言うか・・・」
「残念だな。そなたは、もう余のものだ。」
「どうして?」
「その首の刻印には、余の魔力が込められておる。それは、男の所有の証。そなたは、もう余のものなのだ。」
魔王は、ニヤリと黒い笑みを漏らした。
「えええっ?」
沙也は、思わず、首元の印をみた。紫色の形をした魔術刻印だった。
「潔く諦めろ。それは、絶対に消えぬようになっておる。」
「まさか、これを消すと呪われたりするとか・・・??」
「さあな。試してみるか?」
そこには、恐ろし気な魔王様の氷のように美しい笑顔があった。美しい紫色の瞳は笑ってはいなかった。怖い・・・怖いよ。
「いや・・・その・・・それは、私にはまだ早いかと。」
「そなた、もう24であろう?」
「はいそうですが。」
こ、これは・・・そのまま、「ア~レ~」とか、なってしまいそうなパターンだ。 『くるしゅうない、近うよれ』とか、言う、あの典型的なパターンになるのか? なってしまうのか?!
「往生際が悪いぞ。」
慌てる沙也を後目に、魔王様が眉を顰めて、不機嫌そうに呟いた。
・・・そんなこと言われたって、こちらは、心の準備と言うものがまだできていないのだよ。そういうことは、覚悟ができてからにしてほしい。
「ちょ・・・ちょっと陛下!」
ユリウスがいきなり沙也を抱きあげた。
「黙っていろ」
その瞬間、ユリウスが魔力で強制的に移動した。
転移した先は、ユリウスの私室だった。